第十七話:鬼


 デルタが聞き取ったそれは学園にじんわりと広がって行った。

 そう、まるで怪我した場所からじんわりと血がにじみ出るかのように。




「アルファ! 大変です、遺跡から化け物が出たって知らせがありました! 既に関係者と警備員に負傷者が出たそうです!!」



 白衣を翻しながら、学園の女医であるガンマ事鳥、山賀美奈は慌てて生活指導室へやって来た。

 そしてそれを聞いたアルファは驚き状況をガンマに確認する。



「化け物って、一体どんな!?」


「鬼です! 私たちの時代に発生した異界の化け物、認識体『鬼』です!!」


 

 鬼。

 日本では頭に角を持った屈強な化け物として古来よりその伝説は存在していた。

 しかし、アルファたちのいた未来ではそれは伝説ではなく、実際に人々を食い殺す化け物であった。

 「鬼」と便宜上呼ばれてはいたが、ファンタジー好きの者には「オーガ」という化け物にも見える。

 が、どちらにせよ人を喰うという点では同じ脅威であろう。



「異界の門がある訳でもないのに、一体どう言う事?」


「それは分かりません。しかし、遺跡調査中の現場に現れたともっぱら騒ぎになっていて、調査員の一人が行方不明になっているそうです」


 思わず立ち上がりアルファはガンマに聞く。

 ガンマは現在分かっている事をすぐに答えるが、肝心などうやってその化け物が現れたが不明だった。



「そんな……俺は女体化しているし、俺自体何も起こってないってのに?」



 歩は自分の手を見ながらそんな事を言っているが、アルファはすぐに通信機でアイナに連絡をする。



「こちらアルファ、アイナ指令緊急事態です。学園内に異界の者が現れました。認識体『鬼』です。現在詳細の確認中。指示を願います!」


「とにかく私たちはあゆみさんの護衛にを。デルタ、手伝って!」


 アルファがアイナに連絡を入れている間にガンマはデルタにそう言ってブレスレットに手をかざすと、ベータ同様にまるでウェットスーツの様なぴっちりとした衣装に一瞬で変わる。

 そしてベータ同様に未来的なゴーグルをかけ、耳にはインカムを装着する。

 腰回りにはホルスターもあり、銃のような物も見える。

 デルタやアルファも同じくブレスレットやペンダントに手を触れると一瞬でガンマと同じような姿に変わる。


 それは未来の技術の一端であり、とても気になるので、そのプロセスをもう一度ゆっくりと見てみよう。



 先ず、各人が装着しているそれは歩も持つマルチ発信機と同じく、この時代で活動する為の必須アイテムである。

 アイナのブラジャー型保管スロットと同じく多数のスロットを保有しており、その中には両手に持てるくらいの装備が入れて置ける。

 勿論、こう言った非常事態に活動できる身体強化スーツも入っており、それを着替える時間を圧倒的に短縮する能力もある。


 こちらの時代では学生や、女教師、女医と言った仮の姿であるが、基本的に装備している衣服はこの時代のものと全く同じだ。

 なので、強化スーツに着替えるのも各々のマルチに一つ一つその衣類を収納してゆく必要がある。


 ただ、それをオートで着替えモードに登録しておくと、それを発動させた瞬間に約コンマ零点五秒で着替えが実行される。



 この辺の解説を順を追って見て行こう。



 まず、ガンマがブレスレットに手を触れ、意識伝達モードでマルチがそれを認定するとガンマの装着している衣服を一枚ずつマルチ内の格納スロットに収納してゆく。

 それはまるで魔法少女が変身シーケンスを行うかのように白衣が、衣服が、そして下着が一つづつ光っては消えて行く。

 勿論、カメラワークは微妙な角度から当人たちをぐるぐると周り撮影しながらその裸体を映し出すが、重要な部分は腕などが邪魔したり、光が下着などが消し去る前に別角度に移り変わり、残念ながら見たい所が見て取れない。

