継続する日常

2-0 帰宅至上主義者の帰郷

清潔そうな白い天井。それがボクが見た最初の景色だった。


「……。」


ボクは首を動かし、辺りを見渡す。色んな医療器具の様な物が並んでいて、ここがどこかの病院である事が分かった。


「あ……院長っ、彼女が…」

「…分かってる。」


看護師さんの声が聞こえた後、白衣を着た男がやってきてボクの隣にあった椅子に座る。


「名前は覚えていますか?」

「……残雪唯です。あの何で…ボクは病院に。」

「記憶に若干の混乱があるようですね。なるほど…」


机に紙を置いて、サラサラと何かを記入しながら言う。


「…12月31日。残雪さんは…横断歩道を歩いていたクラスメイトを庇ってバスに轢かれました。それから…2週間。こうしてずっと眠っていたのですよ。」


………………………………えっ?


違う。ボクはその日…儀式で殺され、


———◾️◾️


「あ……そう、だった。」

「思い出しましたか?……それは何よりです。」


直前の事は鮮明に思い出せる。けど、何かがおかしい……何か引っかかる。


ボクは確かに学校にいて、あそこで色んな事があって…魔道具を破壊した。もし、それがボクの夢の中での出来事なのだとしたら…!




——バーカ。そんな訳ねえだろ…考え過ぎだ。



……ボクは男を見つめる。


「…もう騙されてあげない。」

「チィ。しくじりましたか…」


その瞬間、男の顔が酷く歪み…部屋全体が白く輝いて…ボクは咄嗟に目を閉じた。


……



…気がついたら見知った教室にいて、時計を見ると0時ぴったりを指していた。


「……」


軽く息を整えて、落ち着いたら、机に置かれたカバンを肩に背負う。


「帰って…ゲームしなきゃ。」


そう呟きながら…ボクは教室を出る。明日から学校がまた始まるというのに…何故か、清々しい気持ちだった……だったんだ。


「…っおい…こんな時間に何故、学校にいるんだ!!!」

「……。」


扉を閉めて華麗にバレないようにその場から去ろうとした時に…警備員の人と目があった。


「…っ。」

「……おい、待て…っ、早っ…!?その動き。こいつ…『帰宅至上主義者』か!?至急応援を……」


仮に弁明しようにも…「始業式終わりにすぐに帰れるように準備してました!」…と言っても絶対に信じてもらえないだろう。しっかりと説得しようものなら、時間もかかるし…そうしたら、家に帰る時間がどんどん…遅くなる。


それは駄目だ。


「……応援に来たぞ…っうわっ!!」

「……」


迫り来る刺股を華麗に避けながら帰宅の為、前進する。


「階段で何十人かで固まれば…流石の奴でも通れない筈だ!!」


その通りだ。動きを封じるなら一箇所しかない階段を抑える。それが最善の選択だろう。


——ボクじゃなければ。の話だか。


即座にルートを切り替える。


「は…コイツっ!?開いている窓から…」


真の帰宅部なら、階段を使わないルートを模索する。これは一般常識だか、階段は他の生徒も使うから混雑することが多いからである。


隣にあるB棟二階の窓はよく開けっぱなしになっている。ボクの計算が正しければ……


「……着地成功。」


——理科室。実験中に突如爆発したり、有毒な煙が発生したりと『科学≠化学部』が沢山やらかしているらしいという事は風の噂で聞いていた。そして結構な割合で、換気をしてそのまま帰ってしまう事も。


理科室の内鍵を開けて廊下に出る。階段を降りて、出口へ…


ボクの足が止まる。


「鍵が…ない。」


B棟は外鍵で施錠している…その鍵は職員室でA棟にあるから……仕方ない。かくなる上は…


ボクは近くにあった消火器を持ち上げて、そのガラスの扉を割ろうと決めた時…扉が開いた。


「…馬鹿かお前!?さっさとそれ降ろせ。」


懐中電灯の光が眩しくて、姿はよく見えないが…その声には聞き覚えがあった。


「…まさか、本気で割ろうしたのかよ?」

「……!」


遠くから声が聞こえる。敵がこの場所に来るのも時間の問題だ。ボクだけならとにかく、他人を…幼馴染をなるべく巻き込みたくない。


「ボクのバック…持ってて。」

「あ、いいけど…唯…おれの話をちゃんと聞いてたのか…っ!?」


ボクはバックを持った事を確認してから、井上を抱え……競歩のギアを一つ外した。


「ブッ…風が…めっちゃ顔に…な、何が起きてるんだ!?」

「…黙って。」


足手まといになりそうだったから、試しにやってみたが…やっぱり腕がきついから、その分速度は少し落ちるな。


「胸が…体にあの、当たってますよ!?」

「……。」


そんな事を考えながら、深夜の学校から脱出した。


……



家の前で足を止め、疲れ果てている井上を降ろした。


「……ここ…家か。」

「……。」


そのまま去ろうとしたボクの肩を掴む。


「…何。」

「どこに行くんだ?」

「……家、だけど。」

「…?」


井上は首を傾げてから、こう言った。


「お前の家は、ここだろ?」

「……は?」


何言ってるんだこいつ。冗談にしては全く笑えないのだが。ああ、そうか。きっと疲れているのだろう…そうに違いない。


「……っ、おい!待てって!!」


ボクは後ろで戯言を言う井上を置いて、絶境神社…家へと向かう。


……



今日は本当に疲れた。さっさと癒されたい。そんな一心で、いつもよりもボロボロになった階段を登り…色褪せた鳥居をくぐる。


その変わり果てた光景にボクは絶句し、足を止める。


神社は倒壊していて形すら保てていない。ボクや神主さんが住んでいた家も…どこにもなかったからだ。


「……。」


ボクは境内を歩く。ここに来るまでに事件現場とかによくある黄色いテープとかがあったり、立ち入り禁止の看板とかが刺さっていたのを道中見たから…薄々そんな気はしていた。


「……?」


賽銭箱の上に何かが置いてあった。


「…これ、ボクのスマホ……と、紙?」


読もう思ったが…暗くて全く見えない。スマホのライト機能を使う。そこには汚い字でこう書いてあった。


———餞別だ。そっちでも上手くやれよ。


「…何が、餞別だ…ですか。これ…ボクのスマホだし。」


強がる必要もないのに全力で泣くのを堪える。ここで泣いたら…絶対、師匠に笑われるから。


「……師匠?」


一向に出てこない。師匠の事だから、隠れてボクの反応を観察していると思っていたのだが。


「……あ。」


ポケットの中から、紙切れを取り出し…その連絡先に電話をかける。


「…彩ちゃん?」


『おかけになった電話番号は現在使われておりません。』


うん…分かってた。信じたくなかったけど……いつまでも師匠が出て来ない事も加味して考えて…ここが現実世界である事を改めて再認識する事が出来た。


(じゃあ、この紙とスマホは…何?)


考察しようとも思ったが…凄い眠い。このままだと地べたで寝てしまいそうだ。


「……帰ろう。」


師匠も彩ちゃんもいない場所に。そう思いながら下山した。


……



ボクが帰って来ると井上がずっとドアの前で待っていた。ブツブツとずっと文句を言っていたが、それを聞き流し…ドアについた立札にボクの名前が書かれた部屋に入り、荷物を置いた。


部屋の内装は同じような感じだった。


「……。」


眠い中、少しでも現実から逃避しようとパソコンを起動して、快楽に溺れようとする。


「……?」


楽しい。凄く面白いのに……何か物足りない。


数十分後、ボクはパソコンを切ってシャワーすら浴びずにそのままベットで寝た。





































































































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