第3話 どうしてこうなった

 気がつけば、キャンパス付近のカフェでラテやフラペチーノ片手にレポートを書き、日記を記すことが毎日のルーティンとなっていた。


 本来日記は他に人が大勢いる場所で書くものでは無いかもしれないけど。まあ、気にしない。


 ――また、風雅ふうがと出くわすかもしれないけれどもね。


 だが大学から近くて、女子一人で入れて、なお長居して作業できる場所は限られている。

 だから小雪こゆきがこのカフェでミルクレープを頬張っている最中に風雅と偶然会ったとしても、仕方の無いことなのだ。


 ――本当に? 


 ペンを走らせていた手が止まった。頭の中にもう一人の自分が話しかけてきたような感覚。


 ――本当は、ばったり会えることを期待しているんじゃないの?


「……そんなこと無いよ」


 小雪は脳内の声に、小声を出して反論した。


「――ゆき」

「そんなことは無いんだからっ」

「――小雪」


 不意に耳に届いた声に、びくっと身を震わせた。

 香坂風雅。

 ここ最近ずっと小雪の苦悩の根源となっている青年ご本人がいたのだった。


「なんだ、ふ、風雅かあ」


 風雅に話しかけられたから驚いたのでは、無い。急に話しかけられたから驚いたという風を装った。口元で微笑みの形をつくろう。


 風雅はなんともいえない顔をしていた。高校時代は制服姿を多く見てきたからか、やや大人びた私服をまとっているのが妙にまぶしく見える。

 風雅は自分をどう見ているのだろうか、なんて一瞬だけ考えてすぐかき消した。


「本当にごめん。まさか授業まで被るとは思ってもみなくて。気まずい思いをさせてごめんな」


 ――こういうところが、こうやってわざわざ謝りに来るのがいかにも『彼』だな。


「ソンナコトナイヨ」


 清々すがすがしいほどのカタコトで答える。元彼はふ抜けたような笑みを浮かべた。


「……友達、でどう?」

「へ?」

「これからは友達として付き合わない?」


 まさかすぎる提案に、小雪は息を呑んだ。


五月△日

 いまさら友達になれるわけないじゃん。

 どうしてこうなったの? わたし、本当はどうしたいんだろう。


 あれから風雅とその友達とも仲良くできるようになったけれどさ。なんか違うっていうか……。ずっと落ち着かない。


 ほんとにわたし、どうしたいんだろうね?

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