1月1日 9時26分

 気が付くと私は、空き地に立っていた。

 ここは、悠久の近くにある空き地だ。隅に立っている大きな木に見覚えがある。


 舗装されていない地面が、私の足を刺激する。

 幸いルームソックスを履いていたため、歩けないことはなさそうだ。


「靴は?」

「鏡に触れた時履いていなかったので履いていません」

 事務的な返事が少し気に障る。ルヴァくんみたいな声でそんな冷たいことを言わないで欲しい。


 辺りを見渡してみるが、誰もいない。辺りは工場が建っており、人の気配はない。

 大方正月休みを取っているのだろう。


「どこにいるんだろう」

 スマホの地図を確認すると、私の近くに神社マークが2つも付いていた。

「進行役さん。あの木です」

 木は1本しか立っていない。誰もいないが、近づいてみることにした。


 とても大きく、立派な木だ。

 樹齢なんて私には分からないが、何十年もここに立っているのだろう。


「私に用か」

 何処からか、気の強そうな女性の声が聞こえた。姿が見える訳ではないが、それがこの木の声なのだと理解した。


「えっと、その、私は神様運動会の進行役で」

「ああ、あの下らない会の」

 ちゃんと企画のことは知っていたようだ。

 酷い言われようだけど、参加してくれるだろうか。

「明後日開催するので、集まって貰えたら」

「分かった。姿を準備するのに必死で、まだ開催が先だと高を括っていた」

「姿?」

 思わず聞き返してしまう。


「うむ。普段私は姿なぞ作っていないのだがな。なんだ、動画とやらを撮るから姿を作れと言われたのだ」

「そうなんですね」

「そうだ、進行役。良ければ姿を確認してくれないか」

「私が?」

 私は面食らってしまう。

「人間なのだから、動画とやらにも精通しているだろう。参加する神の中で最も美しいと人間から称えられたい」

 そう言われて私は気づいた。


 神様運動会の参加者なのだから、参加者は神様だ。当たり前のことだが今気がついた。

 つまりこの木も神様。


 私は今、神様と話しているんだ。


「出来ぬのか?」

 苛立ちを隠さず、木の神が訊ねる。

「分かりました」

 先程より、自分の声が緊張しているのが分かる。

「では、見るが良い」

 木の根元が強く輝く。手庇で光を防ぎながら目を細めてみると、そこには鉄骨が置いてあった。

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