第6話

 証券マンの思惑通り僕の買った鉄鋼株も大きく上げた。買値から5割くらい上げたところでなかば強制的に売らされた。すこしムッとしたが、儲かったからいいか、と妥協していた。証券マンは自分の手柄のように勝ち誇ってますます主導権を握ろうとしていた。その後、思惑通り循環物色は続き、証券マンの進めた株は次々に利食いを繰り返し、投資資金はどんどん膨らんでいった。そのころになると自己資金ではもの足りなくなり、妻から借金をしたり、信用取引にも手を出すようになった。所詮、ずぶの素人の僕が勢いにまかせてここまでやってきたが実際には何が何だか分からなくなっていた。またこれが地獄の1丁目にいるとは知る由もなしに。

 1989年頃になると証券会社は大繁盛で老若男女、子連れの主婦までが証券会社に押し寄せお祭り状態になった。踊る阿呆にみる阿呆どうせ阿保なら踊らにゃ損々状態になってきた。僕はふと思った。1929年のニューヨーク市場の大暴落を連想させた。しかし、日本では著名な評論家までが日本のファンダメンタルズの良好さを念仏のように繰り返し、日本経済の強さを力説していた。僕の知見では到底この流れに逆らうことはできなかった。

 また、株で溢れたお金が不動産市場にも流れ出した。連日地価は高騰し都内の好立地はあっという間に倍価した。政府は一般の人が土地を購入できなくなるなどと危機的な発言もしていた。

 1989年の12月には日経平均が4万円に近ずいてきた。証券会社は来年は4万円からだ、などと大合唱をして強気に12月の大納会を終えた。



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