第一章:未来から来た妹のお姉ちゃん

第一話:どう言う事?


「これは一体どう言う事? それにお前誰っ!?」



 あゆむは思わずその女に指を突きつけてそう言う。

 すると彼女はずいっと近づいてきてにんまりと笑う。


「分からない? あたしよ、あたし。愛菜まなだよ」


 そう言いながら何故か裸シャツと言う凄い格好で歩の胸に指をあてながら言う。

 つぅ~っと指を下の方へと持って行き、いけない場所を触る。



「ひゃうんっ♡」



 思わず変な声が出てしまうも、思い切りいけない場所を擦られ、にんまりと笑われる。


「あ、ごめん、感じちゃった? でも完璧ね。お兄ちゃんは女の子に成りました♪」


「え、あ、いや、いやいやいや! 何だよそれっ!? それになんで俺はこんな事になってるの!!!?」


 目の前にいる女はものすごい美人でグラマラス。

 でもどこかで見た事があるような顔つきは歩の記憶には無い顔。

 しいて言えば、親戚にお姉さんがいればそんな感じにも見える彼女は大胆にも胸元が開いた裸シャツのまま歩の前に座りにんまりとする。


 オレンジ色がかった茶髪の長い髪をふさぁ~っとかきあげ、うーんと背伸びする。

 切れ長なまつ毛に整った顔立ち。

 白い肌に揺れる胸に歩は思わず赤面して顔を背ける。

 そんな歩に彼女はニヤリと笑って言う。


「なに? もしかして私の裸見たい? お兄ちゃんにならいいよ♪ 何なら男にしてあげてもいいけど…… あ、今は女の子に成っちゃったからお姉ちゃんが知らない世界を教えてあげてもいいわよ♡」


「なななななななっ/////////!」


   

 ぼふっ!



 思わず頭から大量の湯気を上げて歩は真っ赤になる。

 正直、童貞歴十九年、彼女いない歴十九年、告白も全て惨敗の十九年とトリプル十九年の歩には刺激が強すぎた。



「な、何なんだよ、だ、誰だよお前!」



「うーんだから、お兄ちゃんの妹の愛菜だよ?」


 目の前の女性はそう言う。

 しかし歩はジト目で彼女を見る。


「愛菜は隣の部屋にいるし、あいつはまだ中学三年生。お前はどう見ても二十歳過ぎた女性じゃないか」


「お兄ちゃん、年上の女性好きでしょう? ベッドの下のエロ本はみんなナイスバディ―の大人の女性モノばかりじゃん。あの時の私は中三になってもまだ胸がちっちゃくてお兄ちゃんに振り向いてさえもらえなかったのよ? でも高校に入って頑張って自分で胸揉んで大きくしたの! 触ってみる? あ、さっき盛大に揉まれちゃったから大きく成ったのわかるよね??」


 ニコニコ顔でそう言う彼女は自分は妹の愛菜であると言い張る。

 歩は暫し彼女の顔を見てから大きくため息を吐いて近くに置いてあったスマホを手に取り、警察に電話する。



「もしもし警察ですか? 今俺の部屋に痴女が現れて困ってます……」


「にゃぁーっ!! 何してるのよ、お兄ちゃん!!」



 彼女はすぐに歩むからスマホを取り上げるも、バランスを崩して歩の顔にその大きな胸を押し当てながら倒れる。



 むにゅ

 ばったーんっ! 



