第二話:今日から私がお姉ちゃん



「はぁ~」



 歩は盛大にため息をついていた。

 そんな歩の目の前でアイナは上機嫌でどんどんと荷物を開いて行く。


 結局、一応は東京で八王子と言う事もあり土地などは高い為、狭いこの家でアイナのいる部屋は作れない。

 ちなみに八王子は今だにタヌキやクマも出るような場所だ。

 なのでアイナは歩の部屋に当分は居候をする事となった。



「なあ、大体の説明は聞いたけど、俺が女の子になって大学やら何やらってどうなってんだよ? 家の連中もお前の事や俺が女の子に成っちゃったこと全然気にしてないんだが……」


「ああ、それなら事前に洗脳をしてあるから大丈夫よ。私以外にも何人か未来からエージェントが来ていて、お兄ちゃん…… いや、あゆみちゃんを守るために工作をしているわ。設定では星河家は三姉妹で、あたしが長女、次女のあゆみちゃんに三女の愛菜ちゃんってなってるわ。お兄ちゃんが通ってた大学での身分は既にデリート済み。春先から病弱で高校には受かっているけど、自宅療養中だったって事になっているわ」


 アイナはそう言いながら臨時で準備したタンスに自分の衣服も入れて行く。

 そんな様子を見ていた歩は思わず赤面して後ろを向く。


「ななな、なんで下着をそんなに持ち込んでいるんだよ!」


「あら、これ半分はあゆみちゃんのよ?」


「へっ?」


 歩は間抜けな返事をして思わず振り返る。

 そこに出された下着は確かに女物。

 中にはやたらとセクシーなモノもある。


「お、俺の下着ぃ?」


「当り前じゃないの、あゆみちゃんとして、女の子としてこれから生活してゆくんだから当然でしょ?」


 そう言って可愛らしい下着を持ち上げる。

 オーソドックスな白のブラジャー。


「そ、そんなのつけなくたって……」


「お兄ちゃん、まだわかっていないの? お兄ちゃんはこれから『あゆみ』ちゃんとして生活して行かなきゃならないのよ? ちゃんとした下着を付けないとスタイルだって崩れちゃうし、ノーブラって寝る時はまだしも外なんかにそのまま出て行ったら乳首がこすれて痛いわよ?」


 そうアイナは言いながら自分の胸を両の手で持ち上げる。

 たゆんと揺れるほど大きな胸は両の手の上でプルプルと震えている。


「それにおっぱいって大きく成って来ると重くて肩こるのよ。もしあゆみちゃんも大きく成った時にブラジャー着けないと簡単に垂れちゃうわよ?」


「垂れる……モノなのか?」


「うん、垂れる。たとえ若くても大きければ大きいほどね」



 がーんっ!



 歩はちょっとショックを受ける。 

 胸が垂れるだなんて年取らなきゃならないとばかり思っていた。

 しかしアイナの話だと、今からしっかりとブラジャーで保護しないと大変な事になるそうだ。


 いけない本の中にいるおねーさんたちも日夜そんな努力をしていたのかぁっ!?


 歩はアイナの胸を見ながらそんな事を考える。

 と、アイナは自分の胸から手を放しブラジャーを持って歩の近くへ来る。


「それに、お兄ちゃんは女の子に成ってやたらと可愛くなっちゃったじゃない? 身長も低くなって髪の毛も伸びたし。顔つきだってかわいい系で思わず悪戯したくなっちゃいそうだよ?」


