12月31日 10時29分
山道を登り、中腹付近に建てられた平屋の前に愛車を停めた。
以前来た時には敷かれていなかった砂利が敷かれている。
去年、大雨が降って、愛用のスニーカーを泥だらけにしたことを管理人に愚痴ったから敷いてくれたのかもしれない。
ここが目的地、私の大切な寛ぐ空間だ。
「アキちゃん」
車を降りて荷物を降ろそうとした時、背後から名前を呼ばれた。
振り向くと、作業着を着た高身長の男が立っている。
「久しぶり、あっきー」
「うん」
駆け寄り、ハグをしようとする私を寸前で止めるこの男は
この宿泊施設『悠久』の管理人であり、私を25年間振り続けてきた男だ。
読者モデル経験有りで、現在大人気カフェ経営者の私になびかない理由が私には分からない。
理由を聞いてもはぐらかされてしまうし、長年の謎だったりする。
「着くの早いね。明日着くんじゃなかったの?」
あっきーはそう言うと、ニコリともせず私を見てくる。宿泊施設の管理人のくせに愛想がなさ過ぎるけど、そんなクールな所が好きだったりもする。
「あっきーに綺麗な私を見て欲しくて、エステ行った足で飛んで来ちゃった」
「やっぱり車新しくなってる」
キスしやすいように顔をあっきーに向けるが、あっきーの興味は私より車だった。
私から離れ、車を眺めている。
「ちょっとあっきーさん……」
「最近のモデルだ。こんな田舎に来るのに勿体ないくらいの」
舐め回すように車を眺めているあっきー。長年好きな私は知っている。あっきーが車好きなことを。だから私も車好きになった。
「山道運転するんだから、SUV系買えばいいのに。今からでも乗り換えろ」
「半年前に買ったんだからまだ乗り換えないよ。仮に買い換えてこの車どうするの」
「俺が乗る」
真顔のまま、私にピースしてくるのは、あっきーなりの冗談と知っている。
あっきーが車から私の荷物を取り出し、中に入る。私は後を追う。
心待ちにしていた年末年始の始まりだ。
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