第五話:女の花園


 セント友愛学園。


 東京は八王子から神奈川県との県境方面にある丘の上に存在するそこは、女子高と女子大が同じキャンパスにある学園だった。

 街からは少し離れているが、自然環境豊かなそこはセキュリティーも充実していて外部から勝手に出入りは出来ない鉄壁な造りとなっている。


 その昔、として撮影現場に採用される程に特殊な校舎は、筒状を真っ二つに割ったようなビルを中心に、古代アテネ神殿の様な柱が並ぶ建物が並列され、優美さに目が行く建築である。

 また警備室がある正門から見上げるその校舎までの広い中庭には馬が駆け回る彫刻などもあり、その優雅さを醸し出している。



「はぁ~、ここが噂のお嬢様学校ねぇ」


「こらこらあゆみちゃん、言葉使いに気を付けなさい」


 あゆむは思わずため息交じりにそう言うとアイナに注意される。

 一緒に学校へ来ていたデルタ事、見角みかどみかどは笑いながら言う。


「そうです、ここは女の花園なのです!」


「いや、別にそこまで花園じゃないとは思うけど……」


 苦笑して稲垣恵菜いながき えなはそう言うも、近辺の人からそう思われていた。


 八王子駅から学園までは学園が運営するバスが定時に運行され、無料で乗車できる。

 歩たちは駅の北口のバス停からそれに乗って学園まで来ていた。

 そして学園内のバス停に降り立ち、象徴的なメインの建物の前にまで来て先ほどになる。



「えっと、私たち高等部は西側の建物が教室なの。高等部の事務室や職員室とかも西側にあるよ」



 筒を半分に割ったような象徴的なビルは東西に分かれていて、西側が女子高となっている。

 反対側の東は女子大と大学院がある。 


 恵菜えなの説明に歩は頷く。

 そして引率のアイナと共にまずは事務室に向かう事にする。



「それじゃ、あゆみちゃんまた後でね」


「うん、またね」



 恵菜はそう言ってあゆみに手を振りながら自分の教室へと向かう。

 が、デルタはすっとアイナの近くへ寄って来て小さな声で言う。


「私も先にあゆみちゃんの教室へ行っているです」


「ええ、分かったわ。あゆみちゃんに対して不審な動きをする学生をチェックして」


 アイナにそう言われ、デルタはわずかに頷いてから離れて行った。

 歩はそれを見ながらアイナに言う。 


「いくら何でも人の目につく所で襲ってはこないだろ?」


「どうだかね。事故に見せかけてあゆみちゃんを襲ってくる可能性もあるわ。さて、とりあえず事務室で手続きしてから職員室ね。行きましょ」


 アイナにそう言われて歩は一緒に事務室へ向かうのだった。



 * * * * *



「以上で復学の手続きは終了です。事情が事情なので出席日数に関しては補習を行いますので、詳しくは職員室の担任の先生に聞いてください」



 事務室で手続きを終え、今度は職員室へ向かう。

 だが、その間に歩は嫌な顔をする。


「出席日数で補習しなきゃいけないのかよ?」


「ああ、それならまた洗脳で記憶改ざんと書類の変更はしておくから大丈夫よ? それよりあゆみちゃん高校の授業にはついていけそう?」


「一応現役の大学生だったから、高校の一年くらいなら問題ないよ。流石に三年生とかの後半は少し真面目にしないとまずいけどね」


 そんな事を言いながら職員室へ着く。

 扉をノックして引き戸を開けると、数名の先生方がいた。


 アイナは一番近くの教員に声を掛け、歩の担当となる教員を教えてもらう。

 そして指示された場所へ行くと歩はドキリとさせられる。


 そこにはプラチナブロンドの髪の毛を持つ、もの凄いグラマラスな教員がいた。

 見た感じの年齢はアイナと同じかそれよりちょっと上。

 紺色のスーツに身を包んでいるが、はち切れんばかりの胸元はスーツが少々きついのではないかとさえ思える。

 少し西欧系の顔立ちのその女性教員は歩たちに気付きこちらに振り返る。

 さらさらのプラチナブロンドの髪の毛を片手で耳の後ろにかき上げるしぐさに歩の心臓は高鳴る。



 理想のおねーさんだぁっ!!