「い、いや、妹に可愛い言われても嬉しく無し、俺は男だから可愛いってのは……」


 にじりにじりと寄って来るアイナに歩は本能的な危機感を覚える。

 アイナは猛禽類の様な目で歩を見ながら言う。


「それじゃぁお兄ちゃん、ちゃんと女の子に成ろうねぇ~。大丈夫、痛くはしないからぁ♡」


「いやいやいやっ! なんか目がやばい! それに俺は男だぁッ!!」


「観念なさい!」


 そう言ってアイナは歩に襲いかかる。


「きゃぁーっ!」


「いい声で鳴くわね、お姉さん本気出しちゃおうかしら?」


 何故か口から出る悲鳴は女の子的になっている。

 歩はアイナに襲われ身ぐるみはがされる。

 そしてばっと腕を上げられブラジャーを装着される。



「うん、やっぱりBカップか。ちょっとゆるいけど肩の所で調整すれば大丈夫ね」


「やぁ~めぇ~てぇ~!」



 後ろのフックを閉じられ、左右からブラの中に手を突っ込まれて、カップの中に納まるように調整される。

 そして肩紐の長さ調整で程よい高さに調整される。


「うん、まずは上が出来た。そのブラ似合っていてかわいいわよ♡」


「男の尊厳がぁっ! ううぅ、俺もうエロ本見れなくなっちゃう……」


 よよよと涙ぐむ歩だったが、アイナは更に下着を取り出して歩に見せる。


「じゃ、次は下ね♡ いよいよあゆみちゃんの大切な所を見ちゃうわよ~♪」


「ちょ、マジそれだけは勘弁してっ! 男の尊厳を奪われたばかりだってのに!」


「だぁ~めぇ~っ! そんな男物のトランクスじゃ生理の時に大変よ? お兄ちゃんブリーフ持ってないでしょ、だったらやっぱりこれを穿かなきゃね♡」


「いぃ~やぁぁあああああぁぁぁぁぁぁ~っ!!」


 抗う歩だったが、アイナに下着も脱がされしっかりと性転換した事実も目視確認されてから女ものの下着を穿かされる。


「ふぅ~、これで良しっと。似合うわよ、あゆみちゃん♡」


「もう最悪だぁ~っ!!」


 その場に女の子座りして歩はそう叫ぶのだった。



 * * *



「よし、これでオーケーね」


 結局その後も歩はアイナに着せ替え人形の如く女の子の服を着させられ、可愛らしいいでたちになる。


「スカート、すーすーする……」


「これからの季節には良いわよ? 冬はちょと寒いからストッキングとか穿かないときついけどね」


 ニコニコ顔のアイナは姿鏡の前まで歩を連れて行く。

 そして女の子に成った歩は自分自身の姿を見てはっとなる。


 そこには紛れもない美少女がいた。

 白い肌に長いピンク色の髪、ぱっちりと開かれた瞳、小さな鼻に可愛らしい唇。

 アイナに比べ頭一つ低い小柄なその少女は、今の時代の妹の愛菜とほぼ同じくらいの身長。

 それでいて出る所はそこそこ出ていて、細い手足はすらりとしている。

 歩は改めて女の子に成った自分に見入ってしまった。



「うふふふふ、お兄ちゃん気に入った?」


「え? あ、そ、その……」



 はっきり言ってもの凄く好みの女の子だった。

 もし自分が同年代の高校生だったら確実に玉砕覚悟でお付き合いを申し込んでいただろう。

 それ程にも歩の眼にもかなう美少女だった。


 問題はそれが自分であると言う事だ。



「これが俺、なのか……」


「ね、可愛いでしょ? だからちゃんと女の子らしくしなきゃだめだよ、お兄ちゃん♡」


 後ろから肩に手を置かれそう言われる歩。 

 確かに自分で自分に見ほれるほどの美少女だ。

 今までのような男の様な振る舞いは似合わない。



「って、そーじゃないっ! 確かに可愛いかもしれないが俺は男だぁっ!」


「あきらめ悪いなぁ、あゆみちゃんは女の子よ♪」


「ぐぅがぁああああああああああぁぁぁぁっ!」



 歩の心からの叫びが上がるのだった。



 * * *



「さて、今後についてなんだけど、あたしはしばらくお兄ちゃんの様態をモニターするわ。性転換したばかりでまだ不安定だから何か有った時にすぐ対処できるようにね」


「それで俺の部屋に引きこもるって言うのか?」


「安心して、名目上は研究員として休暇中。お仕事は自宅でするっていう設定だから。それに経済的にも私がいると好い事あるのよ~。エージェントの活動資金として国際連邦からお金出てるから今の時代でも買い物し放題よ! しかも壊滅する前の世界だから品物も豊富、領収書なんかもいらないから好き勝手に使えるのよ!!」