 見れるのは無難なお尻位な物だ。



 だが、分かっている紳士諸君ならそれだけで十分だろう。



 そして胸や腰回りに先に光が現れ、強化スーツ専用のインナーが装着される。

 各人ビキニ姿に一旦なってからベースのウエットスーツのような物が体を光らせ装着されてゆく。

 そして腰回りや、腕手首、足にはブーツなどが装着されてゆき、ベータと同様な体のラインがはっきりと分かる姿へとなる。


 おっと、ここで解説し忘れる所だったがアルファやガンマは大人の女性なのでインナーが装着されたり、ベーススーツが装着されたりするごとに胸むにゅっとインナーに押し潰されたり、スーツ姿になる時に回転するカメラワークに合わせて揺れたり、むちっとしたりしているのはお約束である。


 少数派でデルタに興味を持つ方には残念ながらむにゅや、たゆんやぷるんは無いが、じっとりと舐め回すようなカメラワークで十分にそのプロセスを理解していただけたとは思う。


 こうして彼女たちは体のラインがはっきりと分かるベータ同様な姿へと変身と言っても過言でないような強化スーツの装着を行ったのだ。



「何それっ!? いや、変身シーンの着替えをゆっくり映し出す必要あったの!?」

   

    

 何故か歩は盛大に突っ込んでいるが、こう言った事情の解説は必要不可欠であるのは言うまでもないだろう。



「ベータも合流して! アイナ司令官、全員準備完了しました!」


 アルファはそう言って歩を取りか組むような陣形になる。


「磁場波形に異常は見られないです!」


「対魔物装備完了!」


 デルタもガンマも各々の役割の装備を行いアルファに報告をする。

 アルファは頷きアイナの指令を待っていると、床に黒い空間が現れそこからベータが現れた。


「ベータ合流完了しました。これより学園内でのあゆみさん護衛に入ります」


 そうインカムで宣言してアルファたちに合流して歩を守る陣形に加わる。

 歩は美女たちに取り囲まれるが、そんな中ベータ同様黒い空間が現れアイナもやって来た。



「状況は!?」


「今の所あゆみさんに異常は有りません。磁場波形計測も異常なしです!」



 アイナのその質問にアルファは簡潔に答える。

 そして注意深く周りを見ているが、今の所変化はない。



「アイナ、これって一体どう言う事なんだよ?」


「分からないわ。私たちのいた未来ではこんな事は起こらなかった。既に未来改変は始まっていて私たちの知らない歴史が動き出しているのよ」


 歩の質問にアイナはそう簡潔に答える。

 そして自らも未来的なゴーグルを取り出し装着して注意深く周りを見渡す。


「確かに異常は見られない…… となるとその『鬼』は一体何? どこから出ていたの??」


「分かりません、どうしますアイナさん?」


 アルファはそれでも銃のような物を注意深く構え周辺に注意を払っている。

 アイナは一瞬考えてすぐにベータに指示を出す。


「ベータはその『鬼』を確認、制圧可能であれば制圧を。学園は多分緊急避難が始まっている頃だろうから、そこへあゆみちゃんを合流させるのは、みんなを巻き込むからダメね。私たちは別個安全な場所へ移動するわ」



 「「「「了解!」」」」



 アルファたちは一斉にそう答え行動に移るのだった。



 * * *



 ベータは学園の裏側にある遺跡発掘現場近くの建物の上にいた。

 発掘現場には警備員が盾を持って負傷者を運び出している真っ最中だった。


 

「け、警察はまだかよ!!」


「こんな警棒じゃ役に立たねぇっ!」


「けが人搬送まだか!?」


  

