第5話

 今日の2人は珍しくテーブル席に座り経済新聞と株式新聞を広げていた。銘柄を検討しているらしい。証券マンは「出遅れ銘柄ですよ、まだ買われていない銘柄はどれでも買いですよ。」証券マンは強き一色で息巻いていた。僕も2人が連日儲かっているのをみるとさすがに心が動いた。株や投資の時代なのかもしれない、テレビでは連日、評論家が日本の経済の強さを論じている。弱気を論じている評論家は1人いたが、多勢に無勢、みんなで渡れば怖くない、状態である。僕もいよいよ少しだけやってみようかという気持ちになってきた。証券マンが「よし、きまり」と鉄鋼株を奨めてきた。僕は少し間をおきながら「じゃ、おまかせします」とたどたどしく応えた。

 翌日、N鉄鋼の株を2000株買った。人生初の株式投資である。20万くらいであるが少し気持ちは高ぶった。

 ネットのない時代である。株価の情報は完全に証券会社に委ねられていた。証券マンは朝昼晩と毎日電話をしてきた。

 株価は思惑どおり上がり続けた。証券マンの言うとおりまだ買われていない業種から順番に買いが入っていった。証券マンは自信に満ちた声で「強気で行きましょう、一通りの循環物色が終わるまで、買いですよ。」

有無を言わせない説得力だった。



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