 アイナはぐっとこぶしを握って歩にそう言う。

 歩は自宅警備員でパソコンの前で株価操作しているアイナを想像してしまった。



「なんか今変な事考えていない?」


「い、いや別に……」



 自分の考えを見透かされているのではないかと一瞬ドキリとするものの、歩はすっかり変わってしまった自分の部屋を見まわす。


 ある程度の物はそのままだが、カーテンも座布団もテーブルも女の子の部屋風に変わっていた。

 ベッドに関しても布団カバーが明るい色の女の子風に変えられ、枕が二つになっている。


 枕が二つに……



「ちょっとマテぇっ! なんで俺のベッドの枕が二つなんだよ!?」


「え? だってあたしの寝る場所お兄ちゃんのベッドじゃない? 大丈夫、今朝一緒に寝てて十分二人で寝られるのは確認したから。それとしたくなったら手伝ってあげるから安心して♡ こう見えても結構テクニシャンよ?」


「何の手伝いだぁーっッ!!!?」



 美少女だと言うのに、思わずガニ股で両手をわしっと上に向けて叫ぶ歩。

 顔が少し赤いのはどう言う事かは理解しているからだろう。


 そんな歩を見てアイナは楽しそうにしている。


「まあいいじゃない。これからはお姉ちゃんとしてあゆみちゃんの女の子としてのふるまいとかを教えてあげるから。そうそう、一週間後にはあゆみちゃんは学校へ復学する事になっているからよろしくね♡」


「はぁっ!? 学校って、俺が高校に行くのかよ!?」


「うん、聖友愛女学院ね。あ、ちなみに今の時代の私もその学校を受験するから、合格したら一緒に通う羽目になるわよ?」


「女子高じゃん! しかも有名なお嬢様学校じゃん!!」


 歩は再びガニ股になって両手をワキワキとさせながらアイナに詰入る。

 しかしアイナは嬉しそうに言う。


「だって、そこじゃないとお兄ちゃんを監視するのが大変なんだもん。一緒に来たエージェントは全て女性。お兄ちゃんのこの時代での性転換を安定させるサポートもするのよ? だから女子高で無いとダメなのよ。計算では女子高を卒業するころには落ち着いて完全に女体化安定するはずだから♪」


「もの凄く遠慮させていただきたいですぅっ!! って、女体化安定って何っ!?」


「今のお兄ちゃんは性転換したばかりで精神と肉体が不安定なのよ。ちゃんと体に精神が対応しないと磁場波形に揺らぎが出て男だった時の波長に近づいちゃうの。そうなると、どうなるか分かるでしょ? あの惨劇が起こりかねないのよ。だからお兄ちゃんを立派な女の子にするのが私たちの役目。勿論色々とサポートするから安心して女の子に成りましょう!!」



「いやだぁーっ!!!!」



 歩の叫びは風前の灯火となるのだった。




 * * *



「アイナお姉ちゃん、これはどう言う事?」


「ん~? あゆみちゃんと仲良し~♪」


 

 愛菜はベッドの二つの枕を見ながらわなわなと震えている。

 アイナと歩が一つのベッドで寝る事が、どう言う訳か愛菜に見つかった。

 愛菜はそれを指さし怒り狂っている。


「あゆみお姉ちゃんが寝られないじゃないの!!」


「え~、今朝は大丈夫だったよ?」


「アイナお姉ちゃんは隣にお布団敷いて寝てよ! でなきゃ、あゆみお姉ちゃんががあたしの部屋に来て! あゆみお姉ちゃんとあたしが一緒なら、あたしのベッドでもなんとかなるでしょ? アイナお姉ちゃんは体が大きいんだから!!」


 愛菜はそう言ってアイナのある部分を見る。

 この部分は現時点でアイナと愛菜では雲泥の差がある。


 もっとも、九年後にはその大きさにはなるのだが。



「もういいよ、俺が布団持ってきて寝るから。アイナはベッドで寝ればいいじゃん」


「それはだめよぉ~、夜はまだ冷えるから肌と肌で温め合う方がいいわよぉ~」


「だ、だったらあたしがする! アイナお姉ちゃんは一人でも大丈夫でしょ!! あゆみお姉ちゃん、あたしと一緒に寝ようよ!!」


「お、お前らなぁ……」



 またまた姉妹ゲンカに発展しそうになるが、いきなり歩の部屋の扉が開かれる。



 ばんっ!



「あゆみちゃん、病気治ったんだって!? もう大丈夫なの!!!?」




 更に新たな女の子がこの部屋に乱入するのであった。


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