第八話:プール
その騒ぎから二週間が過ぎていた。
アイナはその情報をアルファから受け、タブレットキーボードを広げながら難しい顔をしていた。
「どうしたんだよ、難しい顔してパソコンなんかにらんで?」
「うーん、あの反対派があゆみちゃん抹殺計画を一旦棚上げするとはねぇ……」
「そんなにヤバい連中なのかよ?」
「多分、背後にはアジア共和国連合がいると思うのよねぇ。あの辺の人たちって、人の言うこと聞かないし」
アジア連合なんちゃらとか言うのを聞いて歩は現代のアジアを思い起こす。
そう言えば大国は人の言う事なんか聞かないで、周辺国に迷惑かけていたような気がしてた。
難しい顔をしたアイナを見ながら歩はそのタブレットキーボードを覗いてみる。
形状は現代のそのタブレットとキーボードに似せてあるが、実際には現代ではありえない高性能だった。
キーボードはほとんどおまけでほとんどは音声入力。
しかも虚空に映像をSF映画のように映し出し、簡単な小さな3Dモデルもその場で再現できる。
なんでもナノマシーンを放出して、付近の物体を再構築でいるらしい。
歩にはちんぷんかんぷんだが。
「それに、前回やっと未来と通信が出来たけど、私たちが知る範疇では変化はなかったって言ってるし……」
歩はそれを聞いてドキリとする。
アイナはもう自分のいた時代には戻れない。
しかもアイナのいた時代は変えられなくて、今の時代から先を変えてもパラレルワールドのようにその未来は別世界となり結局はアイナの世界は破滅してしまうらしい。
アイナたちの未来は救えない。
しかし今から先の未来は救える。
それがアイナたちがこの時代に来た目的であり、それが成功するとこの時代に来たアイナたちと自分以外にこの大義を成し遂げたことが分かる者はいなくなってしまう。
これほどまでの犠牲を払ってもだ。
「どうしたのあゆみちゃん?」
「え、あ、いや、なんでもない……」
そんな歩に対して、アイナは変な顔を一瞬してから別の事を聞く。
「ん~そう? そう言えば生理もう大丈夫??」
「うぐっ! 本当にあれ毎月味わうのかよ…… 今更ながらだが女の子って大変なんだな…… って、そうすると愛菜もそうなのか?」
「ああ、あたしは小学校から始まったから中学の頃はもう慣れっこだったよ? そうだ、いい事教えてあげる。あの頃あたしはアレの時は絶対に冷たいモノ飲まないから何時がそうだか分かるよ♪」
「それ、アイナになった今もそうなんだろ?」
「分かる? そうよ」
アイナはそう言ってニヤリと笑う。
歩は大きなため息を吐いた。
だが、アイナのお陰で気分が少しだけ楽になった。
そしてふと思い出す。
「だけど助かった、もうじきプールが始まるらしいからな。この暑い中生理でプールに入れないで暑い所で見学じゃたまったもんじゃないもんな」
ぴぴくっ!
「あれ、もうプールの授業が始まるんだ?」
「ん、なんかあの学校って室内プールらしいんだ」
歩は何も考えずにそう言う。
するとアイナはにまぁ~っと笑って胸元に手を突っ込む。
そして胸の谷間から水着を引っ張り出す。
「それじゃぁ試着が必要よね! さあ、あゆみちゃんお着換えの時間よ!!」
「なっ、別に今しなくても」
「ダメに決まってるじゃあない、サイズの確認もあるし、競泳タイプか男女同一タイプかも見なきゃ♪」
「べ、別に男女同一タイプでもいいじゃんか」
「それでも試着は重要よ! さぁさぁ!!」
「ひえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
悲鳴を上げながら歩はアイナに裸に剥かれる。
そして取り出した水着をまたまた着せ替え人形の如く遊ばれるのだった。
* * * * *
「あゆみちゃん、今日からプールだね! 水着どんなのにした?」
「へっ? 学校指定のとかがあるんじゃないの?」
「あ~、この学園、女子しかいないのでその辺は結構自由らしいです。なんでも生徒の自由な感性を育てるためにだとかです」
学校へ向かうバスの中で歩たちは今日から始まる水泳の授業の話題で盛り上がる。
結局アイナに用意されたのはスク水だった。
胸元にしっかりと「あゆみ」とひらがなで書かれた名札付きの。
あの時は何だかんだ言って競泳の水着や、男女同一の水着、ビキニやフリル付きのワンピースなども着されられて散々な目に遭った。
しかも着替えの途中いろいろな所を触られて変な声まで出てしまう始末。
