第1話 転生

「う、ううっ……」



 目を覚ますと、そこは真っ暗で何も見えない空間だった。



「ここは、一体……」

「目覚めましたね」

「っ!?」



 だ、誰!?


 美しい女性の声に驚いてそちらの方を向くと、そこには目が覚めるような水色の髪に、サファイアのような瞳をした美女が、純白の羽衣を纏って立っていた。


 その美しさを目にした瞬間、俺は悟った。



「……俺、死んだんですね?」



 完璧に整った眉を顰めた美女は小さく頷いた。


 そうだ。俺、全寮制の高校の合格発表を見に行った帰りに、トラックに轢かれたんだった。



「ということは、あなたは女神様なのですね?」

「いかにも、私は運命を司る女神でございます。よく分かりましたね?」

「ヘヘっ、俺、異世界もののアニメとかラノベとか読んでいたから、美しいあなたを見てすぐに分かりました」

「そう、でしたか……」



 悲しそうな顔をする女神様に、俺は笑みを少し潜めた。



「何となく分かりますよ。女神様、俺が死んだことを悲しんでいるのですよね?」

「はい、それもありますが……」



 女神様の更に悲しそうな顔を見て、毎日のように異世界ものを見ていた俺はようやく理解した。



「もしかしなくても、俺に勇者として異世界を救って欲しいんですか?」

「っ!? どうして、それを……」



 驚いた顔をする女神様に、俺は得意げに笑った。



「言ったじゃないですか。俺は、異世界ものを見たり読んだりしていたから何となく分かるんですって」



 それに、両親がクズだったこと以外、至って普通の男子中学生だった俺が、死んだからって常人離れした美しさをもつ女神様に会えるはずがない。


 俺の言葉に啞然としていた女神様は、小さく息を吐くと真剣な顔になってこちらを見た。



「そうです。あなたには今から、勇者として世界を滅ぼす魔王を討伐していただきます」

「ほら、やっぱりね。だったら、チート能力はあるんだよな?」



 異世界転生ものと言えば、やっぱりチート能力に決まっているでしょ!



「『チート能力』というものがどんなものか存じ上げないのですが……一応、魔王を倒せるだけの体力と魔力、そして武器を授けさせていただきます」

「ウッヒョー! そう来なくちゃ!」



 魔王を倒すんだから、そういう能力は授けてもらわなくっちゃ困る!



「ですが、最初から魔王を倒せるだけの力を与えると、世界のバランスが乱れてしまうので……」

「『そこは、自分で鍛えろ』ってことですね? 大丈夫ですよ! 俺、チート能力を貰ったからって努力を怠るつもりはありませんから!」



 それに、努力することは何だかんだで好きだ。

 努力すればするほど、それは自分の力になり、色んな人達に認められるから。

 合格した全寮制の難関校だって、毒親達から離れたい一心で必死に努力して掴んだ結果だ。

 けどそれは、俺の努力を認めてくれた人達の支えがあったからだ。


 自信に満ち溢れた俺の顔を見た女神様が、固まっていた表情をフッと緩ませた。



「やはり、あなたは運命に導かれただけのことはありますね」

「運命?」



 それは、一体どういう……


 首を傾げる俺に向かって、慈悲深い笑みを浮かべた女神様が手を翳す。

 すると、俺の足元に真っ白な魔法陣のようなものが現れた。



「おっ!」

「これからあなたには、過酷な運命が待っているでしょう。ですが、私は信じています。あなたが、あなたと似た境遇にいる仲間を見つけ、その仲間と共に魔王を倒してくれると」

「俺と似た境遇の人達が、俺の仲間になるのですか?」

「えぇ、これから出会う仲間は、全員があなたの似た不遇の運命を辿った人間達です」



 すると、女神様はチート武器と共に、ある力を授けた。


「女神様、この武器がチート武器なのは分かりましたが、一緒に授けられた力は何ですか?」

「これは、あなたが仲間を見つけるための道標になる力です」



 それは、自分や他人のステータスが見ることが出来るチート能力だった。



「この力を使って、あなたは『勇者』として、『聖女』『凄腕タンク』『天才魔術師』を仲間にするのです」

「その3人を仲間にすれば、魔王が倒せるのですね?」

「はい、そうです」



 眩い光の中、俺は女神様に背中を押された。



「期待していますよ、『冴島さえじま れん』さん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る