 それはとても柔らかくて気持ちいいもので、更に良い匂いもした。

 迫りくるその双丘に成す術もなく、歩は見事にその胸に埋もれて行く。



「うわっぷっ!」



 自分より大きな女体にバストプレスを喰らいながら歩はベッドに押し倒されじたばたと手足を動かす。


 と、いきなり部屋の扉が開いて中学生くらいの女の子が入って来る。



「アイナお姉ちゃん、あゆみお姉ちゃんうるさーいぃっ! って朝から何やってるのよ!? アイナお姉ちゃん、あゆみお姉ちゃんは私のなんだから襲っちゃダメぇっ!」



 そう言って女の子は無理矢理にも歩を引っ張り出し、自分の貧相な胸に顔を押し付ける。

 歩は成す術もなく彼女の硬い胸に顔を押し付けられて慌てる。



「うわ、愛菜、なにするんだよ!」


「あゆみお姉ちゃんはあたしのなんだからね! 大人になったらあたしがあゆみお姉ちゃんの奥さんになるんだからね!!」


「あら~、せっかくいい所だったのに。あゆみちゃんを大人の女にしようとしたのにねぇ~♪」



 歩をその少女に奪い取られても彼女はカラカラと楽しそうにしていた。

 歩は妹の胸にその顔を押し付けられて目を白黒とさせている。


 一体何がどうなってこうなった!?


 どう考えても訳が分からなくなり、歩は目を回すのだった。



 * * *



「アイナ、いくら自分の部屋がもうないからってあゆみの部屋で騒いではだめだよ?  あゆみはやっと身体が治ってもうじき学校へ通う事になるのだからね」


「はーいぃ、お父さん。でもこの家には私の部屋はもうないから今年受験の愛菜ちゃんの部屋にあたしが行くと勉強の邪魔になっちゃうでしょ? その点あゆみちゃんはまだ高校一年生だからしばらく相部屋でも大丈夫よね?」



 何故か朝の食卓にみんな平然として一緒に食事をとっている。

 父親も母親も妹でさえこの女に対して何の疑問も持たずに食事をとっている。

 それどころか話の流れ的にこの女がこの星河家の長女であると認識をしている。


 更に誰も歩が女の子、しかも十六歳の女子校生になっている事に何の疑問も持っていない。


 アイナと呼ばれた長女とされる女性は、あとで説明するからとりあえず朝ごはんを食べてからねと歩にそっと言う。

 合点はいかなかったが、自分一人騒いでもどうにもならなそうなので、歩はとりあえず様子を見ることにした。


 何と言っても、さっきの姉妹喧嘩を警察に通報したとして親にこっぴどく怒られてもいたから。



「はぁ~、お母さんのお味噌汁やっぱりおいしいわぁ♡」


「アメリカではちゃんとご飯食べてるの?」


「うん、ちゃんと食べてるよ。でもやっぱりお母さんのご飯は美味しいよね……」


 アイナはそう言って一瞬寂しそうな顔をするも、朝から元気にお味噌汁のおかわりを要求する。

 話しの中ではアイナはどうやらアメリカに留学をしている博士号を取得した研究員と言う事になっているらしい。

 そして昨晩この星河家に帰国したとなっているらしい。


 歩はそんな様子を横目で見ながらさっさと朝食を済ませ、説明を受ける為に自室に戻るのだった。



 * * *



「それで、ちゃんと説明してもらえるんだろうな?」


「まあね、さて何処から話をしたものか……」



 アイナが部屋に戻って来るのを待っていた歩はベッドの上に腰かけて腕と足を組んで待っていた。

 流石に裸シャツではなく、キャリアウーマンのようなワインレッドのスーツ姿になったアイナにお姉さん好きの歩は一瞬ドキリとさせられる。

 見事に盛り上がった胸はブラウスをこれでもかと押し上げている。

 腰のラインから太もものラインを見事に押し出す脚線美、微妙なスリットが入ったスカートから覗く黒のタイツがマニアック心をそそる。


 歩の部屋の学習机の椅子に腰かけながら足を組むその姿に思わず目が行ってしまいそうになり、慌てて咳払いをする。



「おほんっ! それで、お前本当に愛菜まななのか?」


「そうね、間違いなく遺伝的にはあなたの妹、愛菜よ。但し九年後の未来から来た愛菜だけどね」



 アイナと名乗る女性はそう言うが、歩はこめかみを押さえてしばし唸る。


 いや、未来から来た妹?

 しかも九年も先の世界?

