第2話 召喚

「ここは、どこ?」



 ついさっきまで大学の友達とカラオケに行っていたのに、家に帰った途端に突然眩い光が視界を覆って……



「おおっ! ついに成功したぞ!!」

「っ!?」



 誰、このおっさん!? それに、周りには見知らぬ人達がたくさんいる!?


 大理石で作られた床に座り込んでいた私は、周りにいる人達の嬉々とした顔を見て、恐怖を覚えて咄嗟に体を抱き締めた。

 すると、アニメで見るような大神官の服を着たおじさんが、こちらに近づくとしゃがみこんだ。



「創造神に遣わされし聖女様よ。どうか、魔王の脅威に晒されているお救いくださいませ」

「っ!」



 この瞬間、私は理解した。

 この世界は、アニメやラノベで見た異世界で、私はその世界に『聖女』として召喚されたのだと。



「ささっ、聖女様。冷たい床に座っていても何ですから、立ち上がって神殿に向かいましょう」

「神殿、ですか?」

「はい。そちらが、今日から聖女様の住まう場所になります」



 住まう場所……つまり、私の居場所になるというわけね。


 差し伸べられた大神官の手を取らず、自らの足で立ち上がった私は、神々を信仰する者しか立ち入ることが許されない神殿に入った。

 そして、そのまま聖女のために用意された部屋に通された。



「それでは、今日はこちらでゆっくりお休みください。そして、早速ではありますが、明日は勇者様と会っていただきます」

「勇者様ですか?」



 この世界に、まさか勇者がいるなんて思わなかった。



「はい。つい先日、勇者様がこの国に現れましたので」

「そう、ですか……分かりました」



 ニコニコ顔の大神官が立ち去った後、キングサイズのベッドに倒れ込んだ私は、そのまま仰向けになる。



「生まれてすぐ、養護施設の前に捨てられたからというもの、何だかんだで平穏に過ごしてきたけど……まさか、異世界に召喚されるなんて」



 大きく息を吐いた私は、そっと窓に目を向ける。

 そこには、澄み渡る青空と、歴史の教科書か異世界もののアニメで見たような西洋風の建物が広がっていた。


 本当に私、異世界に召喚されたんだ。



「それにしても、勇者かぁ……一体、どんな人なのだろう?」



 爽やか系イケメンかな? それとも、俺様系イケメンかな? はたまた……



「私と同じ日本人だったりして」



 だとしたら、これは運命の悪戯以外の何物でもない。


 まだ見ぬ勇者を思い浮かべて笑みを零していると、部屋のドアがノックされて侍女らしき女性が現れた。

 その後、自分の世話をしてくれる侍女達を一通り紹介され、食事を済ませるとあっという間に眠りについた。





 そして、翌日。

 朝から侍女達に体を磨かれ、『聖女様の正装』とされている純白な生地に金色の刺繡が施されたローブを身に纏い、これまた侍女達に清楚に見えるメイクと髪型にしてもらうと、そのまま大聖堂に通された。

 すると、聖堂の奥で鎧を身に纏った黒髪の男性が振り返った。



「おぉ、あなたが『聖女』様か」

「っ!?」



 黒髪に黒目……どう見たって私と同じ日本人じゃない!


 『冴島 錬』と名乗ったその勇者は、運命の女神様に導かれてこの世界に転生してきたそう。


 ちなみに、私を大聖堂に通した途端、私を連れてきた大神官や他の神官達は全員下がった。

 どうやら、勇者と聖女の会話は神聖なものとして聞いてはいけないとのこと。



「聖女様の名前を聞いた時、『まさか!?』と思ったが……本当に、俺と同じ日本人だったなんて」

「私も、まさか勇者が同じ日本人だとは思わなかったわ」



 呆れたような顔をする私に、勇者はニヤリと笑みを浮かべた。



「それで、どうする? 勇者が来たってことは分かっているんだろ?」

「えぇ、魔王を倒すために私を仲間にしたいんでしょ?」

「その通り!」



 ニヤリと笑った私は、勇者から差し出された手を取った。



「良いわよ、一緒に行ってあげる」

「おぉ、ありがとう!」



 せっかく、聖女として異世界に召喚されたんだ。

 だったら、勇者と共に魔王を討伐しなくちゃ!


 固い握手を交わした私は、改めて自己紹介をする。



「改めまして、私の名前は『倉原くらはら 麻耶まや』。これからよろしく、錬君」

「あぁ、よろしく! 麻耶さん!」



 こうして、私は勇者と共に魔王討伐の旅に出た。

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