四、

左近は、崖を背にして立っていた。

二歩、後ろに下がれば、転落である。


山道を背にした、五人の岳林坊がじりじりと迫って来る。

五人とも同じように、錫杖の尖った先端を左近に向け、必殺の気を全身から放って、一寸ごとに近づいて来るのだ。


(どれが、本物か?)

目を凝らして見ても、霧の壁に映し出された五人は、全員が真の岳林坊に見える。

錫杖の上部の金輪の音も、五箇所から同じように聞こえて来る。


「むむっ」

思わず唸る、左近。

そして、五尺の間合いまで接近した刹那、岳林坊の五本の錫杖が、一斉に左近に向けて突き出された!


五本の内、四本は幻影である。

左近は、僅かな風切り音を頼りに、剣を横に薙いだ。


ギンッ!


金属音が響き、金気かなけが流れた。

左近が、危うく錫杖の切っ先を弾いたのだ。


(跳躍などしては、着地の瞬間ときられる!)


思う間も無く、五人の岳林坊が、再び迫って来た。

今度は、前回よりも歩みが早い!


左近は、半歩後ろに下がると、山間に響き渡るような声で、叫んだ。


「我が名は、如月左近!!」


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