第九話:女たちの戦い


 あゆむはとりあえず規定の二百メートルを泳ぎ終わった。



「ぷはぁっ! 終わったぁ~」


「お疲れ様、あゆみちゃん」


 恵菜えなは先に泳ぎ終わって既にプールの外にいた。

 たった今泳ぎ終わった歩に手を差し伸べる。



「いやぁ、久しぶりに泳いだけど二百メートルはきついなぁ~。体も小さくなったから余計だよ」


「体が小さくなる?」



 プールから引き上げてもらいながら歩が言った言葉に恵菜は反応した。

 変な顔をする恵菜に歩は慌てて言いつくろう。


「あ、いや、ほらずっと寝てて体が縮こまってたって意味。あは、あははははっ!」


「そっかぁ、泳ぐの久しぶりだもんね。でもよく小さいころは愛菜ちゃんとよく三人でプール遊びに行ったよね~。あゆみちゃんは泳ぐの早くて私にも泳ぎ方教えて…… あ、あれ??」


 そこまで言って恵菜は首をかしげる。

 

「なんでだろう、なんかあゆみちゃんって私より年上に感じるのは?」



「ふわぁ~、やっと泳ぎ終わったです」


 恵菜が首をかしげているとデルタがやって来た。

 

「恵菜さんは勿論ですけど、あゆみさんも泳ぐの早いです! ああ、私も体がもう少し大きければです!」


「み、みかど?」


「あ、見角みかどさんもお疲れ様。とりあえずノルマ終わったからこの後どうしようか?」


 課題である二百メートルを泳ぐ事が終わると、後は自由時間となる。

 ともなればプールで自由に遊べるので何をして遊ぼうか恵菜はワクワクしながら歩たちに聞く。


 が、その前にあまり聞きたくない声が聞こえて来た。



「おーっほっほっほっほっ! 今年のプール初日に私は来ないなどと言う事はありえんせんわ!!」


「ふふふ、可愛い子猫ちゃんたちの素晴らしい姿を見れるとは、私は幸せ者だよ」



 きゃぁーっ!!


