1月1日 8時40分

「あの、進行役って私のことですか……?」

 このままだと埒が明かない。

 不気味ではあるけれど、返事を返してみた。

「もちろん!」

 相手の顔が見えるなら、満面の笑みをしていそうな返事が返ってくる。


「私、身に覚えがないのですが……。人違いでは?」

「そんなことはありません。名前を聞いてもいいですか?」

橋ヶ谷はしがやあきです」

「進行役さんで間違いありません!」

 自信たっぷりな返答に肩を落とした。


「いや……あの……」

「どのような理由で橋ヶ谷さんを指名しているのでしょうか。可能であれば姿を見せてお話できませんか?」

 背後から威圧感のある声がする。

 声の主は、エプロンを着けたまま、腕組みをして睨んでいた。

「あっきー……」

「姿かぁ……見えるかなぁ……?」

 相手も困惑している様子。


 何も起きないまま、しばらく室内にテレビの音声だけが響いた。


「あの、見えないです」

 しびれを切らして、私は言った。

 あっきーは無言でコタツに入り、先程食べていたお雑煮を食べ始める。

「ですよね……」

 声の主もため息混じりに言うが、こっちがため息をつきたい。


「あの、私に何を依頼したいのでしょうか?」

「神様運動会の進行をお願いしたいのです」

「運動会?」

 運動会なんて高校以来縁がないし、役員になった覚えはない。

 この推しに似たイケボは何を言っているのだろう。


「最近、人間の間で信仰心が薄れ、季節の行事も行われない事が増えました。これは神様界隈の危機です」

 なんかアニメみたいなことを言い始めた。

 頭を抱える私を知ってか知らずか、イケボは話を続ける。


「人間について調査をし、それを元に会議を実施しました。その結果、人間に興味を持たれるような行いをすることになりました」

「その1つが、その神様運動会なんですか」

「そうです!」

 推しが胸を張っている幻覚が見える。


「人間の間では、新年に運動会をするのが流行っている様子。運動会を行って動画を取り、それを流行りのインターネットに投稿すれば、人々も神様の存在を忘れないでしょう!」


 これを現実だと思いたくなくなってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る