 嘘だろそんなの何処の漫画の話だよ、ははははっ、と笑いたくなるが、実際自分が高校一年生、つまり十六歳の女の子に変わってしまっているとなれば、笑い飛ばす事が出来なくなってくる。



「お兄ちゃん…… いえ、あゆみちゃんには今後女の子として過ごしてもらうわ。未来を救うためにね」


「どう言う事だよ? お前が愛菜だってのが百歩譲って本当だとしても、なんで俺が女の子に成らにゃならんのだよ?」


「それはね……」



 アイナは少し寂しそうな顔をして話を始めるのだった。



 * * * * *



 それは途方も無い話だった。


 

 今から数年後にこの日本は大災害に見舞われる。

 大都市はその災害で機能を停止し、人々は災害により命を落とす。

 天変地異はその猛威を振るい続け、やがて世界各国へと広がって行く。


 その災害は自然のものではないとすぐに分かった。

 何故なら、この世に存在しない異形の生物が跋扈し始めるからだ。


 強いて言うならば、妖怪やファンタジー世界に出て来る魔物と言えば分かりやすいだろうか?


 そんな連中がある日を境に日本に、そして世界に出現し始めた。


 世界各国はその猛威の原因を探った。

 そして災害の発祥の地、この日本のここ東京八王子市にその原因を見い出す。

 その原因はさらに絞られ、ある人物に発生する特殊な磁場を観測した。



 正直誰もが最初信じられなかった。


 それが星河歩と言う人物であると言う事を。



「ちょっと待て。何だその三流SFのような設定は!?」


「うーん、ベタな話なんだけど、これ本当なのよ。それでお兄ちゃんがその元凶であることが判明したんだけど、その頃にはお兄ちゃんは異世界へと繋がる門として変異してしまっていて、誰もそれを止める事が出来なくなったの」


 アイナはそう言って手をかざすと、目の前に向こう側が少し透けて見える画面が現れる。

 薄さは全くないそれに歩は驚き顔を近づける。


「なんだよこれ?」


「当時の映像よ」


 アイナはそう言ってまるで映画の様な内容をその画面に再生する。


 それは特撮ではないかと疑うような風景だった。

 街には化け物がはびこり、人々を取って喰ったり虐殺していた。


 そして画面は変わりある門を映し出す。


 歩はそれを見て絶句する。

 そこには自分の頭が門に埋め込まれていたからだ。



「お兄ちゃんはこの門と一体化して異界からどんどんと魔物を呼び寄せるのよ。勿論各国もそれに抗っていたけど、魔物たちによってそれはことごとく阻まれた。当時のアメリカは躊躇なく核爆弾を日本へ打ち込んだけど、竜みたいなのがが出てきてそれを炎で焼き払うから空中で爆発してその電磁波で更に被害が広まって……」



 画像はその場面を映し出していた。


 まさしく世紀末。

 人類のおおよそ築き上げてきたものが怪物たちによってことごとく破壊されてゆくその様は、まさしく地獄絵図だった。


「何なんだよこれは……」


「信じられないかもしれないけど、これが未来よ。そして時空のはざまを利用して時間軸をさかのぼる技術が開発されたの。更に人体の質を変える研究にも成功してね、それがお兄ちゃんを女の子に変える技術だったのよ」


 思わず歩はアイナを見る。


 いやいやちょっと待て。

 百歩譲ってそのSFが事実として自分がその元凶だとしよう。

 しかしそれがなぜ性転換をする事へとつながる?



