第3話

 2人が帰った後、僕は気を取り直してコーヒー豆の焙煎に取り掛かった。店内には甘い香りが漂い至福の時間だ。

 今の僕にとってはコーヒー豆と対峙して日々のお客さんを大事にしていくことが喜びであり安定した生活である。株だの経済だのはまったくの絵空事であり近づいてはいけない動物的本能が働いていた。

 翌日から2人は毎日のように来ては、利益をあげている自慢話をしている。一通りまくしたてると上機嫌で帰っていった。

 テレビや新聞のニュースでは連日、日本の株価が上昇することを示唆している。僕にとっては他人事であまり気にも留めなかったが、連日、目の前でも大合唱をされると耳も塞ぎ切れなくなり、証券マンの「口座だけでも作っておいたらどうですか」という言葉に断り切れなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る