 黄色い大歓声が上がる。

 見れば学園のマドンナ二人が水着姿でそこにいた。


 大雲寺魔理沙だいうんじ まりさは大胆にも白にその瞳と同じ色の青いチャームポイントが入ったビキニ姿。

 胸元と腰の青いリボンが特徴的だ。

 白い肌を惜しげもなくさらして、意外と大きな胸もたゆんと揺れている、流石上級生だ。


 対して土岐速見凛ときはやみ りんは男女同一水着と言う、体のラインがあまり出ない水着だった。

 しかし彼女の中性的なその容姿も相まって、まさしく宝塚の男優の風体。

 残念ながら大雲寺魔理沙に比べて胸部のぜい肉は少ないようだ。

 しかし、前髪をふさぁ~っときらめかせながら微笑むそのマスクは沢山の女生徒のハートを打ち抜くモノだった。



「げげっ、大雲寺先輩と土岐速見先輩じゃん! なんでこの授業に上級生が?」


 黄色い声援の中、何故この二人がここに居るのか歩は嫌そうな顔をする。


「ああ、上級生はこの時間選択科目みたいだね。三年生になると授業内容によっては選択式になるからね」


 恵菜がそんな事を言っていると、確かに上級生の女の子たちもぞろぞろと入って来た。

 流石に上級生のしかも三年生ともなると皆様ご立派なものを持っている方が増える。

 そして水着もきわどいものがさらに増えて、思わず歩も二度見してしまう様な物も多い。



「ねぇ、あゆみちゃん。なにそんなに上級生を熱心に見てるの?」


「はっ!? い、いや、皆さん凄い水着だなぁと思って……」


「ふ~ん、そう言えばあゆみちゃんにはまだ私の水着については感想もらってないんだけどなあ~」


 そう言って上腕である部分をぐっと挟んで一歩前にグッと出る。

 ニップレスをつけ忘れたぴちぴちの水着姿は何故か色っぽく見えて歩は慌てて目を反らす。


「え、恵菜には合ってるんじゃないか、その水着。た、ただその、なんかつけ忘れてないか///////」


「うんワザと。あゆみちゃんが私をもっと見てくれるよにってね♡」


 女だらけであると言う事も恵菜に大胆な行動をさせる要因ではあっただろうが、歩は大きくため息を吐く。

 恵菜の歩に対しての好意は理解しているが、同じく女性になってまでその気持ちが変わらないとは。

 いや、それを言えば妹の愛菜も同じだった。



「そうです、あゆみさん私の水着についても何も言ってないです!」


「はいはい、可愛い、可愛い。良く似合ってるよ」


 デルタまで割り込んできて感想を聞いてくる。

 女の子って、同性でもこう言う所は何か言って欲しいモノなのだろうか?



 そんな事を思っていると向こうで騒がしくなってきている。

 どうやら大雲寺魔理沙と土岐速見凛が課題の二百メートル水泳で勝負をしているらしい。

 課題なんだから、大人しく泳げばいいじゃないかと思うも、大きな水柱を上げて大雲寺魔理沙と土岐速見凛はオリンピック選手に匹敵するスピードでプールを泳いでいる。

 当然その周りには彼女たちを崇拝する女の子たちの黄色い応援の歓声が沸き上がっている。



 歩はなるべく近づかないように他の場所へ行こうとすると、目の前に留学生組が現れた。


 真っ赤なワンピースで、何処かチャイナドレスの様なデザインのリン・マオと、質素な感じではあるが首があって肩の露出が大きい競泳水着のドボルヒッチ=メサーナだった。


「ん、お前それはスクール水着と言うやつアルね? 日本の紳士が喜ぶ水着アルね?」


「無駄のない標準的な装備……」


 ニカっと笑うリン・マオと相変わらず物静かなドボルヒッチ=メサーナ。

 この二人も同じ授業と言う事は、同級生か上級生?



「あ、ども。リンさんとドボルヒッチさん。もしかして同じ学年ですか?」


「マオでいいアルね。私もメサーナも一年アルよ?」


 そう言ってまたまたニカっと笑う。

 きらりと光る八重歯がとてもチャーミングだ。


「星河あゆみ…… いや、なんでもない」


 メサーナは何か言いそうだったがそう言って歩をじろじろ見る。

 つま先から頭のてっぺんまで。

 なんか気恥ずかしくなる歩だが、やがて興味を失ったかのように踵を返して向こうへ行ってしまった。


「あ、メサーナ待つアルね!」


 そしてマオも慌ててメサーナにくっ付いて行く。

 何だったのだろうと思う歩を恵菜とデルタが腕を掴んでプールへと誘う。


「ね、あゆみちゃんあっちで遊ぼう!」


「全員課題が終わったのでビーチボールとかの持ち込みが解禁されたです!」


 学校の授業と言うのにビーチボールとかかなりラフすぎるように感じるも、向こうで日焼けどめオイルを塗り始めてビーチベンチでくつろぐアルファたちを見て歩は小さくため息を吐いて恵菜たちと遊ぶことを決める。



「んじゃ、いこうか!」


 

 そう言ってまたプールに入るのだった。



 * * *



「そーれっ!」


「おっとぉっ!」


「はい、恵菜さん、ですっ!」



 美少女がプールに浸かって水しぶきをキラキラと輝かせてキャッキャウフフとビーチボールで遊んでいる。

 揺れる何処か、輝く瞳、楽しく遊んでいる風景は尊く、紳士であるならそれをほっこりと眺めているだけで幸せな気分になれると言うモノだ。


 しかしそんな平和は突然覆される。


「おっと、あー、受け取れなかった」


 歩がそう言って向こうへ飛んで行ってしまったビーチボールと取りに行くと、二つの影が!



