第十五話:悪夢
「俺の見た夢?」
「そうあゆみちゃんが見た夢を思い出せる事で良いから話して欲しいの」
アイナは真剣なまなざしで歩にそう言う。
歩はアイナに言われ困惑をするも、その真剣なまなざしに唾を飲みながら静かにあの悪夢を思い出そうとする。
すると、断片的だがあの夢が頭の中にちらほらと蘇り始める。
「あれは……」
そう言って歩はぽつりぽつりと語りだすのだった。
* * *
夢の中で、そこはどこだか分からない場所に、まだ男だった歩はいた。
そしてそんな歩を誰かが何処からともなく呼んでいた。
歩はその声に引かれどうやらそこへ向かっていたようだ。
そして辿り着いたそこで誰かと出会う。
それがあの女だった。
だがまだはっきりと見えない彼女に、歩は夢の中であの女に聞かれた。
「汝何を欲する?」
「俺は……何だろう? 何が欲しいんだろう?」
徐々にその問いを発してきた女の姿が見えて来た。
「汝、我を欲するか?」
「あんたを?」
見れば服を着ていたと思った彼女は裸になっていた。
真っ黒な長い黒髪を宙に漂わせ、漆黒の瞳に怪しい赤い光を宿し、驚くほど白いその肌は歩の好む大人の女性だった。
歩は元気になってしまい、彼女に手を出す。
そしてめくるめくる快感の中、歩は彼女と交わる。
歩が彼女と一つとなってお互いに弾けて混ざり合ったその時だった。
「汝、我が夫として未来永劫共になるがいい。我が主よ」
彼女はそう言って大きく口を開け、歩をむさぼり喰い始めた。
そう、交わりながら。
* * *
「うわっッ!!」
ぽつりぽつりと語っていた歩は思わず悲鳴を上げていた。
思い出した。
何があったか。
あの女は自分と交わりながら歩を食い殺してきたのだ。
脂汗を額に滲ませて、歩は息が荒くなっている。
それを聞いていたアイナは複雑な表情をする。
が、ベータはその様子を見ながらアイナに聞く。
「夢の、記憶が戻ったのでしょうか?」
「たぶん、その女との接触があゆみちゃんの忘れていた悪夢を思い出させたのね…… でも他の女と交わるだなんて! お兄ちゃん、浮気よ浮気っ!!」
アイナはぷんぷんと怒こっている。
夢の話だというのに。
が、ベータはそんなアイナの腕を引きあのストップウォッチの様な物を見せる。
「アイナさん、どうどう。それよりこれ見てください!」
興奮気味のアイナは歩を睨みつけていたが、ベータに言われそれをちらっとそちらを見てから慌てて二度見する。
「な、なにこれ? あゆみちゃんの磁場波形と一瞬現れたオレンジ色の波形が接近した? オレンジ色はほんの一瞬現れたけど、これどう言う事!? まさか近くに現れたの!?」
歩を見るも、歩は額に汗を浮かべて肩で息をしている。
まだ動揺から回復していない。
「なんであの女は…… だって夢のはず……」
そんな歩を見ていたベータはアイナに聞く。
「アイナさん、一度あゆみさんの精神鑑定をした方がいいのでは?」
「精神鑑定って…… はっ!? ま、まさか!!」
アイナはそう言ってあのタブレットパソコンを引き寄せる。
そしてあのストップウォッチみたいなものを有線で接続させて何やら操作を始める。
「異界、夢、そして私たちには見えない親玉の女。これってスピリチュアルじゃないの? となると、磁場波形ってチャネリング!?」
タブレットパソコンを操作しながらアイナはそんな事を言い始める。
ベータはそれを聞いて何かに気付いた。
「チャネリングと言いうと、精神世界とか何かの世界と接続して未知なる知識や現象を受け取るという」
「オカルトとして今までは否定的だったけど、あの災害以降に異空間定理によりそれが認証されたわよ。私たちの時代ではそれを異世界と称していたけど、そう言う事か!!」
アイナはタブレットパソコンを操作してその結果を表示する。
それは無限(∞)を現す画面だった。
「やっぱり! あゆみちゃんが見た夢は精神世界、つまりスピリチュアルだったのよ! そしてチャネリング効果で異世界の住人と接触し、その波長を合わせられた。特異点としてマーキングされたのよ!!」
アイナは画面を見ながら説明をする。
歩はそれを聞いてアイナに聞く。
「俺に、そんなたいそうな事が出来るはず無いだろうに……」
「いいえ、精神世界は精神を宿す者全てが繋がれる世界なのよ。これは異空間の観測が出来た私たちの時代では公然の事実となっているわ。ただ、それはこの世界だけに限定されていたのが、どう言う訳かあゆみちゃんにだけは異世界に繋がれた。多分チャネリング効果が同時に起こったのよ」
アイナの説明に歩は思い出す。
自分を呼んでいるような声があった事を。
「じゃ、じゃぁあの時の夢はそいつと俺が……」
「そう、浮気よ、うわきっ! お兄ちゃんには私ってモノがあるのに他の女と関係を持つなんて許せない!!」
「あの、アイナさん今それは……」
なにか言いたげなベータ。
憤慨するアイナだが、夢の中の出来事で怒られてもとか歩は思っている。
しかし、思い出したあの悪夢が全ての元凶だった。
「じゃぁ、俺は一体どうしたら良いんだよ?」
ギャーギャー騒いでいるアイナに歩はそう聞く。
するとアイナは腕を組んだまま言う。
「私が正妻だって宣言してあゆみちゃんから手を引いてもらうわ!!」
フンスと鼻息荒くそう言うアイナ。
そんなアイナに歩は大きなため息を吐く。
「そんな事で未来が変わるなら簡単だろうに……」
「とにかく、原因が分かって来たわ。すぐにあるアルファたちにも連絡を!」
アイナに言われベータはアルファたちにも連絡を散り始めるのだった。
* * * * *
「あゆみお姉ちゃん、もう大丈夫なの?」
「ああ、うん、大丈夫。ありがとね愛菜」
朝食のテーブルに座りながら愛菜は歩を心配する。
昨晩、色々と分かって来た事をアイナたちと整理して、今後について対策をとる。
まずは従来通り歩を女体化して、完全に女の子にする。
そして歩が精神世界、スピリチュアル世界に繋がらないようにする。
更にチャネリングを阻止して可能な限り磁場波形を近づかせないようにする。
そうして異世界からの親玉である、あの女を歩に接触させないようにすることが決まった。
とは言え、具体的に何をしてゆけばいいか分からないのでいつも通りに学校へ行く事にする。
歩は朝食を済ませ、玄関を出るとちょうど恵菜とデルタがやって来た。
「おはよう、あゆみちゃん。もう大丈夫なの?」
「おはようです」
歩は軽く手を上げながら挨拶を返す。
「おはよう。ありがとうね、もう大丈夫だよ」
「無理はしないでね、あゆみちゃん」
「うん……」
とにかく今は女子高生として完全に女になるしかない。
そしてもうあの女に会わないようにしなければならない。
歩はそんな事を思いながら登校をするのだった。
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