三、

キン!

と金属が弾き合う音がして、二人が入れ違った。

クルリと振り向いた左近に、矢継ぎ早に錫杖の突きの嵐が襲い掛かる。

左近は体を左右に振って、あるいは刀ではじいて、それを避けた。


そして僅かな隙を突き、刀身を大きく回して、相手の太股ふとももに斬り付けた。

柳生新陰流「逆風の太刀」である。


「ぬっ」

法衣の太股部分を僅かに切り裂かれた山伏様のは、たたらを踏んで踏みとどまった。


「ふふふ、さすがに錫杖これでは勝てぬかよ」

男はそう言うと、腰に手をやった。

見ると、だぶだぶの法衣に隠れていたか、大きな瓢箪ひょうたんが、帯に括り付けられていた。


「我が名は、岳林坊!!」

男はそう叫ぶと、腰の瓢箪を抜き取り、それを口に当てて、ゴクゴクとなどを鳴らして水らしきものを飲み始めた。

いや、飲んではいない!

頬を膨らませ、口内一杯に水を含んでいる。


プウッ!!


岳林坊は、その水を、霧のように自分の正面、左右に吹き散らした。


「むむっ?」

左近が唸った。

岳林坊の前面に霧の壁が出来て、その壁面に、五人の岳林坊が横一列に並んで不敵に笑っていた。


(何と、妖術か?)

さすがの左近も、驚きの表情を隠せなかった。


「ふはははは、飛騨妖法『水鏡みかがみ分身!!」

岳林坊の高笑いが、山林に響き渡った。




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