天体衝突 ~ 上弦の宵 ~

「イマからアナタのホームにイソウロウさせてくださいっ‼︎」

 透き通った声でもう一度、高らかにそう宣言する謎の少女。輝きを湛えた黄緑色の瞳が、私を真っ直ぐ見据えている。

 ……ただ、いやこれは当たり前なのだけど……。

「き、急にそんなこと言われましても……」

「エー!」

 出逢って早々、なんて、そんな話が通るわけない……。

 そもそも、私自身がこの状況を把握できていない。人生初の大困惑だ。

「アナタを見て、ビビッとがカモンしたのにナー」

「そ、そのふさげた口調、なんとかならないの……?」

 先から日本語と外国語が入り混じった話し方をする彼女。ただでさえ混乱している脳がますます混乱しそうだ。

「アー、地球語ってでぃふかるとナンですよー」

「地球語って……。あなた、ほんとに何者……?」

「アレ、さっき自己紹介しまシタよ? ワタシはアミティア=ネプチューン! ☆♪$↑星で生まれた生物学上メスのワカモノです‼︎」

「そうじゃなくって!」

 だめだ。話が通じない。……いや、通じてるけれど、とにかく意味がわからない……。

 この状況をどうするかを悶々と考えていると、遠くからサイレンの音が近付いてくるのを感じた。

 あの轟音のせいで近所から通報されてしまったらしい。恐怖を煽るサイレンの音は、じわりじわりとこちらに近付いてくる。

「お? ナンでしょ、この音?」

「ど、どうしよう……?」

 この状況でこの娘を置いて逃げたらどうなるかを考える。少なくとも、警察の調べは私にも及ぶだろう。

 自販機が真っ二つになり、電柱が二本も折れた大事故だ。このUFOによる損害は計り知れない。

 平和に将来を生きていく上で、この上ない障害となる。

「……あー、もう! あなた、このUFOの事故、どうにかできない⁉︎」

「ンー、こんとろーるをミスして落ちちゃったんですよネー。ア、でもUFOは持ってカエレますヨ!」

 そう言うと、彼女がUFOに手をかざす。すると、みるみるうちにUFOが手乗りサイズまで小さくなっていった。彼女は小さくなったUFOをひょいっと拾い上げ、どこからか取り出したガラスのケースにしまい、これまた小さなポケットへと隠す。