「これはこれはあゆみじゃありませんの! まあ、何と可愛らしいスクール水着ですの!! ふふふ、庶民的ないでたちにその名札の平仮名での『あゆみ』とは、分かっておりますわね!!」


「やあ、マイハニーあゆみ。最近見かけないと思ったら神様はこんなご褒美を私に用意してくれたのか。ステキだよあゆみ、そのスク水ごと君を食べてしまいたいほどだ」



「うげっ、大雲寺先輩に土岐速見先輩!」



 そこには大雲寺魔理沙と土岐速見凛の姿があった。



「あゆみ、私と一緒に泳ぎません事?」


「おいおい魔理沙君、マイハニーあゆみは私と一緒に泳ぐんだよ、この私が手取り足取り濃厚なスキンシップをしながら泳ぎ方をレッスンしてあげるよ」



 そう言って二人ともグイっと歩の手を取る。


「ちょちょっと先輩方、私は今恵菜やみかどと……」



「先ほどの勝負、また引き分けになりましたわよね? どうかしら凛、あゆみと一緒に泳ぐことを賭けて勝負と言うのは如何かしら?」


「ふふふ、マイハニーあゆみの為ならこの勝負、受けない訳には行かないね!!」



 びかっ!

 ゴロゴロびがっしゃぁ~んッ!!



 背景を暗くして、雷が落ちる。

 ウーパールーパーとチンアナゴが対峙して魔理沙とリンの後ろで威嚇し合っている。

 そしてまたまた二人の戦いは始まるのであった!



「ここはプール、お互いにフェアな勝負をしようじゃないか! 水上バレーで勝負だよ魔理沙君!」


「望む所ですわ、凛! 勝つのは私でしてよ!!」



 どうやら今回は水上バレーでの勝負となったようだ。

 すぐさま周りの女学生たちが準備に取り掛かる。


 そして歩はまたまた拘束され額に「景品」の札を張られ、景品台の上に乗せられるが、何故か今回の拘束には縄が使われ亀さんの様な模様の縛り方をされている。



「なにこれっ!? ちょ、はなして…… うっ///// う、動くと縄が食い込んでぇ♡」



 どこか大切な所に縄が食い込んでしまい、やたらと色っぽくなる歩。

 背景が自然とピンク色になってカメラもちゃんとフォーカスを加える所は分かっている。


 しかし二人の勝負は何故か恵菜とデルタ、そしてマオとメサーナを巻き込んで三対三の試合となるのだった!



『さあ、始まりました星河あゆみ争奪戦! これは熱い戦いになりそうです。大雲寺魔理沙チームには稲垣恵菜選手と見角みかど選手、土岐速見凛チームにはリン・マオ選手とドボルヒッチ=メサーナ選手がつきます。この勝負どうでしょうか、解説の足利先生!』


『はい、解説を担当する足利亜里華あしかが ありかです。この勝負、大雲寺チームは陸上部のエースと期待される稲垣選手を登用していますが、水の中と言う事でその力がどこまで発揮できるかが未知数です。また見角選手は体格に対してどんな事をするかもわかりませんのでこの後の活躍に注目する必要がありますね』


『なるほど、では土岐速見チームは如何でしょうか?』


『こちらは更にその力は未知数ですね。留学生である彼女たちの力は正しく未知数。同じ一年生でも彼女らのデーターは少なく、その運動性のがどれ程だか楽しみでもあります』


『これは双方やってみないと分からいと言う面白味がありますね! さあ、時間も迫ってきました。先行は大雲寺チームです!!』



 プールにはネットが張られ、ウキで囲まれたステージが出来あがっていた。

 しっかりとアルファも加わって解説が流れる。

 そして大雲寺チームと土岐速見チームは両コートに入り、魔理沙のサーブが始まる。



「行きますわよ! ライトニングサーブっ!!」


「なんで私たちがぁっ! って、始まっちゃった、みかどちゃん準備して!」


「ハイなのです!」



 すぱーんっ!!



 魔理沙の刺すような球が土岐速見チームを襲う。


「ふん、なかなかやるアルね! しかし私には通用しないアルよ!」



 ぱすっ!



 しかしそれを意外な速さで動いて受け止めるマオ。

 そして受け止めたそれを凛がトスする。



 ばっ!

 バシュッ!!



