Can You Keep A Secret?

シンカー・ワン

不義

 天体観測で評判な、小高い丘の上にある公園。

 今夜はあいにくの曇天で瞬く星は見えないが、見下ろす街の明かりが星に劣らぬ輝きを放っている。

 遅い時間、今にも泣き出しそうな天候では夜景を見ようなどというもの好きも居ないと思われたが、展望台下露天駐車場の隅に車が一台。

 屋外照明から外れるように停められていたのは右ハンドルの高級セダン。よく見ればどっしりとした車体が不自然に揺れている。

 わずかに届く弱い光でうっすらとフロントウィンドウ越しに見えるのは、車内で絡み合う下半身丸出しの男とほぼ全裸の女。

 年嵩の女と若い男が水平近くまで倒された助手席で重なり合っていた。

 快楽を求めあう激しい動きを高性能サスペンションも吸収しきれず揺れが生まれていたのだ。さすがに高剛性のボディは軋むような音をたてはしなかったが。

 揺れはしばらく続いたが次第に大人しくなり、そして止まる。

 行為を終え昂ぶりが収まるのを待って身体を離すふたり。互いに無言で情事の後始末。

 運転席でズボンを穿き直した男――三十には届いていないだろう――がエンジンをかける。

 始動時にわずかな振動が伝わるがそれだけ。キャビンにはエンジン音も入ってこない、静粛性はさすが高級セダンというべきか。

 男は無表情のままエアコンの送風モードを強にしたあと、センターコンソールの窓開閉スイッチで両サイドのウインドウをわずかに開け、車内にこもっていた熱気と情事の残り香を外に逃す。

「――尚史なおふみさん、わかっていると思うけど」

 脱ぎ散らかしていた服をようやく整え何事もなかったかのように助手席に座る女――年のころは四十代か?――が、目くばせしつつ隣りのなおふみに言葉を投げかける。

「ええ。バレたらお互い身の破滅ですからね」

 破滅なんて強い言葉を使ったわりに軽い口調で返し、尚史は助手席側へと向き直ると右手を女の左手に重ね、

「僕もお義母かあさんともっとこうしていたいですから」

 言って熱のこもったまなざしで義母を見つめる。

「あ、あなたって人は……」

 瞬間、身を強張らせるも頬を染めまんざらでもない声音で告げ顔を逸らす義母はは

 "……まったく、この好きモノがよ"

 義母のそんな態度に辟易しつつも、尚史は冷めた態度を表には出すことはない。

 "義父だんなとご無沙汰みたいだから、ちょっと押したらホイホイ股を開きやがって……どんだけ飢えてたんだって"

かなこにもお義父とうさんにも悪いと思っています。でも僕はお義母さんのことを……」

 色欲に負け畜生道に堕ちた義母を内心嘲りながら、重ねた手に力を込め取り繕う言葉を並べる尚史。

「尚史さん……。いけない母親ね、私」

 てのひらで転がされていることも知らず、娘婿の耳触りの良い言葉にとろける義母。

 許されざる関係に堕ちた自分に酔っている義母の様子に、こみ上げてくる黒い笑いを必死に堪える尚史。

 もう一戦しかけてきそうな義母の劣情を、重ねていた手を離すことですかし、

「帰りましょう。雨も降ってきました」

 フロントウィンドウに付く水滴に目をやり、返事を待たずよどみなく車を発進させる。 

 どこか不満げな義母を軽く横目で見やって胸の奥で嗤う尚史。

 道ならぬふたりを乗せた車のテールランプが雨に滲み、夜の闇に消えていった。

 車が走り去った後、打ち捨てられた使用済みの避妊具がふたりの秘密を物語る。

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Can You Keep A Secret? シンカー・ワン @sinker

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