第1話 ヘラク村
「・・・・じょ・・・・・・・いじょ・・・・か」
何か声が聞こえる。女の人の声か?いや男の人か?
「・・・だ・・じょう・・・・か」
声が次第に大きくなっていく。ただ視界はまだボヤけている。頭もぼーっとしている。
「おい・・・大丈夫か?」
男の人の声だ。でも聞いたことのない声色をしている。誰だ?
「君、大丈夫かい?・・・・・おいマルシェ!彼が目を覚ましたぞ!水を持って来い」
ボヤけていた視界も徐々に開けてきた。目の前には藁か何かでできたものが一面に広がっている。それが天井と理解できるまで少し時間が掛かった。なんだここは。首を横にすると大勢の大人たちが興味本位でこちらを見ていた。中には子供もいる。
「あの・・すみません・・ここは・・・?」
俺は小さくか細い声でみんなに聞いた。
「どこかで頭を強く打ったのかもしれないな。どこの村から来たのか覚えてないのかい?ここはパーラ地区のヘラク村だよ」
「ヘラク村?」
全く聞き覚えのない村だ。というかここは村なのか。確かにどこか田舎っぽさはあるのだが。
「ヤンマ!水持ってきたわよ」
奥から若い女性が走りながら水を持ってきた。綺麗な人だ。
「ありがとうマルシェ。ほら君、まずは水を飲みなさい」
「あぁ・・ありがとうございます。いただきます」
「ところで君、名前は?名前も忘れているのかい?」
「いや、名前は覚えてます。鷲尾獅王って言います」
「ワシオレオか。よろしく!俺はヤンマだ」
ヤンマが手を差し出す。俺はそれに応えるように手を差し出し握手をした。
「んで、こいつがマルシェ。綺麗だろ?村一番の美女だ」
愛想笑いで軽く流す。
「で、あそこに小さい子供がいるだろ?あれがマルシェの子供のギーラだ」
人見知りなのか名前を呼ばれたらギーラは隠れてしまった。小学校低学年ぐらいだろうか?
「で、こいつが・・・・・こいつが・・・・・あれが・・・・・・」
ヤンマの村人紹介は15分くらい続いた。
「これが我がヘラク村の村人たちだ。これも何かの縁だ。気の済むまでゆっくりしていってくれ」
ヤンマを含めこの村の住民たちはめちゃくちゃ優しかった。まだ頭の中は混乱していたが俺はその優しさに甘えることにし一晩だけ泊めてもらうことにした。
「よーし!お前ら!運べ運べ!さぁワシオレオ君、遠慮せずいっぱい食べて!」
「ありがとうございます。あ、後レオで大丈夫です。フルネームはなんか・・」
「そうか!じゃあレオだな!さぁ食べて」
奥からどんどんと料理が運ばれてくる。どれも美味しそうな食べ物ばかりだ。
「いただきます。美味しい・・」
「だろ〜。ヘラク村特製カエルの煮込み汁だ!」
「ゴホッッ、ゴホッッ、カエル?これカエル入ってるんですか?」
「そうだ。カエル食べたことないか?」
「いや、ないですよ。初めて食べましたよ」
「そうか!でも美味いだろ?」
「はい・・味は美味しいです」
「そういえばレオ、歳は?」
「16歳です」
「16歳かー!若いな」
「ヤンマさんはおいくつなんですか?」
「俺は30歳だ。若く見えるだろ?」
「あ、はい・・そうですね」
本当は年相応の見た目をしているが・・・
「まぁゆっくりしていってよ」
その後も俺へのおもてなしは続いた。ヤンマを含めこの村の住民たちといろいろな話をした。気がつけば2時間くらい経っていた。そろそろお開きムードが漂い始めた時一人の老人が部屋に入ってきた。
「君かね?記憶をなくしてこの村に来たという人は」
その老人は白い髪に白いモジャモジャの髭。いかにも仙人みたいな風貌だ。
「そうです。ワシオレオって言います」
「レオか。私はこの村の村長のクレスだ」
「村長ですか・・・すみません。見ず知らずの僕をこんな歓迎してもらって」
「いいんじゃ。くるもの拒まずがこの村のモットーじゃ。気にせんでいい」
「村長。随分と早いお戻りで。それで今回の収穫は?」
さすがは村長だ。さっきまでおちゃらけていたヤンマがピシッとなって村長に話している。他の人たちも同様だ。
「うむ。ダメじゃった。今度はもう少し遠くに行ってみるしかないのー」
みんな村長の言葉にがっかりしている。収穫とはなんだ?