 ぱっしゃーんっ!!



 すぐさまメサーナが飛び上がり愛菜の届かない場所に巧みにアタックをかける。

 ボールは愛菜が腕を伸ばしてもぎりぎり届かずボールが水面を捕らえてしまった。



「くっ! 水の中がこんなに動きにくいだなんて!」


「稲垣さん、まだまだですわ! すぐに取り返しますわよ!!」


「はいっ!」


 結構悔しかったのか愛菜も魔理沙のその激励に立ち上がる。



「ふふふ、いいねメサーナ君。この調子で頼むよ」


「……承知」



 まずは先制点をとった凛はちらりとメサーナを見ながらそう言う。

 メリーサは静かにそう答え、試合に集中する。



『土岐速見チーム先制点取得です! いやぁ、外国人選手の起用は成功と言う事でしょうか、解説の足利先生!?』


『そうですね、野球やサッカーでも外国人選手の活躍は目覚ましいものがあります。しかし試合は始まったばかり、この後の動向に刮目をしましょう!』


 そして試合は続行される。


 今度は土岐速見チームのレシーブとなるが、マオが打ったそれは軌道を変え左右に振れまくる。



「くっ! 起動が読めませんわ!! 見角さん!!」


「任せるです!」



 デルタはそう言って何処からともなくゴーグルを装着する。

 一瞬その奥が光ったと思うと全く違う場所に移動する。

 みんながどうしたんだといぶかし中、そのボールは何と吸い込まれるようにデルタに向かい、デルタはそれを難なく受け止める。



「みかどちゃん凄い! 大雲寺さん!!」


 恵菜は絶妙な場所へトスを上げると大雲寺魔理沙は高く飛び上がり電撃なアタックをかける。


「行きますわよ、イナズマあたーっくっ!!」


 魔理沙の撃ち出すそれはプラズマをまとい、まさしく稲妻の如くマオと凛の間に着水した。



 ぱっしゃーんっ!

 


「くっ、流石は魔理沙君だ!」


「ふっ、凛、あなたのチームだけが凄いのではありません事よ!!」


 びしっっと土岐速見凛に指を突き付け大雲寺魔理沙はニヤリと笑う。



『これは意外ですね、見角選手まるで未来が見えるかのような動きでしたね足利先生』


『変則的な球の動きを読み取り、想定される軌道の先に動き身体的な能力の弱さを補っているようですね。その観察力に脱帽ですね』


 解説にはこう入るが、アルファにはガンマがあのゴーグルで球の動きの解析とシュミレーションで高確率の場所へ移動していたことを理解していた。

 その確率なんと七十パーセント。

 現代のスーパーコンピュータでさえ、それ程の高確率で算出するのは難しいだろう。



「ふっ、まだまだこれからだよ魔理沙君!」


「おーっほっほっほっ、来るがいいですわ、凛!」


 こうして再び攻防が始まる。


 土岐速見チームがダイダロスアタックをかけて、大雲寺チームがジェットストリームアタックで返す。

 その攻防は正しく歴史に残る程。


 今我々はこの場でその素晴らしい試合を目にしているのだ!



「ふっ流石は魔理沙君。しかしあと一点で勝負は決まるね」


「おーっほっほっほ、流石は我が永遠のライバル! この私と同点とはですわ!」



 試合はとうとうイーブン。


 この素晴らしい戦いもあと一点で勝敗が決まる。

 既に双方の緊張は最大限に達している。

 それを見守る周りの女学生たちも。


 ピリピリと緊張がこの空間を支配している。



「あのぉ~」


「景品は静かにしてください! いよいよ、いよいよ勝敗が決まるのですから!!」


 景品台の歩はジト目で近くにいる女生徒に声を掛けるも、試合に集中している彼女はそう言って歩の言葉を遮る。

 歩はため息を吐いてその時を待つ。



「行きますわよ! 必殺ビックバンサーブぅ」



きーんこーんかーこん、きーんこんかーんこーん♪



 魔理沙が最終必殺技、ビックバンサーブを打とうとしたその瞬間だった。



「はいはい、授業はここまでです。皆さんプールからあがってくださいね!」


 パンパンと手を鳴らし足利亜里華先生は生徒たちに声をあげる。



『残念! 誠に残念ですが時間が来てしまいました。この勝負、残念ながらまたまた引き分け! それではみなさん、次の星河あゆみ争奪戦でお会いしましょう。解説は私三島留美みしま るみと』