「あなたが星河あゆみさんね? 私は足利亜里華あしかが ありか、あなたの担任よ。よろしくね」


 そう言って立ち上がり手を差し出す。

 日本にしては握手でのあいさつは珍しい。

 歩は素直に手を出し、握手をする。

 

 すると足利先生は歩を少し引っ張り顔を近づけ小声で言う。



「アルファと申します。以後よろしく」


「え?」



 驚き担任の顔を見ると微笑をしている。

 またまたその笑顔にドキリとしながらアイナを見ると軽く頷いて、「それでは以降よろしくお願いします」と軽くお辞儀をして職員室を出て行ってしまった。


 どうやら学園での引継ぎは終わったようだ。

 すると足利先生事アルファは歩に向かって言う。



「それではこれから星河さんの教室へ連れて行きますから、私について来てください」


「は、はい」



 歩はそう答えてアルファについて教室へと向かうのだった。



 * * *



「はいはい、皆さんお静かに。今日は復学する星河ほしがわあゆみさんを紹介します。皆さんお静かに。はい、星河さん入って来てください」



 先に教室に入って足利先生事、アルファは黄色い声がする教室で歩の事を紹介する。

 なんでわざわざこんな目立つ紹介の仕方をするんだろうと思いながら教室へ入ると、全体的になんか甘い香りが漂っている。

 そして目の前には若い女の子たちがあふれていた。


 歩が教室へ入ると同時に黄色い声が上がる。



「きゃーっ! 可愛いい!!」


「うわ、めっちゃ好み!」


「かわいいなぁ、お友達になりたい!!」



 ある程度は予想していたが、想像以上の反応に歩は一瞬たじろぐ。

 が、すぐにアルファが手を叩き、静かにさせる。



 パンパンパン!



「はいはい、皆さんお静かに。はい、星河さん自己紹介してね」


 アルファのそれで部屋の騒ぎは一旦沈黙する。

 教壇に上がって歩はすっと息を吸ってから吐いて落ち着く。



「初めまして、星河ほしがわあゆみと申します。今まで病気で自宅療養していましたが、この度やっと復学する事になりました。どうぞ皆さんよろしくお願いします」



 アイナに言われた台詞を一字一句間違えずにそう言ってお辞儀すると、教室にわっと黄色い声が上がる。



「かわいい声!」


「うわぁ~惚れるわあ~」


「ずっと療養してたんだ~」



 キャイキャイと騒ぐ女の子たちを目の前に歩は思う。

 妹だらけだと。


 歩自体は年上のむっちりした大人の女性が好みなので、妹と同じくらいの年の子たちは正直あまり興味がない。

 恵菜えなの場合は意外性と、抱き着かれた時にのでその未来性にぐらっとは来たが。



「それじゃ、星河さんは見角さんの隣に座ってください。はい、皆さん授業を始めますから静かに」


 アルファがそう言うと、デルタがすぐに手を上げ、自分が見角であることをアピールする。

 そこへ向かう途中、様々な視線が注がれて歩は少し恥ずかしい思いをしながらデルタの隣の席にまで行く。



「見角みかどです。よろしくです」


「あ、はいよろしく……」



 わざとらしいその挨拶に歩は苦笑しながらそう答え、始まる授業に集中をするのだった。   

 