 す、凄い技術……見たことない……。と、感嘆している場合じゃなかった……。

 ……とにかく、これで事故の原因は隠滅できた。あとは彼女をどうするか、だ。

 置いていけば、彼女経由で私にまで危害が及ぶ。そうなれば、取れる選択肢はただひとつ。

「……仕方ない。今は私の家に来て!」

「エッ、イソウロウさせてくれルンですか⁉︎」

「違うからっ! 少しの間だけ匿うのよ‼︎」

「ありがとうございマス! ワタシ、アナタ好きです‼︎」

「わかったから! とにかく走って‼︎」

「ハイ!」

 全速力なら、あと3分で自宅に着く。とにかく現場から離れなければ。

 耳に残るサイレンの音を背に、凄惨な事故現場から駆け出す。アミティアと名乗る少女は周りのものにいちいち興味を示しながらも、私の背にしっかりと着いてくるのだった。




「ぜー、ぜー……」

 駆け出してから、約二分。予定よりも若干早く自宅のアパートに辿り着いた。

「ココがアナタのホーム? ステキですネ!」

「そりゃあどうも……」

 適当に応えながらドアにカギを挿し込む。右に倒してから、ゆっくりとカギを抜いた。

 これで将来への危機は去った……。

「あら? 千果木チラギちゃん? 遅かったわね〜」

 そう安堵した瞬間、後ろから掛けられた声。全身から否応なしに汗が湧き出し、駆け巡る。

「お、大家さん。こんばんは……」

 声の主はアパートの大家さん。

 早くこの娘を隠したいのに。よりにもよって、こんなときに絡まれるとは……。

「こんばんは。……あら、そっちの娘は?」

「あっ、ハジメまして! アミティア=ネプチューンと申しマス!」

「こちらこそはじめまして。千果木ちゃんのお友だちかい?」

「ハイ! あとイソウロウです‼︎」

「ちょ、ちょっと……!」

 湧いた汗が冷え始める。ただでさえ寒いのに。

「居候? ワケあり?」

「あー……この娘たまにへんなこと言うんです。少しの間、泊まるだけですよ。ははは……」

「あら、そうなの。……ああ、そういえばさっき凄い音がしたんだけど、大丈夫だった?」

「アッ、それワタシの、むごっ……‼︎」

「ええ、大丈夫でしたっ! じゃあ、このへんで! おやすみなさいっ‼︎」

「? え、ええ……」

 軽く会釈をしながら、彼女を強引に連れ込み、バタンとドアを閉める。……カギも掛ける。

 …………危なかった。非常に危なかった。

「ちょっとあなた……! あんまりべらべら話さないでよ……!」

「もごもご……ぷはっ! ダッテ、地球人はヤサしいひとがラブだって聴いたンですもん! ほんとのことを言えバ、おっけーだっテ!」

「節操なしになんでもかんでも素直に打ち明けることを優しさとは言わないから……!」

「そ、ソウなんですかっ⁉︎ ウゥ、ヤサしいって思ったよりもフクザツですネ……」

 そう言ってうなだれる彼女。顔や表情は地球人の作りとはなんら変わりはないけれど……。言動や言葉遣いは、やはり地球人のそれではない。

 さっきのナントカ星? というところから来たっていう発言もどうやら嘘じゃないようだ。いささか信じられないが、UFOの件もあるし信じないという選択はできない。

「とにかく、あの事故のことは私とあなただけの秘密よ……!」

「わ、ワカリました……」

 半ば押し付けるようになってしまったけれど、意外とわかってくれたらしい。眼と眼を合わせて話したから、あの事故の重大さに気づいてくれたのかもしれない。

 ただ、眉を落としてしょんぼりしているのを見ると、もしかしたら言い過ぎたかも、というような後悔に苛まれる……。

「……それにしてモ、イソウロウはハジめてなので、ココロが踊りマス!」

「…………」

 ……いくらか雑に接しても大丈夫か。

「……というか、居候を許可した覚えはないんだけど……」

「さっきって言ってマシタ! ワタシ、知ってます! カクマウってだれかをホームに閉じ込めるコトだって! ワタシのこと、閉じ込めてくれルんでしょ?」

「そうじゃなくて、あの事故の話題が冷めるまで、あなたのことを泊めてあげるって意味で言ったの……! 話題が収まったら、出て行ってもらうからね……!」

「エー、ウソつきー‼︎」

 頰を膨らませるというあからさまな表現で怒りを表す彼女。カチューシャの触手の先端にある透明玉は赤く輝き、強火のように激しい。

 容姿は私と同年代に見えるけれど、精神年齢は幼いのか、こちらの話を聴いてくれない。それがこの娘の特徴なのか、もしくはそのナントカ星の住民の特徴なのかはわからないけれど……。

 でも、それならそれで別の方法はある。

「……あんまりワガママ言うなら、今すぐ摘み出すわよ……?」

「ひぇっ……そ、そーりー……デス……」

「わかればよろしい」

 こうやって恐怖で支配してしまえば容易い。恐怖は生物共通の。こうすれば、言うことくらいは聴いてくれるだろう。

 それにこの部屋の主は私なのだから、とやかく言われることもない。

「……それで、なんのために地球に来たわけ? 地球侵略?」

「の、ノーですっ! ☆♪$↑星人はそんなヤバンではありませンっ!」

「そ、そう。……さっきから気になってたんだけど、その……ピポパポ? パポピピ? ってなんなの?」

 先から気になっていた電子音の集合体のような音。意味も理解わからないのに加え、ほぼ聴き取れない音なのに、いやに耳に障るせいで気味が悪い。

「ムッ、ピポパポではなっしんぐです! ☆♪$↑ですヨ‼︎」

「い、いまいち違いがわからない……。何語?」

「宇宙共通言語のです!」

「ほ、星語……」

 どこかのオカルトオタクが星語これの存在を知ったら、きっと命を賭けて解読に挑むだろう。

 そんなばかばかしい考えが頭をよぎる。

「……そのピポパポ星の標準言語はその星語なのに、なんであなたの名前は地球人わたしでも理解できるの?」

「それは、いまワタシが名乗っているネームは地球人に向けたギメイだかラです。地球人に星語のラーニングはムズカしいデスが、ワタシはこちらの言語でトークできるノデ気にせずニ!」

