第4話 とても悲しい

小雪こゆき、ちょっとだけ良い?」


 呼ばれたのは風雅ふうがと共通の女友達だった。

 新緑まぶしく、薫風くんぷうさわやかな季節ももう下旬だ。

 大学生活にもそこそこ慣れてきて、粉雪なりに風雅との友人関係にも慣れてきた、けど。


「風雅くんのことなんだけどさ、小雪に未練があるみたいなんだよなあ」

「未練? わたしに? 一応訊くけど恋愛絡みのことだよね」

「そうだな」


 小雪と風雅の事情は、まことしやかに友人たちのあいだにさざ波のようにそうっと広がっていた。


「あの人と別れた理由聞いたよ。風雅くんは第一志望の大学落ちてここにきたんでしょう? で、小雪は元々ここが第一志望で無事受かったから、落ちた風雅くんと受かった小雪でなんか色々ぎくしゃくしちゃったって」


「…………うん」


 よくもまあそこまで詳しい情報が広まってるなとあきれつつ。


「第三者目線で言うけど。別れ方がそれじゃあ、お互いにまだ気持ちあるんじゃないの?」

「………………っ」


 いつも風雅と会う可能性があるカフェで日記を書く理由を見抜かれて、小雪は戦慄した。


「だって、また気まずくなるかもしれないよ……」

「いいじゃんそんなの。好きなだけケンカして気まずくなるのが本物の関係でしょ」


 けろっと言われて返す言葉が無くなる。周りがどんどん大人になっていくのに、小雪は追いつけないでいる。


「それは、そうだけどさ。わたしだって風雅のことは……」


 それから丸々一ヶ月、小雪は悩み続けた。ブラックコーヒーのビターな味わいが、心にそっと寄り添ってくれた。


六月△日

 よくわからない、ふりをしていた。

 気まずいから、と逃げてばっかりいた。


 わたしが受験に合格して浮かれて、彼が落ちて変な反応したから。

 彼がどこの大学に行くのか訊かないまま別れたから、こうなった。


 わたしにとっては一番に行きたい大学が、彼にとっては滑り止めの一つであったということが悲しい。とても悲しい。


 それ以上に。

 わたしはわたしの気持ちを、今の気持ちを大事にしたいんだ。

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