3 何も教えてくれないリーダー

「じゃあ、五時になったら日報を書くって決めたらいいよ」

 自主的に書いていた日報を作成することを忘れてしまう、と上司に言ったら返ってきた言葉。

 五時は定時なのですが?


「このコードを作ってみて」

 プログラミング未経験のわたしに、リーダーは「最初は勉強」と言って、参考書をいくつか寄越すと、急に練習問題を解かせ始めた。

「期限はありますか?」

「ないよ。できるだけ早くやって。その方が気楽でしょ?」

 例題もなし、基本を教えるでもなし。

 そんな状態で、いきなり練習問題をやらせて解けると思う?

 案の定、わたしは解けない。ギブアップをしても、ヒントしか貰えない。

 自力で解けない限り、次に進めないシステム。

 まるで、暗闇の迷路を彷徨っているみたい。

「リーダーって、人に教えたことありますか?」

「ないよ。教えたことも、教わったこともない」

 ……ほぉ。


 ある日、わたしは毎日書いてチーム全員にメールで一斉送信していた日報をやめると言った。

 元々、日報を書くのは、仕事始めにやることリストを作成する癖を身につけるためだったからだ。

 しっかりやることリストを作成できるようになったので、日報はもう必要ないと思った。

 誰も良いとか悪いとか、評価や返信をしてくれないから、見ていないのだろう。


「いや、見てるよ。日報は続けた方がいい。今後のためになるから」

 返信をくれないリーダーは毎日、日報を見ていると言う。

 日報を作成し続ける、明確な理由は教えてくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る