「それよりもワシはそこのレオに話がある。レオよ、少し時間を取れるか?」
「は、はい。大丈夫ですが」
「そしたら、皆の者少しここを外してくれんか?レオと二人きりで話がしたい」
「わかりました」
ヤンマはそう返事をするとみんなを部屋から出し自分も部屋を後にした。さっきまでうるさかった部屋が急に静かになりどこか不気味さがあった。
「急に二人きりにして悪いな」
低いトーンで静かに話しかけてくる。
「早速本題なのじゃが・・レオ。君が今いるこの世界は君が今まで生きてきた世界ではない。別の世界だ」
突然の話に当然頭に?マークが浮かぶ。
「別の世界?どういうことですか?全く意味がわからないのですが」
「それもそうじゃろ。レオみたいな子がこの村に来るのは二人目じゃ。そいつも記憶をなくしていてな。
前から噂は少なからずあったのじゃ。別世界から来る人間がこの世界にはおると」
「ど、どういうことですか?俺が今いるここはどこなんですか?」
「レオよ。ここに来る前命を落とさなかったか?」
「命?あ・・・・!」
そこでピンときた。確かに目が覚める前俺は誰かに殺され・・・・
「ピンときたようじゃな」
「戻る方法はないんですか?!」
「すまんが、戻る方法はまだ見つかってない。というよりも戻れないのかもしれない。なんせ向こうの世界では君は死んでいるのだから」
「そんな・・・」
「レオよ。この世界は君が今まで生きてきた世界よりも残酷で酷いものだと思う。ここは最低の国じゃ」
「最低の国?どういうことですか?」
「この国は一人の王によって支配されている。それもとても酷い王じゃ。その王のせいで我々がどんなに苦しんでるか・・・」
「どんな酷い王なんですか?」
「そうじゃな。話すと長くなるが良いか?」
村長の顔が一段と険しくなる。俺も色々村長に聞きたいことがあるがとりあえず村長の話を聞くことにした。
「この国はな、さっきも言ったように一人の王がこの国の全体を支配している」
そう言いながら村長は持っていた鞄から地図を出し目の前に広げ、話を続けた。
「そしてその王がいるのがここの真ん中の都市
『ミルバーレ』じゃ。ここには王を含めこの国の上級階級の者と王の側近たちがたくさんいる。我々のような底辺階級の村の人間は奴隷としてこのミルバーレに召集される者もおる。奴隷として行った者が帰ってきた例はない。行ったら最後。死ぬまで働かされて家族と誰とも会うことなく最後を迎えるのじゃ」
「この村からも何人か……?」
「あぁ……ギーラという子供がおったじゃろ?」
「あー確か、マル…シェ…?さんの子供の」
「そうじゃ。そのギーラの父、マルシェの婚約相手にも当たるシードって男が2年前にな………」
「全然そんな風には……」
「マルシェとギーラは強い人間じゃ。皆に気を使ってほしくないのじゃろう。本当は悔しいはずなのにそれを顔に出さん」
「許せない…」
村長の話を聞いてるうちに怒りが湧いてきた。そんな世界がまかり通るのか。
「その奴隷としていく者はどうやって選ばれるんですか?」
「1年に1回各村から1人出すというルールがある。ただ出る人間は全て王側の人間が決めることじゃ。選ばれたらどうしようもできん」
「断る権利はないと……本当酷いな…」
「続きを話そう」
村長はそう言うとこの国の仕組みについてまた話し始めた……
「このミルバーレが真ん中にあるじゃろ?そしてこのミルバーレを菱形に囲うようにして更に4つの地区がある。まず上、北に当たる位置が我々の村も含まれているパーラ地区じゃ。そして右、東に当たる位置がシャガラ地区。下、南に当たる地区が
ウーラ地区。最後、左、西に当たる地区がバッカス地区となっている。各地区にはリーダーがおるんじゃ」
「リーダー…… そいつらもその王の側近なんですか?」
「そうじゃ。それも四神と呼ばれてるほど強力な奴らじゃ。それぞれの名前が地区の名前にもなってる」
「ってことは、パーラ、シャガラ、ウーラ、バッカスって言う4人がいるってことか‥」
「そう言うことじゃ。この4人をどうにかしないとミルバーレにすら近づけない。本当に厄介な4人じゃ」
「すごい世界ですね……」
今まで過ごして来た世界とあまりにもかけ離れすぎてる内容に俺は驚きを隠さなかった。
「後、この世界で過ごす為に1番大事なことがある」
「大事なこと?」
「レオよ。左の袖を肩まで捲ってみろ」
「袖?なんでですか?」
「イイから捲ってみるのじゃ」
俺は何の意味があるか分からなかったが言われるがまま左腕の袖を捲った。
「肩あたりを見てみるのじゃ」
そう言われ、俺は左肩を見た。
「な…んだ…これ」
そこにはライオンの刺青みたいな物が入っていた。当然だが今まで16年間生きてきた中でこんなの入れてなどいない。
「なんですか?これ」
「ほー!ライオンか!イイのを引いたの。そのマークがこの世界で生き抜いていく為に必要な能力じゃ」
「ライオンのマークが?」
「そのマークの動物の能力が使えるようにこの世界じゃなるのじゃ」
「ライオンの能力…?」
「ちなみにワシは、ほれ、カブトムシじゃ。いかにライオンが当たりか分かるじゃろ」
村長は笑いながらそう問いかけてきた。確かに昆虫もいるとなるとライオンはかなり当たりの部類だ。
「もっとこの世界の事について詳しく聞かせてください。能力の話とかも含めて」
村長の話を聞いてるうちに次第にこの世界に興味が湧いてきて俺は更に村長にこの世界について詳しく話を聞く事にした。
続く
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