第2話 なんでなの?

 波乱の入学式のあと、数日のガイダンス期間を経て授業が始まった。


 新しい学校、新しい学友、新しい通学の道。

 高校まではちょっと歩けば着くキョリだったから、電車で三十分かかる大学はちょっとだけ遠い。


 風雅との距離はもっと遠い。二人の関係にはひび割れどころか深い溝が入ってしまっているから。


 新しい友達との関係と濃くて面白い授業で気持ちを散らそうとした、のだけれど。


「…………」

「…………」


 小雪の受講する授業の中には、あらかじめ座席指定されているものがある。


 多分無難に学籍番号順で組んでいるのだと思うが、なぜか数コマある座席指定の授業で、必ず小雪は『彼』の隣だった。


 もう驚きの声も出ず、何とかその時間をやり過ごす。


「あの、こゆきっ」


 ついには授業終わりに話しかけてこられて、小雪は脱兎も真っ青になるくらいの勢いで教室を飛び出した。


「小雪、あの男子と何かあったの?」


 新しい友人の一人に指摘されるくらいには、小雪は不自然に風雅を避けていた。


 なんというか、本当に偶然にいるのだ。同じ学科だからか何なのか学内でのエンカウント率偶然出くわす回数が高い。

 カフェテリアでもなぜだか近い席になる。というかそこしか空いてなかったりする。


 向こうも友人らしき男子と数人だし、気にすることないかもしれないけれど。


 ――すれ違うたび、わたしの心臓が壊れそう。


 風雅を見かけるたびにどっくんと高まる心音をおさえることに、若干ながら小雪は疲れていた。友人が気にするのも当たり前だ。


「同じ高校の人、ちょっといろいろあってさ……」

「……いじめられてた、とかいうわけじゃないよね?」

「それは無いよ。わたしいじめられたこと無いし。せいぜい女子同士でケンカとか」

「あー、それはあたしも散々あったわー」


 元彼は暴力も暴言も振るう人じゃなかった。ケンカした時ですら、優しい言葉を選んで話すような人なのだ。当然浮気もされていないし、していない。


 ――でも別れて良かったんだよ。


 だから表では友人との談笑を楽しみながら、裏では風雅を想うのだ。 


五月□日

 もう、なんでなの?

 なんでわたしの行く先々に偶然いるのよ!

 今日なんてカフェで日記書こうと思って席着いたら後ろのテーブルにいたし!

 いーよいーよ、このまま近くで日記にぶちまけてやる!

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