位置について!
獅子倉八鹿
プロローグ 正月前
愛車の中で、私は正月が待ち遠しい歌を熱唱する。
助手席にイケメンの彼氏でもいたら熱唱なんてしないけれど、そこに乗っているのは私の推しのぬいぐるみ。
私の熱唱に文句なんて言わず、不敵な笑みを浮かべている。
「あれ歌詞どうだったっけ」
気持ちよく歌っているのに、次が分からない。凧をあげるのか餅を食べるのか。
首を傾げたところで思い出しはしない。
後ろに友達が座っていれば、この後の歌詞を聞けるけど、後部座席に鎮座しているのは先程スーパーで買った餅と屠蘇散、あとおつまみのさきいかだ。
餅も屠蘇散もさきいかも、答えを教えてくれない。
「なにするんだっけ。ガチャ?」
絶対違うけど、諦めがついた。
目の前の信号が黄色になる。
それを確認すると、私はクラッチを踏み、シフトレバーを操って愛車を減速させた。
人通りの少ない道路だからか、信号はすぐに赤色から緑色に変わる。
あったかいこたつで年始の特別番組を見る。
楽しい三が日が、私を待っている。
人通りの少ない田舎道に、黄色のスポーツカーが唸りをあげ、走り去っていく。
その音に反応し、神社の鳥居の影から、狐が顔を覗かせた。
幼稚園児程の大きさの狐は、鳥居の傍を走り去ったスポーツカーの後ろ姿を見ると目を輝かせた。
「進行役さんだ!」
道路まで出ると、高く飛び上がる。
軽自動車程の大きさに変化して着地すると、スポーツカーを追いかけていった。
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