怒こった歩は「普通のでいいんだよ、フツーのでっ!!」と言うと、アイナはニヤリとしてスクール水着を取り出した。
まあ、可もなく不可もないから大丈夫だろうと、それにして歩は受け取り授業に参加する事にしたのだった。
* * * * *
水泳の授業はお昼前の時間帯だった。
午前の座学の授業を終えて一同室内プールのある場所へ移動する。
全員更衣室へ入り着替えを始めるのだが、歩はこういう時には他の女の子たちをなるべく見ないように注意しながら着替える。
「あゆみさん、結構綺麗な肌してるです!」
「あ、あのなみかど、分かっているとは思うがオレはもともとは……」
そう言いながらデルタの方を見ると素っ裸だった、
「ぅおぉぃぃっ!」
「ん? あゆみさんは女の子なんですから見られても平気です」
まったく隠さずに生まれたままの姿をさらすデルタ。
歩より少し小柄なため、かなり幼児体形に近い。
が、出る所はちゃんと出て、生えてるものは生えてる。
歩は慌てて顔を反らす。
「あれ? あゆみちゃんまだ着替えてないの?」
「え、恵菜ぁっ!?」
そこにはやはり素っ裸の恵菜がいた。
どうやらいくつかのクラスの合同授業になっている様だ。
「あゆみちゃんはどんな水着にしたの? 私はこれだよ」
言いながら競泳用の水着を取り出す。
以前お風呂で裸は見ていたが、あの時はアイナと愛菜も一緒でごたごたしていたせいで、ここまでしっかりと恵菜の裸は見た事が無い。
決してスリム過ぎず引き締まっている肢体はそれでも女性らしいフォルムで、ぜい肉が一切ない。
それは美しいと言ってもいいだろう。
ちゃんと揺れる胸を目の当たりにして歩は更に赤くなる。
「あゆみさんのは……スクール水着です!」
「え~? あゆみちゃん可愛いのに、なんで??」
「あ、アイナの奴が普通のが良いって言ったら、これだって出して来るから……」
今更ながらにスクール水着って誰得よ? とか思う歩みだったが、仕方なしに下着を脱いでそれを着ようとして視線を感じる。
「うん、やっぱり可愛いなぁ~、そのままお持ちかえりしたいなぁ~」
「同じ歳なのにあゆみさんの方が胸が大きいです! うらやましいです!!」
「い、いいから着替えて行くよ///////!!」
恵菜とデルタにじろじろ見られて恥ずかしくなって急いでスク水を着込んで歩はプールへと向かうのだった。
* * *
「はい、シャワーは浴びましたね? 準備運動が終わった人から二百メートル泳いでください。終わったらあとは自由にしていいですよ」
アルファ事、担任の
させるのだが、何このハイレベル!? と歩は男の子だったら絶対に前かがみになっていただろう。
胸元がおへそまで開いている黒とワインレッドの超ハイレグ、いやこれはもうVの字水着をサイドに網目のスケスケの布で覆っていると言う、男の子の夢が詰まりまくった水着姿。
そして何か有った時のためにと女医のガンマ事、
フチなし眼鏡までして、誰得でなく、全ての男子得なお姿に、歩は拝み倒したい気分でいっぱいだった。
「星河さん、なんでスク水なの? せっかく水着自由なのに~」
「あ~、でも名札の平仮名で『あゆみ』ってちょっとかわいいな♡」
「美少女は何着てもバエるわねぇ~、うらやましい」
歩がアルファとガンマの拝みたくなるようなお姿を見ていると、クラスメートの女の子たちが寄って来る。
歩はそちらを見てぎょっとする。
背伸びをしているような、ちょっぴりセクシーな水着が目に入ったからだ。
そしてそれは彼女たちだけでなく、他の女の子たちもみな同じだった。
「あゆみさん、やっぱりスク水は目立つのです」
「う~ん、可愛いのは認めるけどねぇ~」
聞こえてきたのはデルタと恵菜の声だった。
そちらを見ると、デルタはかわいらしいフリル付きで胸元に大きなリボンのある黄色いワンピースで、恵菜はぴっちりの競泳水着だが、ニップレスを忘れているのか、ある部分が突出して盛り上がっている。
しかもかなり強烈な切れ込みは目の毒になるほどだった。
だがあえて言おう、健康的なそれはいやらしさを全くと言っていいほど感じさせない、多分。
「もしかしてオレ……じゃなくて私だけなのスク水って?」
胸元の名札をひぱってみる歩。
レイナに普通のが良いと言って出されたこの水着だが、逆にやたらと目立つ気もする。
歩はまた大きなため息を吐いてからプールに向かうのだった。
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