足利亜里華あしかが ありかでした。さあ、皆さんプールからあがってくださいね!!』



 解説のアナウンスもここまでと試合の終了を告げる。

 


「ふっ、また引き分けですわね凛! しかし次こそあゆみは私のモノよ!」


「おいおい魔理沙君、マイハニーあゆみは私のモノだよ?」


 ネット越しに大雲寺魔理沙と土岐速見凛はにらみ合って、やがてどちらともなくこの場を離れて行く。


 その様子を歩は景品台の上から見ながらまたまた大きなため息を吐く。


「だからもう時間だって言おうとしたのに…… って、誰かこの縄とってくれぇっ!」



 みんなが帰る中、歩だけ気品台に取り残されたままそうわめくのだった。



 * * *



「ふうぅ~散々な目に遭ったよ……」


 更衣室で一人スクール水着を脱ぎながらぶつぶつ言う歩。

 あの後何とか重要な所に縄が食い込みながらも脱出してふらふらと一人更衣室で着替えていた。



「ふむ、どうやら今のところは男に戻るようではない様だな」


 

 と、いきなりそんな声がかかった。

 驚きそちらを見ると黒づくめのあの背の高い刺客がいた。



「うわっ、あ、あんたは!!」


「まあ、女の水着姿で変な気を起こさなかったのは認めてやるアルよ」



 そう、歩のすぐ後ろからも声が聞こえた。

 慌てて後ろを振り向くと、お団子頭の小柄な黒づくめのもう一人の刺客がいた。



「お、オレを殺す気か?」


「お前が男に戻らないのであれば何もしない。それがクライアントからの要請だ」


 歩が身構えると彼女はそう言う。

 そしてゆっくりと二人は同じ影の方へを移動する。


「だが忘れるな、貴様が男に戻る事があれば容赦はしない」


「お、オレは……」


「ま、その成りじゃそう言う事はないアルな」


 最後にそう言われて改めて自分を見ると真っ裸だった。


 

「うわっ、きゃっ!!」



 慌てて胸を両手で隠しその場でしゃがむ。

 その様子を見て二人の刺客は笑いながら姿を消すのだった。



 * * * * *



「デルタの奴、あゆみちゃんを一人にするだなんてっ!」


「い、いや、まあ、あれは仕方なかったって言うか……」



 家に戻り、今日の事をアイナに話すと、アイナは憤慨してアルファに連絡をした。

 すぐに謝罪の連絡を受けるが、刺客は歩が男に戻らなければ手出しはしてこない。

 実際にアルファやガンマの水着姿にドキリとはしたが、前のように男の子として何か起立するような感覚は無くなっていた。


 女体化がどんどん進んでいる証拠だった。



「ま、まあ仕方ないよな……俺が女になれば全てが上手く行くんだもんな……」


 あの時最後に自分で裸だと言う事に気付いたら胸を手で隠し、しゃがみながら女の子らしい悲鳴まで上げてしまった。

 そう思うと自然と気分が沈んでくる。


 もう男としての自分はいないのだ。



「あゆみちゃん?」


「いや、なんでもない…… それよりスク水なんて俺一人で逆に目立つって言うか!」


 そんな歩をアイナはそっと後ろから抱きしめる。

 歩はドキリとするが、その温もりがやたらと温かかった。



「あゆみちゃんあは、お兄ちゃんは女の子に成ってもちゃんと私が面倒見るからね…… ずっと!」


「あのなぁ、女同士でどうするってんだよ?」


「うん、ずっと一緒にいるから」


「お前なぁ……」


 

 そんなアイナに歩は苦笑する。




 そして少し気持ちが楽になるのだった。 


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