第3話 追放

「ジェイク! 今日でお前をこのパーティーから追放する!」



 いつものようにクエストを達成させ、ギルドに報告した直後、俺はパーティーのリーダーであるアキムから唐突に追放を言い渡された。



「っ!? アキム、一体どういうことだよ!!」



 小さな村で剣を振っていた俺を冒険者に誘ってくれたのは、他の誰でもないお前じゃないか!



「フン! そんなの、お前がタンクしか出来ない奴だからだよ!」

「っ!?」



 アキムの言葉に、俺は小さく唇を噛む。


 確かに、俺はジェイクみたいな剣の才能も無ければ、マリーナのような強力な攻撃魔法を打つことも、エリカのような支援魔法も唱えることも出来ない。

 俺に出来るのは、パーティーの壁役として頑丈な体と大きな盾で敵を引き付け、みんなを守ることだ。


 小さく拳を握った俺に、アキムは下卑た笑みを浮かべる。



「それになぁ、俺たちSランクパーティー『聖なる光』は、勇者様と聖女様を迎えることにしたんだ!」

「えっ、勇者様と聖女様ってあの……」

「そうだ! だから、お前のような肉壁は邪魔なんだよ!!」



 アキムの罵りを聞いて、マリーナとエリカが揃って下品な高笑いをする。

 それにつられるように、ギルドにいた他の冒険者からも蔑んだような笑い声が聞こえてきた。


 ……俺だけか? 俺だけだったのか?

 大切な仲間だと思っていたのは?

 だから、パーティー壁役として、数多の魔物達を引き付けて仲間を守っていたのに……


 愕然とする俺に向かって、アキムが指を指す。



「さぁ! 分かったならとっとと……」

「それなら、俺たちが勧誘しても問題ないですね?」



 誰だっ!?


 慌てて入口の方を振り返ると……そこには、銀色の鎧を身に纏った黒目黒髪の男性と、純白のローブを着た黒目黒髪の女性が立っていた。


 黒目黒髪の男女……もしかして!


 口を開こうとしたその時、アキムが俺の視界を遮った。



「あっ、あなた様方は、もしかして勇者様と聖女様ですか!?」

「いかにも、俺たちは勇者『レン』と聖女『マヤ』です」

「「「「「「!!!!」」」」」」



 突如として現れた勇者様と聖女様に、いつもは騒がしいギルドが一気に静まり返る。

 すると、俺の方を見た勇者が、笑みを浮かべると目の前にいるアキムを押しのけた。



「あなたが、Sランクパーティーの『聖なる光』の『凄腕タンク』、ジェイクさんですね?」

「はあっ!?」



 声を荒げるアキムをよそに、俺は恐る恐る口を開く。



「ええっと……凄腕かどうかは分かりませんが、Sランクパーティー『聖なる光』のタンク役でしたら俺で合っています」



 すると、安堵の表情をした勇者が手を差し出してきた。



「良かった。それなら、いきなりですが俺たちのパーティーに入ってくれませんか?」

「えっ?」



 俺が、勇者様のパーティーに……?


 突然の誘いに唖然としていると、慌てた表情のアキムが再び俺の前に出た。



「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、勇者様! こいつは、肉壁にしかなれない無能ですよ! だったら、『剣聖』と謳われている俺が率いているパーティーに入った方が……」

「はっ?」



 不機嫌そうに顔を歪めた勇者様が、冷たい目でアキムを見る。



「『タンク』の役割をろくに分かっていない奴のパーティーに誰が入るかよ」

「えっ?」

「そうよ。優秀なタンク役がいてこそ、安心して攻撃に集中出来るのに……あんた、今までこの人の何を見てきたの?」

「そっ、それは……」



 勇者様と聖女様の言葉に、アキムは悔しそうに口を噤むんだ。

 それを見た勇者様は小さく溜息をつくと、再びアキムを押しのけ、俺の方に手を差し出す。



「あなたが、このパーティーのタンク役として有能なのは、ここに来る前から知っていました」

「えっ?」



 勇者様が、俺のことを知っていたのか?



「ですから、どうか俺たちのパーティーのタンク役になってくれませんか?」

「……ほっ、本当に俺で良いのですか?」



 パーティーの壁役にしかなれない俺が入っても?



「はい! むしろ、あなただから入って欲しいなのです!」

「っ!!」



『俺だから』か……そんなこと、アキムから冒険者に誘われた時にすら言われたことなかったな。


 勇者様と聖女様の満面の笑みに、俺は迷わず手を取った。

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