女子大生・夢咲小雪の復縁
七草かなえ
第1話 サイアク、サイテー
「わたしたち、やっぱり別れよう」
「…………分かった」
卒業式に告白するならよく聞く話だが、それまで付き合っていたカップルが別れるというのは少ないんじゃなかろうか。
周りは笑顔で記念写真を撮ったり、泣きながら別れを惜しんで抱き合ったりしていた。
模範的な卒業式後の風景、素晴らしい青春の一ページに、小雪と風雅は身を置くことはできなかった。
馬鹿みたいな理由で別れたと思う。でもそうしなくちゃお互いの心が持たなかった。
人生初の失恋後、クラスメイトや友人たちとの集まりに顔も出さずに。小雪は自室に鍵をかけて引きこもり、涙が涸れるまでむせび泣いた。
娘を心配した母親がドアを叩く。
「小雪、大丈夫なの?」
「うん……ごめんねママ。しばらくそっとしてくれる?」
「そう、わかったわ」
――ごめんね、本当にごめんなさい。
家族に心配かけるのは分かっている。一刻も早く立ち直る必要があった。なのに。
大切な誰かが急に死んじゃったくらいに悲しいのに、薄桃色に咲き誇る桜の花がやたら美しいのが余計に泣けた。春の暖かさが恨めしかった。来月からの新生活なんてどうでも良かった。
涙も凍るように心が冷え切っているのなら、いっそずっと吐く息も白い真冬のままで良かったとさえ思った。
だけど時間は待ってくれない。嫌でも大学の入学式はやってくる。
気持ちだけでも入れ替わるかと、初めて身にまとう黒いスーツ姿で向かった、自宅から通える地元の私立大学入学式。
新生活こそは笑ってスタートさせたかった小雪の願いは、同じ学科に入学していた風雅の存在によって無残に壊されてしまったのだった。てっきり他の大学だと思い込んでいたのに。
「なんであなたがここに?」
病的に青ざめる小雪を前に。
「ごめん、小雪。本当にごめん」
何に対してかも分からないまま、現れた風雅は小雪に眉を下げて必死にごめんと繰り返すばかりだった。
耐えられず、どうやって帰宅したかも記憶しておらず。
小雪はオシャレで可愛いからと買ったきりで、それまで手つかずだったアンティークな小花柄のハードカバーの日記帳を開いた。
あまりにもデザインが良すぎて文字を書き込むことをためらっていたけど。
――もう、いいよね。
ネットで行き場のない感情整理の方法を調べたら、書き出すのがいいとされていたから。
――ごめんね。わたしの気持ち、受け止めてね。
四月□日
入学式にあいつがいた。サイアク、サイテー。
黒く太いボールペンで、殴るように乱暴に書いた。
これはとある女子大生が、日記とキャンパスライフと新しい恋をスタートさせるちょっとしたお話。
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