第十六話:現れるモノ
歩は学園行きのバスに揺られながら空を見る。
今日はどんよりと曇った天気だった。
夏休みの終盤、最後にみんなで行った温泉旅行から一週間が過ぎていた。
歩が体調不良という事で、恵菜の最後の夏休みの課題はアイナが見てくれたようだった。
もっとも、アイナにしてみれば高校生の課題など簡単であり、教え方も良かったために恵菜は最終日までには課題を仕上げていた。
なのでお約束の最終日に徹夜と言う事にはならずに済んだようだ。
夏休みの余韻もそろそろ抜け始め、学園にもいつも通りの風景が戻っていた。
学園について、バスから降り、教室へ向かうとあの声が聞こえて来る。
「おーっほっほっほっほっ! あゆみおはようございますですわ、アイナお姉さまはお元気でいらして?」
「やぁ、マイハニーあゆみ、今日も可愛いね? ところで姉上はどうなされているかな?」
大雲寺魔理沙や土岐速見凛も平常運転だった。
ただ、どうやらこの二人はアイナにぞっこんになってしまったようだ。
自分に被害が及ばなくなるならそれも良いかもと歩は思うも、関係者である以上完全にはそうならないかともあきらめる。
学園ではクラスメートも恵菜もデルタもいつも通りに接してくれている。
おかげで学園へ来ている間は気がまぎれ、だんだんと歩も元気を取り戻して来ていた。
「ねぇねぇ、聞いた? 夏休み中に学校の裏の崖工事していたら遺跡が出てきたって!」
「聞いた、聞いた! なんかすごく古い物らしいよね?」
「へぇ~、もう遺跡の調査とか終わったのかな??」
歩が教室で鞄から教材を出していると、そんな話が聞こえて来た。
そう言えば八王子は古来から人が住み着く場所、確か縄文時代の居住跡が出て来た事もある。
その昔聞いた話を歩は思い出していた。
「しかし、学校の裏手から出て来るとはね。ここって丘の上だったのにね」
住居場所としては良い場所とは思えない。
しかしこんな学校の裏手の崖辺りで遺跡があるというのだから住居跡ではないのかもしれない。
歩がそんな事を思っているとデルタが慌ててやって来た。
「歩さん、足利先生が呼んでいるです! 早く来るです!!」
アルファが?
歩は一体何の用だと聞きたがったが、みんなの前で聞く訳にもいかず、素直にデルタにくっ付いて行く事にした。
そしてデルタは急ぎ歩をアルファの所へ連れて行きながら早口で言う。
「遺跡の噂は知っているですね? その遺跡から妙なものが出たです!」
「妙なもの? 一体何が」
遺跡から変なものが出た?
一体それが自分と何の関係がとか思いながら歩はデルタにせかされアルファのもとへ向かうのだった。
* * *
「あゆみさん、よく来てくれました」
「あの、足利先生。ここ大丈夫なんですか?」
歩が連れられてきた場所は生活指導室だった。
もうすぐ授業が始まるこの時間、こんな場所に呼び出しを喰らうとは。
抗議の意を込めてわざと足利先生とアルファの事を呼んでみても、どうやら馬の耳に念仏の様だった。
「あゆみさんを呼んだのはこれなんです……」
そう言ってアルファは手を振って静止画面を映し出す。
そこにはどこかの地面から掘り出された石像の様なものがあった。
が、歩はそれを見て驚く。
「に、似ている…… あの女に似ている!?」
画面に顔を近づけまじまじと見る。
着ている服装は全く違っていたが、その顔は間違いなくあの女だった。
「やはりですか…… これが出てきた地層からこれは縄文時代らしいのですが、当時は土偶文化はあったとしてもこう言った石像をここまで精巧に作成することは不可能なはずなのです。しかしこれは紛れもなくその地層から出土した。そして、一緒にストーンサークルも出てきました」
「はぁっ!? す、ストーンサークルぅ!?」
歩は素っ頓狂な声を出していた。
日本における巨大石造物の遺跡というのはいくつか存在をしている。
しかし地中に埋まった巨大石造物など初めて聞いた。
「一体どう言う事だよ?」
「私たちがいた時代に保有するアーカイブにもこの件は有りませんでした。そもそもこれだけの物が出土すれば、必ず記録に残ります。つまり、これは未来への変化ではないかと思うんです」
「未来の変化?」
アルファは歩にそう言ってまた違う画像を表示する。
そこには新聞の記事がいくつか表示されるも、それは同じ日付の物が二つ表示される。
「これは我々のいた時代の新聞のデーターと、ここひと月以内の同日の新聞との対比です」
言われて歩はそれを見てすぐに気づいた。
「同じ日付なのに部分的に内容が違う?」
「そうです、この世界の未来は既に変化が起こり始めています。しかし、それが必ず良い方向へと向かっているかどうかが疑問となりました。それがこの遺跡発掘です」
アルファはそう言って先程の画像を再表示する。
それはやはり縄文時代の遺跡と言われても信じられないものだった。
「つまり、あんたたちのいた世界とこの世界の未来はもう分かれ始めているけど、それが目的の世界ではない可能性が出てきたってことですか?」
「そう、言う事です……」
アルファはそう言って唇をかむ。
しかし歩は首を振って言う。
「もしそうだとしても、俺が特異点になりさえしなければ異界からの化け物共はこちらの世界には出てこないのだろう? であれば世界の破滅へと向かう事は無いんだから、そこまで気にする必要はないんじゃないか?」
アルファたちのいた未来とこれからの世界が歩む未来が変われば人類は救われる。
それが目的であり、アルファたちが命を懸けてこの時代にまで来た理由でもある。
アルファたちの世界との変化が出たと言う事は、良い事ではないのだろうか?
「勿論それはそうなのですが、あゆみさんに確認してもらったその石像の女性が例の女性だというのであれば、彼らはさらに過去にこの世界に接触を試みていたのではないでしょうか?」
しかしアルファは歩にそうに劇的な事を言う。
そのアルファの言葉に歩はハッとなる。
「それって、遠い過去に俺のように特異点にでもなりそうな奴がいたってことかよ?」
「可能性は、否定しきれません。事実あゆみさんは男性時にスピリチュアル世界にアクセスできました。精神を宿す者であれば本来誰でも繋がられる、アクセスできるわけですから過去にこうった事があった可能性もあります」
アルファのその説明に歩は言葉を失った。
と、デルタが何かに気付く。
「なんか外が騒がしいです? 何があったのです??」
そう言って生活指導室の扉を開けて廊下を見ると外で騒ぎがおきているようだ。
何があったのか廊下に頭を突き出しているデルタの耳にとんでもない言葉が聞こえて来た。
「化け物が出たっ!!」
「はい、です!?」
その叫び声にデルタは瞳をぱちくりさせるのだった。
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