「ちょっと整理しよう…… 百歩譲って数年後に大災害が起こる、これは理解できる」


「うん」


「そして一万歩譲歩して俺がその磁場で、なんやかんやで異界へとつながる門となるのも不満だらけだが理解しよう」


「うんうん」



「だがなんで俺が女の子に性転換せにゃならんのだぁッ!!」



「あ~、そうね。今回私が過去のここへ来た一番の理由よ。つまりお兄ちゃんが男でなくなればその磁場が発生しなくなり、全てが無かった事になりそうなのよ!」





「はぁあああぁぁぁぁぁぁぁっッ!!!?」


 

 

 

 歩は大いに不機嫌な顔をして堅気でない方の下っ端の様な言葉セリフを吐く。

 しっかりとこめかみにおこマークを浮かばせて。



「つまりね、未来の世界でお兄ちゃんが発する特殊な磁場が特異点となり、異次元とこの世界を繋げてしまったのよ。なんでお兄ちゃんがそんな磁場を発生させるかはまだ不明だけど、数年後に確実にその異変は起こるのよ。世界中の通信に電波障害が起こり始め、そして災害が始まったその時がね。でね、その現象はお兄ちゃんが男だから起こっているらしく、性転換させてその時が来ないようにしてしまえば未来は変わる。人類は救われるのよ!」



「人類救われても俺の人権救われてねぇっ! 何で女なんだよ! その磁場とか出ないようにできなかったのかよ!? 未来ってすごい技術があるんだろ!?」


「いやいや、中には過去のお兄ちゃんを抹殺してしまえば良いとか言う過激派もいるのよ? それにこれを見て」


 アイナはそう言ってストップウォッチの様な物を取り出す。

 それには一直線の線を中心に波の様な物が表示されていた。



「これはお兄ちゃんの磁場を測定する道具なんだけどね、こっちの青いのが男だった時のお兄ちゃんの磁場波形よ。そしてこっちのピンク色が女の子に成ったお兄ちゃんの磁場波形。ほとんど逆転しているでしょう? この磁場を保持していれば異界との磁場が同調できずに災害も何も起こる事が無いみたいなの! だから国際連邦はお兄ちゃん抹殺をあきらめて性転換技術でこの磁場を保持する事になったの! まあ、魔除けみたいなものね」


「魔除けで俺の人生性転換!? 何とかならないのかよ!?」


「未来の世界では全世界の人口の約半分が死に絶えるわ…… その中には勿論お父さんやお母さんも…… だから、お兄ちゃん、私が女にしてあげるから全てを私にゆだねて……」



 そう言ってアイナはずいっと歩の前にまで来る。

 そっと手を頬に添えて甘い吐息を吐きながら顔を近づける。



「え、あ、いや、愛菜、いくらなんでも兄妹でそれは……」


「大丈夫、女の子の身体ってとっても敏感で気持ちいいのよ? ずっと私が面倒見てあげるから、お兄ちゃんは私にその身をゆだねて…… 安心して、絶対に男になんか渡さないから。たとえ女の子に成っても私はお兄ちゃんが好きだから、一生面倒見てあげるからね♡」


「ちょちょっと、愛菜……」



 ばんっ!



「アイナお姉ちゃん! あゆみお姉ちゃんを襲っちゃダメって言ってるでしょう!!」


 ドアを突き破るような勢いで妹の愛菜が入って来た。

 まさしく間一髪。

 あと数ミリで歩の唇とアイナの唇がくっついてしまう所だった。



「アイナお姉ちゃんはやっぱりあたしの部屋に来てっ!」


「いやいや、愛菜ちゃんは今年受験なんだからお姉ちゃんが部屋にいちゃ邪魔でしょ? それに一人じゃないとおっぱい揉んで大きくするマッサージできないよ? あ、その後のスッキリする事もね♡」


「ななななななな、なんでアイナお姉ちゃんがその事知っているよぉっ///////!!」


「あら、女の子だってしたい時はあるものよ?」


「ししししししし、してないもんっ! そんなエッチな事あたしはしてなぁああぁぁぁいぃぃっ///////!!!!」


「まぁまぁ、大丈夫、誰にも言わないから、安心して♡」


「あゆみお姉ちゃんに聞かれたぁ! あゆみお姉ちゃん、あたしそんなエッチな子じゃないんだよ! アイナお姉ちゃんがぁッ!!」




 歩の部屋で三姉妹そろっての大騒ぎはしばらく続くのだった。


 

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