2-666 帰宅至上主義者の友情
2人は夜の学校の廊下を歩く。
「…結構、雰囲気あるよねぇ〜夜の学校って。お化けとか出ちゃったりして…キャ☆」
「少し静かに…警備員に見つかるかも。」
「あっ、それもそうだね!!でも、大丈夫だよ。」
教室まではまだ距離は遠い。ボクは言えずにいた事を切り出した。
「……彩ちゃん。どうして校門前にいたの?」
「えーそれ聞いちゃうの?」
「…ごめん。言いたくなかったら、別にいいから。」
「……んー。しいていえば、お別れを言いに来たの…かな?」
ボクの足が止まる。
「…お、お別れ?何で……どう、して?」
「おお!?クールビューティーな唯ちゃんが、泣きそうな顔に……!そんなに悲しかった?」
「…茶化さないで。」
彩ちゃんはテンションを少しも崩さずに、それでも真面目に理由を話してくれた。
「…家の都合で、冬休み明けから海外に行かなきゃなんだよね。あーしが存在出来るようになった…弊害とかなんとからしいわ。よくは知らん!」
「……?」
存在……?何を言ってるんだろう。
「唯ちゃんがついに、自立すると思うと…ぶっちゃけ、寂しくて心配なんだけどさ…でも、嬉しいって思っちゃう。これが親友のいや、これはもう親の心理か…!もう中学からの付き合いだし。」
「…っ、ふざけないで!!」
親の都合なら仕方がないし割り切ろうと思っていた…でもそれとは矛盾するようにボクは感情のままに怒鳴っていた。
「…彩ちゃんが何を言ってるのか、分からない…親の事なんて、考えなくていい。ここにいたらいいんだ。もし彩ちゃんがいなくなったら…ボクは、」
ボクにとっての彩ちゃん…玉木彩は
心の支えで、唯一の救いにしてボクの理想像…ボクが中学生の頃、全てに絶望したボクが
生み出した——
「…あーしは嬉しかったんだ。唯ちゃんがあーしの事を必要としてくれて。大事な人形みたいにさ……側からみたらマジヤバい奴だけど。」
———妄想だった。
ボクはやっと自覚した……違う。最初から分かっていて……でも、認めたくなかったんだ。
「でも、あーしはもう、唯ちゃんのだけの存在じゃなくなっちゃったから。折角だしさ色々とこの目で見たいし…まあ、別に死ぬ訳じゃないから…メアド交換とかしちゃう?」
「……」
生憎と、ボクは今スマホを持っていなかった。それを察した彩ちゃんは何処からか、小さい可愛らしい手帳を取り出して、暗い中何かを書き込んでから、千切ってボクに手渡した。
「ほい、これ…後で連絡してね。電話番号も書いといたからさ。」
「…ありがとう。」
「わーわー、唯ちゃん泣いてるよ!?あーしの唯ちゃん泣かせた奴だれ!ちょっと男子ぃ〜」
「ふふっ…彩、ちゃんだよ。」
彩ちゃんは最後まで、悲しむボクを笑顔にしてくれる。
「唯ちゃんはこれから…何するんだっけ?」
「明日の始業式の帰宅の為の準備…」
「確かに大事だけどさ……違うっしょ?」
「……?」
「やっぱり憶えてないのか〜…んーでは教えてしんぜよう!おでこ出ーして?」
「…こう?」
「必殺、デコピンっ!!」
「あうっ。」
その瞬間、色んな記憶が脳に流れ込んできた。
「っ…何をしたの、彩ちゃん?」
「あーしは唯ちゃんの事全部知ってるからね。スリーサイズから、体を洗う順番まで…だから、唯ちゃん限定だけど、こういう事が出来るのだ!ねえ凄いっしょ?」
「す、凄い…けど…恥ずかしいよ。後、どうして体を洗う順番の事まで…知ってるの?」
「えへん!本職……ですから☆唯ちゃん、それを他の人とかにもしたら友達とか絶対出来ると思うけどなぁ。」
「余計なお世話だし理由になってないっ!!」
ボクが彩ちゃんから視線をそらすと、いつの間にか、二年三組の教室に辿りついていた。
「もう着いちゃったね……彩ちゃん。」
彩ちゃんは何も言わない。反射的に振り返ると、いつの間にか居なくなっていて、紙切れが落ちていた。
ボクはそれを拾い上げる。
『時間切れっぽい。けど、いつかまた会えるよ♪辛い食べ物ツアーもまだやってないし。次会う時は絶対行こうね!それまでには、少しは辛い物食べられるようになるから。唯ちゃんも甘い食べ物、ちゃんと好きになってね。今度こそあーしの大好物のグラブジャムンとか一緒に食べてみたいもん。約束っ!後、部長に言伝、頼んでいい?…それと、彼女にも。』
その紙を読んで、さっきの紙と一緒にスカートのポケットに入れる。
「……。」
やるべき事はもう、分かっている。彩ちゃんが全部、思い出させてくれたから。
「……行こう。」
自分に言い聞かせるように呟く。
ボクは扉を開けて、教室へと入った。
———バラバラと崩れていく。
人々の救出がひと段落して、一息ついていると花形の体が淡く光り始めた。