 警備員たちに取り囲まれた鬼は動かず周りを見ている。

 がベータは気がついた。

 そのオーガはほとんど裸体であるが足元にこちらの時代の人間が着用するような靴を履いている事に。

 ベータはすぐにゴーグルに手をかざし、その靴をズームで確認する。


「解析…… 間違いない、この時代の一般的な靴。という事は……まさかあのオーガは!?」


 ガンマの情報では発掘調査員一名が行方不明となっている。

 ベータはすぐにデルタに連絡を入れる。



「画像情報を送信する、デルタ解析を!!」


「了解です! 受信画像の解析開始です!」


 デルタは歩を護衛しながらアイナたちと安全な場所まで移動をしていた。

 学生たちが避難する体育館とは反対の校舎屋上。

 ここからであれば周辺の状況がすぐに見て取れる。

 また、危険性が高まれば空間移動を行い別の拠点まで退避する事も出来る。


 まずは情報が欲しい。



「解析出ましたです! 画像より読み取れるこれは、です……」


 デルタはそれを見て一瞬言葉に詰まるが、過去事例も参照にある仮説を導き出す。

 そしてアイナにたちに報告をする。


「データバンク過去事例照合に一致する件があったです! 災害発生初期時に観測された人間を依り代に化け物化する事例に一致しているです!!」


「化け物の依り代ですって!? という事はその鬼は行方不明の発掘作業者ってこと?」


「照合率、九割越えです!」


 デルタの解析でどうやらそこに現れたその鬼は発掘現場にいた作業員が依り代になり、オーガへとなってしまったようだ。

 アイナはぎりっと奥歯を噛む。

 こうなってしまっては排除するしか方法がない。



「ベータ、確認して。他の犠牲者はいないの?」


「周辺での生命反応はもありません…… いや、この反応は!?」


 ベータは発掘現場周辺を見渡し、シートがかけられた崖側を見て言う。


「どうやら原因は発掘された遺跡のようです。巨大石造遺跡から異空間反応があります」


「……オーガの排除と遺跡破壊は可能?」


「現存戦力では…… 特殊装備使用の許可を」


「許可します。手短にお願いね」


「了解!」  


 ベータはそう言ってどこからか大型の銃を取り出す。

 それをオーガに向けて照準を見る。



「ごめんなさい……」


 

 かちっ

 カッ!!



 一言そう言ってから引き金を引くとまばゆい光を放ちそれが一瞬でオーガの上半身を消し飛ばした。

 次いでシートがかぶせられている遺跡にその銃口を向ける。 

 

 そしてまた引き金を引くと、再びまばゆい光が放たれシートごと遺跡の半分を破壊する。



 かちっ

 カッ!


 どッガーンっ!!



「こちらベータ、対象物排除に成功。特殊戦力消耗率二十五パーセント。映像を送ります」


 そう言ってあのゴーグルで現場を映し出し、そのデーターもアイナたちに送信する。

 それを受けとったアイナはすぐにデルタに指示をする。


「デルタ解析お願い。ベータは周辺の状況を確認後撤収」


 アイナのその指示でベータは周辺の状況を確認して撤収をする。

 そしてデルタの解析も終り、これ以上の脅威発生も異空間干渉の観測も無いことが報告される。

 アイナはそれを聞いて、大きく安堵の息を吐く。



「現時点を持って警戒レベルを通常状態まで戻すわ。みんなご苦労様」



 アイナがそう宣言すると誰となく安堵の息を吐き始める。



「終わったのか?」


「ええ、どうやら今回はあゆみちゃんとは関係ない所での問題だったみたいね。しかしこんな事、私たちのいた未来では記録に無い……これって未来変化が始まっているけど、あゆみちゃんの特異点以外での問題も発生し始めているってことかしら??」


 アイナはそう言ってゴーグルを外す。

 そしてそれをしまい込んでから難しい顔をする。



「とにかく今は脅威が去ったのですから、今後についての対策を見直すべきです」


「そう……ね。お疲れ様、みんなも通常任務に戻って良いわよ」


 アイナがそう言うと、アルファたちは一斉にあの強化スーツを光らせ元の服装に戻ろうとするのだが……



「うわっ//////// な、なんでみんな裸になるんだよ!?」


「ああ、そうか、あゆみちゃんは知らないのか。登録しているのは強化スーツとかで、通常任務の任務の衣服は登録して無いわ。だから強化スーツを解除すると裸になっちゃうのよね~。どう、嬉しい?」


「い、いいから早く服着ろぉっ////////!!」




 歩はアルファやガンマ、ついでにデルタのあられもない姿を目の当たりに声をあげるのだった。  


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