 * * *



「ねぇねぇ、星河さんてどこの中学校だったの?」


「今まで病気だったの? もう大丈夫なの??」


「星河さんて可愛いよね!」


「お、お友達になりたいです」



 授業が終わって、休み時間になったとたんに歩の席には人だかりができる。

 転校生や復学ともなれば、それは当たり前の光景なのだが、流石に現役女子高生のパワーに歩はたじろぎまくる。



「あーっ! みんな、あゆみちゃんは病み上がりなんだからそんなに寄ってたかってはだめだよ!!」


 聞こえた来たのは恵菜の声。

 残念ながら恵菜は隣の教室だった。

 しかし、今日歩が復学する事を知っていたので、何処の教室にいるかは事前に承知済み。

 休み時間になるのを今か今かと待っていた。


 そんな恵菜は歩に殺到する人だかりに割って入ってそう言う。



「あれ、稲垣さん星河さんとお知り合い?」


「ああ、そっか、星河さん病み上がりだもんね。ごめんね~」


「そうだね、無理させちゃ悪いね」


「そうかぁ、でもあとでお話しましょうね」



 恵菜の登場で歩にたかっていた女の子たちはそう言いながら解散を始める。

 歩は恵菜の登場にほっと胸をなでおろす。



「助かったよ、恵菜。女子高ってみんなああなのかな?」


「それはあゆみちゃんが可愛いからよ! ああ、同じクラスになれなかったのが口惜しいっ!」


 恵菜はぐっとこぶしを握ってそう言う。


「まぁまぁ、これもイベントみたいなものです。あゆみさんは可愛いから仕方ないのです」


 二人の会話を聞いていた隣の席のデルタはニヘラと笑ってそう言う。

 それに恵菜はぴくっと片側の眉毛を動かして歩に聞く。


「あゆみちゃん、なんで見角さんが隣にいるの?」


「いや、なんでって言われても、たまたまだよ」


「ふーん、見角さんも可愛いはずなんだけどね。あゆみちゃんクラスは離れても私とあゆみちゃんの仲は離れてないからね? それを忘れないように!」


 恵菜がそう言いながら肩に手を載せるが、何故かその力が強い。

 歩は恵菜の顔を見ると、目元を前髪で暗くして、赤い瞳で見下ろす様に思わず脂汗を流しながらコクコクと頷くのだった。



 * * *



「はい、それではホームルームを終わりにします。皆さん気を付けて帰ってくださいね。あ、それと星河さんは残ってください」



 本日の授業が終わって、最後のホームルームも終り帰り支度をしているとアルファはそう言って歩を引き留める。


「はい? 何ですか??」


「星河さんにはしていなかった身体測定をしてもらいます。この後私について保健室へ来てもらいます」


「はぁ……」


 今更身体測定とはとか思いながら、歩は素直にアルファについて保健室へ着く。

 そして扉を開けてそこでまたしてもドキリとする。


 保健室で待っていたのは白衣を着た超グラマラスな女医だった。

 

 紫がかったゆるいウェーブの長い髪の毛、眼鏡属性を増やしてしまいそうなフチなし眼鏡をかけたその瞳はぱっちりと開かれ、長いまつ毛が眼鏡に触れてしまうのではないかと思う程に長い。

 ゆるふわ系の顔立ち美人だが、そのバディーは全てを抱擁してくれそうなほど豊満でむっちりとしていた。


 歩は思わず鼻の下が伸びそうになるも、その先に女医は立ち上がり軽く頭を下げながら言う。



「コードネームガンマ、ここでは烏山賀美奈とりやま かなみと名乗っています。よろしくあゆみさん」


 お辞儀する時に大きな胸が重力に素直に引かれてたゆんと動く。

 その時に出来た胸の谷間に目が行きながら歩は聞く。



「は、はぁ、よろしくお願いします…… って、もしかしてあなたもアイナと同じ」


「はい、エージェントです」



 そう言って頭を上げてにこりと笑う姿に、やはりおねーさん好きの歩みは、でへへへぇ~っと顔が緩む。



「さて、あゆみさん。この時代に派遣されたエージェントはこれで全員です。今後学園内では私たちが、外部での行動にはベータが、私生活ではアイナさんが担当で着きますので立派な女性になってください」


 そんな歩にアルファはそう言って来た。


「あの、それなんですが絶対に女にならないとダメですか?」


「ダメですね。今もあなたの磁場波形は不安定なままです。情報ではあゆみさんは大人の女性が好みと聞いてますが、まだその傾向が強いと言う事は、女性として安定していないと言う事になります。まだ我々に反応すると言う事は男性としての思考が強いと言う事ですからね」