「そ、それは助かるけど……。じゃあ、肝心の目的はなに?」

「ジユウケンキューってヤツです‼︎」

「じ、自由研究……?」

 別の惑星にもという概念があるのに驚いた。自由研究はだいたい夏休みにするものだが、おそらくあちらでは勝手が違うのだろう。

「ハイ! ワガ星のキドウをれこーでぃんぐしてっ、スクールで発表しマスっ‼︎」

「そ、そう……」

 なんだか拍子抜けだ。あんなUFOを携えてやって来たのだから、地球侵略の下見役かもしれないと勘繰っていたが、あまり気にしないでもよさそうだ。

 それに宇宙共通の星語があるということは、地球が知らないだけで惑星間の交流もあるのだろう。宇宙というのは、地球の皆が思っているよりも平和なところなのかもしれない。

「そこでアナタにひとつ提案がアリます!」

「提案?」

「ソウです! ズバリ、ワタシのあしすたんとをシテくれませんか‼︎」

 ずいっと距離を寄せ、小さな手が私の手を包み込む。その手の熱を意識し始めた頃、反射的に顔を上げると私の眼の先は彼女の眼にぶつかった。その黄緑色の明星のごとき瞳に魅せられている隙に、彼女は不思議そうににっこりと笑った。

 その光景をつい呆然と見つめていたが、ハッと気を取り戻し、おもむろに口をひらいた。

「……あ、アシスタント⁉︎ なんでよ⁉︎」

「オネがいしますっ! ひとりよりミンナのほうがたのしいデスよっ‼︎」

「えっ、あっちょっと……今から行くの⁉︎」

「アタリマエですっ! ゼンはすぴーでぃーに、ですカラっ‼︎」

ってこと? にしても、急ぎ過ぎよ……! それに夜中は危ないし……‼︎」

「ワタシがいますからヘーキですっ! さあさあっ、れつごー‼︎」

「わ、わかった! わかったから引っ張んないでっ‼︎ う、腕が千切れるぅぅ……‼︎」

 ギチギチと腕を引っ張られ、強引に外へと連れて来られる。

 いつもより身に堪える寒さを放つ夜の町を、星雨が照らすステージで踊り舞うように駆ける彼女に置いて行かれないようにただ走ることが、今の私にできることだった。




「はぁ、はぁ……なにも、山まで……来なくても……」

「ヤマのほうが、星々はステキにみれルんですっ! そのほうがグッドですカラね!」

 元より少ない体力を酷使し続けた結果、今は立っているだけで呼吸が止まりそうなほど辛い。対して、彼女は息を切らしてすらいない。

 この娘に出逢ってからというもの、碌なことがほとんどない。やはり摘み出した方が得策か……。

 そんな排斥思考に陥っているとも知らずに、彼女は満点の星空を見上げて、白い息を目一杯吐き出して溢した。

「……きれい…………」

 声にならない声。言葉では言い表せないほどの感動を、彼女はこの星の集合体に向けているようだった。

 ただ茫然に、しかしハッキリと、その光の粒の群れを眺める表情かおは……のひとことに尽きた。

 その表情かおの意味を理解わかりたくて、気付けば自然と、彼女の向く方向と同じ方を見つめていた。

 宇宙そらを覆い尽くすほどの、きらめき。そこにあったものはそれだった。それだけのハズだった。

 昔の私は、その黒や光を、得体の知れない底なし沼や飢えたピラニアの瞳のように捉えて嫌悪感を抱いていたハズなのに。今はなかなかどうして美しく……眼を離す動作でさえ億劫に感じてしまう。

『星だとか月だとか惑星だとか、宇宙に満ちているものには、ひとを惹き付けるがあるんだ』

 ……今日という日は本当にどうかしている。お父さんの言葉を繰り返し想い出すだけでもおかしいというのに。あんなにもだった星の輝きが……こんなにもに見えてしまうのだから。

