2 先輩ガチャ、大ハズレ
「だって、常識でしょ?」
会社のルールがわからず、質問した時、OJTの答えは大体これだった。
知るか、社会の常識なんて。
半年前まで大学生だったんだぞ、こっちは。
新人研修が終わり、九月から配属されることになった。
わたしは本社で勤務したいと心から志願したが、叶わなかった。
OJTの先輩は、時短で働くママさん社員。
配属先で使用している言語は、新人研修で習った言語ではない、知らない言語だった。
コアタイムさえ出社していれば、出勤時間は自由だと聞いた。
「じゃあ、毎週四日間残業たくさんしたら、週休三日にしても良いですか?」
「ダメでしょ、常識的に」
ルール的にはどうなんだ?
ちゃんと説明してくれよ。
「私、時短だからその辺よく知らない。別の人に聞いて」
この人が、わたしのOJTなのか。
「この仕様書の九番、こういう意味で合ってますか?」
ある日、OJTではない、別の先輩に質問した。
わたしの担当は、システムが正常に動くかどうか確認するテストを作る仕事だった。
テストにプログラムが「イエス」と吐くか、「ノー」と吐くかは、別の人が作った仕様書を見ながら判断する。
「あー……、『九番ってこういう意味で合ってますか?』って仕様書作成した人に質問投げて」
言われた通りに質問をして、回答を貰うも、別の疑問が生まれる。
先輩は言う。
「九番ってやっぱり、別の意味かもしれない。また質問投げてみて」
再び言われた通りに質問をして、回答を貰い、先輩の指示通りにテストを作成する。
わたしが作成したテストをチェックした先輩が言う。
「いや、このテストじゃない。もっと違う意味だよ。百通りぐらいテスト作って」
夜中の九時まで作成する。
締め切りは今日まで。
「百通り作りました」
頑張ったね、と先輩がわたしのパソコンを覗き込む。
「そのテストの作り方じゃダメだよ。もう遅いから俺がなんとかしておく。帰っていいよ」
翌日、わたしの担当欄には丁寧なビジネス用語で、こう書いてあった。
『すみません、間に合いませんでした』
……なんとかしておく、ね。
先輩に質問ができない間は、先の業務のできるところだけやっておけとリーダーに言われる。
結局、全部手戻りになって、時間が無駄になるだけだった。
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