「……おっ、何だこの光は!?」
その声を聞いて、ライチがやってくる。
「レイチ殿、見てくれ…ついに、アタシが覚醒したぞ!!」
「……。」
レイチは無言ではしゃぐ花形を見つめる。
「…一ついいか?」
「クク。何だ?今のアタシはパーフェクトなアタシだ、何でも答えてやろう。」
「何故…人々を助けた。偽物だと分かっていただろう?」
はしゃぐのやめて、当たり事のように答えた。
「偽物であろうと、人は人だ…助けないという選択肢はまず存在しない。救える者は全て救う…たとえ人外でもだ。それがいつか世界を統括するべき存在であるこのアタシの素晴らしき思想である。どうだ、感服したかね?」
「…もし、救えない存在がいたなら…どうする?」
花形は不敵に笑う。
「敵でも何でも、誰しもが心が…感情がある。なら、たとえ救えなくても…ちゃんと心を通わせたのなら、正しき道へと導ける。このアタシを誰と心得る…アタシは」
「世界を統括するべき存在…か。」
「クククッ!!!分かってるじゃあないか。質問攻めのお返しだ。レイチ殿ならどう考える?」
思わぬ反撃に言葉が詰まる。
「…我は…我には、まだ分からない。」
「クク、そうか。意地悪を言ったかね?」
「…だから、我は人間…いや、羅佳奈の…」
言おうとした時には、既に花形の姿は何処にもなかった。
「…時間切れ…か。」
レイチは空を見上げると、『煉獄』特有の黄緑色と黒色を混ぜたような色になっていた。
「力になろう…もし、時が来たら我の事を…必ず呼べ。」
誰もいなくなった瓦礫の上でそう言い切った。
………
私はふと左手を見た。
「…ここまでですね。」
「ん?あーそうだな。楓さんと共闘とか…新鮮で楽しかったぜ。これが夢じゃなかったら、もっと最高だったろうなぁ。」
一瞬、誤解を解こうかと悩んだが…やめておく事にした。
「……山崎くん。その、」
「…?どうした。」
「……夢から醒めるのにも、もう少し時間がかかりそうです。」
木の枝を山崎くんに向けた。
「…ハッ、いいぜ。討伐数的に…同じくらいだったしな。もやもやしてたんだ。」
「いいえ。山崎くんがあの場に来てくれた時点で、共闘した時に倒した数の倍以上の敵を始末していますので。私の方が倒しています。」
(あれ…どうしてムキになっているのでしょう?)
その理由は分からないまま、会話が進行する。
「…チッ、そうなのかよ…!」
「…来るなら早く来て下さい。あまり時間は残ってませんよ?」
私の命も———とは言わなかった。
「…私から行きましょうか?」
「いや、俺から行くぜ…そっちの方が、勝機があるからなぁーー!!!」
山崎くんがサバイバルナイフ片手に、全力でこちらへと突っ込んで来る。それを一歩も動かずに木の枝で相殺しながら思う。
(山崎くん…前よりもちょっとだけ腕が上がりましたね…ふふっ。)
その気持ちはすぐにかき消え、集中する。この世界から2人が消えるまで、戦いは続いた。
……
「……フッ、合格だ。」
「や、やったわ!!」
「…違えだろ。リエラ」
男…詫錆師匠に軽く睨まれてハッとした。
「…!おにいちゃん…あたし…うれしい。」
「……!?…その通りだ。俺からはもう何も言う事はない。免許皆伝だ…これからも精進しろよ?」
「うん。おにいちゃん…ティッシュいる?鼻血でてるよ。」
詫錆師匠にティッシュを手渡した。
「ありがとう〜〜!!!は、はは。感無量だ…ここに楽園があったんだ……もう俺、死んでもいいや……」
「…だめ。おにいちゃんは、もう少し大きくなったらあたしのおよめさんになるんだから。」
体がビクッとしたと思ったら、白目を剥いて卒倒した。
「…お、おにいちゃん?」
「……っ!?詫錆先輩!!」
そこにもう1人の男が戻ってきた。
「…気絶してだけか。良かった…うわっ何これ詫錆先輩、輝いてるけど…まさか、昇天するのか?」
わたしは口調を元に戻した。
「違うわよ……どうやら時間のようね。何ならアンタも光ってるわ。」
「え……っ!?本当だ!!おれが来た時に先輩達がいなかった理由って…これだったのか!」
驚いた後、男は深く深呼吸をしたりして、心を落ち着かせているようだった。
「…ここって何処とか、教えたりとかは?」
「あたしもよく知らないわ。」
「……そうですか。おれ、というか…皆、死なないですよね?」
「…元の場所に戻るだけだから、多分大丈夫よ。アンタも…詫錆師匠も…ね。」
「詫錆…師匠?」
「何でもないわよっ!何か聞きたそうな顔してるじゃない…いいわ。詫錆師匠に免じて、一つだけ、答えてあげる。」
男は少し驚いた表情をした後に、こう言った。
「…ここに、誰か通らなかったですか。」