 お父さんは未知を愛し、私は未知を恐れた。その時点でお父さんの言葉を完全に忘れる選択だってできたハズだ。

 それなのに、私は今になってもその言葉を覚えてしまっている。それどころか、今はもうその言葉通りの感動を覚えてしまった。

 今までは未知に眼を背けていたのに、今になってどうしてなのか。それはすぐに理解わかることができた。

 それはきっと、私が──

「……もっと、ちかくで……」

 その答えが眼の前に差し掛かったところで、ふと彼女の姿が眼に入った。星空に魅入られた彼女は見上げた瞳を下ろさずに、前へ前へと歩み始める。

 その姿が、今にもあの星空に連れ去られるしまうという危険性を感じさせるもので、胸が痛み始めた。

「ね、ねえ、その先って……」

 砂利を踏み締め、飛び散る。離散した小さなきらめきが着地点を見誤り転げ落ちる。

 ……その先は崖だ。

「あ、危ないわよ!」

「……? だっテ、こうしないと、よくみえナイからっ……」

 自分よりも星空を優先とする彼女。カチューシャの双玉は青く鈍く微睡んでいた。

 気が付けば、崖の間際。このままでは落ちてしまう。

「……ほんと、きれい…………」

 勢いのまま崖に飛び出す彼女。と、同時に私は彼女の華奢な腕を掴んでいた。

「……なに、してルンですか……?」

「な、なにって……! あなた、この先に進んでたら真っ逆さまだったのよ! ちゃんと脚元を見なさい!」

 星空のみを見つめていた瞳が下ろされる。崖の際の際にも関わらず、ひどく冷静でいる彼女。

「……はなして、くだサい」

 先とは打って変わって冷たい瞳。ひとが変わったみたいな違和感。

「な、なんでよっ⁉︎ 死にたいの⁉︎」

「…………いいから」

「……だ、ダメだってば!」

「…………はなして」

「何度言ってもダメ! ほら、こっちに寄って。危ないから──」

「だーかーらー、はなしテくださいっ!」

 いきなり先までの調子に戻った彼女は、自ら手を振り払う。すでに崖の外にいる彼女。普通なら下に真っ逆さまの状況だったが、待てど暮らせど落ちることはなかった。

「なっ……」

「もー、なにハヤトチリしてるンデスかー! ワタシ、そもそも浮けるンですからネ‼︎ ホラ‼︎」

 そう言って、ぷかぷかと低空飛行を見せる彼女。よく見ると、靴の下からホバーのようなものが出ている。

「だ、だって、雰囲気も全然変わってて、本気かと……」

「アレはしゅーちゅーしてたカラです! ワタシの眼でウツシタ景色をそのままれこーでぃんぐシテ、うえのタマに情報をおくラナイといけないノデ、ちゃんとミナイとダメなんです‼︎」

「…………そ、それを早く言いなさいっ‼︎」

 おかげでいらぬ心配までしてしまったじゃないか。無駄に体力を浪費してしまった。

 バクバク脈打つ心臓を落ち着かせていると、彼女が私のことを不思議そうに見つめているのに気付いた。私がそれに気付くと同時に、彼女はひとつ口をひらいた。

「……ソレにシテも、アナタ、けっこーヤサしいんですネ」

「ど、どういうことよ?」

 急におかしなことを言い出す彼女。冷たい風が吹き抜ける中、彼女は続ける。

「だって、サッキもしらナイとは言え、ワタシの心配してクレましたもん。であったばかりナノにワタシの心配だなんて、地球人ってヤサしいンですね」

「……そうでもないと思うわよ」

「そうナンですか? 太陽系銀河でハジメテできただかラ、てっきりミンナもそうなのカナーって思ってました」

「……と、友だち?」

「? ハイっ、もうトモダチですよネ?」

 急な宣告。この娘、出逢ったばかりの私をもう友だちだと思ってくれていたのか。

 思い返せば、学校だけでなくプライベートですら友人と呼べるひとはほぼいない。片手すらも持て余すほどだ。この町に来てからは、文字通りひとりもいなかった。

 それもそうだ。昔から未知を嫌いぶって、そんな未知を追い求めるというものを持てなかった私を見て、友だちになりたいと思うひとの方が珍しい。

 それなのに、眼前の彼女は出逢ったばかりだということを加味しても、見るからに根暗な私のことを友だちだと言ってくれた。彼女の友だちの基準が限りなく低かったとしても……素直にうれしかった。