 そう言いながらアルファはストップウォッチの様な物を取り出して歩に見せる。

 それはアイナが前に歩に見せたモノと同じだった。

 そのピンク色の波形は水色の男性時に近い方へと振れていた。



「俺の性癖駄々洩れっ! 一体俺のプライバシーどうなってるの!?」



「情報源はアイナさんです。アイナさんのお陰で未来ではあなたについていろいろ分かりましたからね。おかげで結果的には過去に戻って性転換をすると言うのが一番いいと国際連邦は判断をしたのです。その為に選ばれたのも私たち女性陣だったのですが」


 ガンマはそう言ってにこりと微笑むも、歩にしてみれば不満が残る所ではある。

 なのでため息一つ、歩は言う。


「それじゃ、顔合わせはこれで終わりですね。今後共によろしくお願いします」


 そう言って踵を返して帰ろうとするとアルファがその行く手を遮る。

 不思議に思い、アルファの顔を見ると何故か笑顔。


 そして振り返ってガンマも見ると同じく笑顔。



「あの~、何なんでしょうか~?」



 とても嫌な予感がしてそう聞くとガンマはハッキリと言う。

 

「勿論、してない身体測定をします。さあ、服を脱いでください」


「はぁっ!? マジでするんですか、そんな事!?」


「ついでに女性ホルモンが出やすくなるマッサージをした方がいいとベータから情報も入っていますので、あゆみさんお覚悟を!」


 アルファもそう言いながら歩との距離を詰めて来る。



「い、一体どんなことするつもりぃっ!?」


     

 歩はそう悲鳴を上げるも、アルファとガンマに服を脱がされ、身体測定を行われるのだった。



 * * *



「ううぅ、酷い目に遭った…… と言うか、何か男として大切なものを失った気もする……」


「ああ、アルファとガンマにされちゃったんですね? あの二人、エージェント内でも飛び切りにテクニシャンって噂です!」



 ヘロヘロになって戻って来るとデルタが歩を待っていた。


 結局服どころか下着まで脱がされ、身体測定をされながらあーんな事やこーんな事までされて、もの凄く気持ちよくなってしまった。

 何をされたかはご想像に任せるが、男として何かを失ったのだけは事実だった。


 代わりに女として変な事に目覚めてしまったような気はするが。



「ああぁ、あゆみちゃん帰って来た。見角さんに聞いたけど今頃身体測定だったの?」


「ううぅ、そうなんだけど、それ以上は聞かないで……」


 少し赤い顔して歩はそう言う。

 そして三人は帰るためにバス停に向かおうとすると……



「危ない!」



 ぐいっ!

 ばしっ!! 



 ちょうどテニス部のフェンスの近くを歩いていた時だった。

 歩はいきなり引っ張られ、誰かに抱きかかえられる。


 あまりにも一瞬だったので何が起こったか理解できなかったが、抱きかかえられたその相手を見て驚く。

 それはまるで宝塚に出てきそうな男優風の超イケメン系美少女だった。


 歩より頭一つ背が高く、ショートカットの髪型だけどイケメンで白い歯がやたらとまぶしく輝いている。

 そして歩を抱きかかえるその背景は一気にフォーカスのかかったバラ一面で飾られている。



「大丈夫だったかい、子猫ちゃん? おや、見ない顔だね。でもとても可愛らしい子だ」



 きゃーっ!

 

 

 そんな歯が浮く台詞に近くにいた女生徒は黄色い声を上げる。



りん様に助けられるなんて、なんてうらやましい!」


「ああぁ、麗しのりん様!!」


「くっ、何あの女の子? でも悔しい、りん様に抱きかかえられる姿がやたらと絵になっている!! なまじ可愛い女の子だからバエまくりだわ!!」



 歩は何が起こったのか理解できずに瞳をぱちくりとさせている。

 何なんだこの状況はと思っていると……



「ごめんなさいですわ。お怪我は無くて?」



 更に後ろから声がかかって来てそちらを見ると、ななんと! ドリル揉みあげの金髪のテニスウェアの美少女がいる!?

 まるでどこかの少女漫画に出てきそうな美少女だが何よりも目に付くのはそのドリルの揉みあげの髪型!



りん、よくそのを助けてくれましたわ」


「何、私と君との仲だ、遠慮はいらないさ」


 


 そう言って歩を抱きかかえたままこの場は背景にバラが舞う少女漫画の世界になるのだった。


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