スタート

三毛猫みゃー

スタート

「よーい、スタート」


 軽快なその声とともに俺たちはクラウチングスタートの体勢から走り出す。

 横一線、フライングも出遅れもない。


 誰も彼もが必死だ、かく言う俺も必死に走っている。ゴールなど無い死の競争、遅れたやつが、転倒したやつが、そして諦めたやつが死んでいく。


 全速力で走っているはずなのに、俺の耳にはヒタリヒタリとすぐ後ろをついてくる何者かの足音が聞こえている。俺の横を走っている奴らにも聞こえているのだろう、チラリ見えた横顔は恐怖で歪んでいる。


 どうして俺たちがこんな事をやらされているのかはわからない、気がつけば走らされていた。そして一人また一人となにかに捕まり消えていく。


 一人消えればまたスタートに戻される、しばらくすると一人補充され少しの休憩の後またあの軽快な「よーい、スタート」の声と共に走り出す。


 いつ終わるのか、あと何度走ればいいのか、そして捕まればどうなるのかも全くわからない。だから必死に走る、走ることしか出来ない。


 ビィー。


「おめでとうございます、ゴールです。次のステージへお進みください」


 どうやらいつの間にかゴールしていたようだ、今回は誰一人脱落すること無く走りきったということだろうか。それにしても、次のステージだって? まだ先があるというのか。


 周りを見てみると何人かと目があった、相手は俺を驚いたように見ているし、俺もそいつを見て驚いた。なぜならその見覚えのある顔は俺だった、よく見ると全員俺と同じ顔をしている。


 なんだこれは、なんだここは、誰なんだ俺は。その疑問に答えるものがないまま次のステージとやらに移動させられていた。移動させられたというのは正確ではない、気がつけばそこに立っていた。


「スタート準備を始めてください」


 そんな声が聞こえてきたので、スタート位置に歩いていく。先程まで一緒に走っていた俺と同じ顔の奴らはいなくなっていて、俺はひとりきりだった。


 いつでもスタートできるようにクラウチングスタートの体勢になる。


 ここがどこなのか、ここが何なのか、俺が誰なのかはわからないが、クリアしていったとしても答えを得られるとも限らない。それでも俺は走り続けないといけないようだ。


「よいーい、スタート」


 軽快な声でスタートを告げられた俺は走り出す。ひたすらに、ただここから抜け出すために、死神の鎌から逃げるために、そして死にたくないという感情のままに俺は走り出す。


 ただただ存在するかすらわからないゴールを目指して。

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スタート 三毛猫みゃー @R-ruka

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