「あ、アノ?」

「…………来週でいいなら」

「エ?」

「来週でいいなら、またこれに付き合っても、いい?」

 彼女のひとの心に土足で踏み込むような距離感。そして、彼女と冷たいひとり部屋の温度差に思わず内側に熱がこもる。

 そんな初めての感覚に優しく背を押されて、柄でもない言葉が口の端から漏れた。

「ほ、ほんとデスかっ⁉︎⁉︎」

「……うん」

 その言葉を限界まで素直に受け取ったのか、カチューシャの触手の先端にある透明玉を七色に輝かせている。表情は今までのそれよりも数段晴れやかだ。

「アナタのこと、もとからスキでしたケド、もっとダイスキになりマシたっ‼︎ ウレシイですっ‼︎ ヨロコンデお受けシます‼︎」

「ちょっ、抱きつかないでよっ……‼︎」

 からだをすべて委ねるようなハグに体幹が揺らめく。およそ友だちにするようなハグではない。

 狭い地球の中でも、国によってスキンシップの違いがあるくらいだ。惑星間ともなれば、その違いもより顕著ということか……。

「せんきゅー、べりーまっち、です! エート……アレ? ネーム、なんでしたっケ?」

「あ、ああ、まだ言ってなかったわね。千果木よ。水琴ミナゴト 千果木。これからよろしくね」

「ハイっ! チラギっ‼︎ なかよくしまショウね‼︎ ……そうだっ! チラギもワタシのこと、って呼んでクダサイっ! トモダチの証ですっ!」

「さ、流石に恥ずかしい……。アミティアって呼ばせてもらうわね」

「そ、ソンなー‼︎」

 透明玉がまた燃える。

 相変わらずわがままだ。悪くはないけれど、居候の身ならば直してもらわないと困る。

「……素行が悪かったら、ほんとに家から摘み出すからね」

「えっ」

「それが嫌なら大人しくしなさい」

「ハーイ……」

 そこまで言い終わると、またもやしょんぼりと肩を落とすアミティア。ちょっと邪険にし過ぎたかもしれないと考えるだけで、なんだかちょっぴり胸の底があたたかい。

「……さ、そろそろ帰りましょ。アミティア、なにか食べたいものある?」

「は、ハイ! 地球のふーど、たべるのハジメテです! ……じゃあ、チラギが好きなモノを食べさセテくださいっ‼︎」

「それでいいの?」

「ハイ‼︎ チラギのスキなやつ、ワタシもスキになりタイですっ!」

「……そ、そう」

 彼女──アミティアと談笑をしながら、私は崖の件の前に考えていたことについて想い出す。

『星だとか月だとか惑星だとか、宇宙に満ちているものには、ひとを惹き付けるがあるんだ』

 お父さんの言葉を忘れられなかった理由。それはただ、未知というものをひたすらにしたかっただけなんだろう。

 宇宙は素敵なんだという思想を、半ば押し付けられたように感じて、お父さんの言葉を根拠もなしに受け取らないでいた。否定するために未知を嫌いになろうとした。でも、中途半端な心持ちのせいで、興味だけは悶々と芽生え続けた。

 その結果がこの未知嫌いの私なんだろう。

 だけど、アミティアと星を眺めたときに芽生えたあの感情は、間違いなくだという感情だった。それはきっと、初めて押し付けなんかじゃない気持ちで、で星を見て、未知と向き合ったから好きになれた。この気持ちを知れたんだ。

 今だから言える。私は星がだ。

「チラギ? 急にトマってどうしたンです?」

 眼の前には、その感情を教えてくれた友だちがいる。

 この町に来てから、約一年。ようやくできた初めての友だち。それも恐れ慄いていたハズの未知の存在が友だちだなんて、半日前の私には考えられない。

「…………いいえ。ありがとね」

 その彼女に向けて、私からも微笑み掛ける。

 未知を教えてくれてありがとう。なんてメッセージを贈っても、きっと身に覚えがないだろうから、ひとつの感謝を贈った。

「?」

 キョトンと首を傾げるアミティアが少しおかしく見えて、口の端がちょっぴり上がった。

 友だちと呼べるひととの一年ぶりの交流に、またひとつ心の熱は芽生えるのだった。


 とある朔の晩。ひとりの少女と未知の少女は、小さな天体衝突によってつながった。

 一週間後、上弦の宵月が灯る日。二人の少女はなにを想い、言葉を紡ぎ合うのだろうか。


  ⦅続⦆

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