「詫錆師匠のレッスンに集中してたし…何とも言えないけど……あ、制服姿の娘が変な歩法で凄い勢いで通り過ぎて行ったわよ。今思い出したわ。」
「…!」
その反応を見て、ついからかってしまう。
「アンタの知り合い?あっ、恋人だったりして。」
「えっ。いや、違いますって……小さい頃からの幼馴染です…ある意味では腐れ縁と言ってもいいかもしれないですけど。」
「そ。で、その娘がどうかした?」
「ただ…気になっただけです。おれが先輩達と合流しようとしてた時に、すれ違ったので。それで。」
「…つまんないの。」
ふと、あたしは閃いた。
「アンタ、名前は?後、目を閉じて。」
「井上陽翠ですが…あの、こうですか?」
「…ん。よし…目、開けていいわよ。」
「おれに何かしたんですか?」
あたしは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「…何でもないわ。」
「え!?絶対…何か仕組んだろアンタ!!」
「口調が崩れてるわよ。じゃあ、詫錆師匠によろしくね〜。」
「…は、え?…ちょっ、」
男と詫錆師匠が消える。
「…誰か1人くらいは、この事を覚えてても…面白そうだし…あたしをここまで本気にさせたのは…詫錆師匠だけなんだから。」
責任…取ってもらわなきゃね。
『全てを魅了させる悪魔』リエラは恍惚な表情でそう呟いた。
………
……
「ね?……何とかなったでしょ。リード君。」
「マジで癖者ばっかだな人類代表の周り。まさか公爵級の悪魔連中が、こぞってやられちまうとは。数年後くらいで、普通に復活するから別にどうでもいいが。」
「私の功績ってよりかは、我らが部長陛下のお陰なんだけどね。凄いでしょ?」
「……ケッ。他力本願なのは相変わらずなんだな。」
「ん?まあね〜私1人じゃ何にも出来ないから。これぞ適材適所だぜリード君。ていうかさ、悪魔は強い癖に快楽主義だから本当、単純で助かったよ。やりやすくていいや。」
リードは嫌そうに舌打ちした。
「否定はしねえけどイラつくな。もう条約破棄してアイツが顕現するリスク覚悟で、ここで殺すか。案外面白い展開になるんじゃねえか?」
「よし、謝ろうごめんなさい!!」
「謝罪が早えよ。昔あったプライドとかはどうしたんだ、ん?」
「そんな価値がない物…適当な奴に食わせといたよ……おっ。」
谷口の体が淡く光り始めた。
「…私もここまでらしい。後はそっちでやれそうかい?」
「後はあのガキ次第だ。」
「…そうかい。」
お互いに黙る。先に沈黙を破ったのはリードだった。
「おい人類代表。」
「…何だい?リード君。」
「……借りを作るのは癪だが…頼みがある。」
谷口は目を丸くする。
「へぇ…珍しい。リード君が私に頼み事なんて…あの装置の一件以来じゃないかい?」
「そうだな…オレをガキが元々いた世界に、連れて行け。」
「む…つまり、私達の世界に行きたいって事?」
リードは頷いた。
「…リード君がそこで何をする気なのかにもよるけど…聞くだけタダか。言ってみ?」
「そんなの、決まってるだろ。」
それを聞いた谷口は、楽しそうに笑った。
「ははっ。いいね…やろう。唯ちゃんには少しでも救いがあった方がいいしね。」
「…だろ?」
「でも、それは100%リード君の意志じゃないね。」
その言葉に思わずリードは黙った。
「付き合い長いしさ…分かるよ。リード君の性格的に、理由もなしに誰かを助けるとか基本しないじゃん。その裏には必ず訳がある。大方…契約絡みなんじゃないかな?」
「……」
「無言っていう事は肯定って事か。悪魔は快楽主義者の集まりだが、唯一、契約だけは遵守する。何故なら契約を破れば復活する事なく問答無用で死ぬからだ。この場合『契約の内容を言ってはならない』とかかな?…多分だけど。」
「……。」
「追及は………しないでおくよ。そっちの方がいいだろ?別に私はリード君を責めている訳じゃないんだからさ。」
「ケッ……そっちの方が助かるな。」
谷口はニヤリと笑った。
「じゃあ、依代は…」
「いらねえよ。直接出向く。」
「場所はあの山の神社でいいかい?」
「絶境神社か…分かったぜ。」
「了解。あっちで少し準備するから…うん、もう行くよ。」
「…さっさとしろよ。」
「はいはい。」
そう言い残し、谷口の姿が消えた。
「……。」
リードは目を閉じ、さっき言った事を思い出していた。
———ガキが幸せに生きられるように、世界を捻じ曲げる。
(いいんだな。ジジイ……これで。)
壊れた鳥居から…今頃ついたであろう残雪唯がいる学校の方角を谷口の準備が終わるまで、ずっと見つめる。
——偽りの日の光が辺りを照らし始めていた。
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