1 性格が悪い、系列会社の同期

「今日、チーク濃いね」

 新人研修。系列会社の同期で、性格が悪いと評判の女子にそう言われた。

 思い返せば、その子は、男女ともに嫌われていた。


 大学卒業後、新卒でIT大手企業の子会社に入社した。職業はシステムエンジニア。

 転勤がなくて、福利厚生が良かったからだ。


 正直、わたしは新人として好ましくない人間だったと思う。

 目立っていたし、尖っていた。

 どうしても髪色をピンクにしたかったわたしは、ブリーチこそ入れなかったものの、髪を赤系に染めていたのだ。

 もちろん、会社にはわたしよりもっと派手な髪色の先輩がいて、その人は綺麗な緑色のロングヘアだった。


 新人研修は四月末〜八月末まで、他の系列会社と合同で行われた。

 クールビズになるや否や、わたしはユニクロでオフィスライクな服を買って着て行ったが、ゴールデンウィーク明けは、まだまだスーツの女子が多かった。

 真っ先に私服にシフトチェンジしたわたしに、みんな口々に嫌味を言った。

「アパレル店員みたいだね」

「派手派手だね」

 全身ユニクロだぜ?

 そんなに言うなら、みんなもやればいいじゃん。

 仲の良い同期は「嫉妬してるんだよ」とわたしを宥めた。


 新人研修に行きたくなくなるのは早かった。

 どうせまた、嫌味を言われる。

 泣きそうになりながら、出社した。


 男子はクールビズだろうとなんだろうと、ずっとスーツ着用。いじりたくなるのも仕方ないかとも我慢できたが、嫌味を言ってきた女子のほとんどは、夏になれば、わたしより派手な私服を着て出社してきた。


 ある日、服が乾かなくて、肩にスリッドが入った服を着てきてしまった。フリルになっているので、開いているとは、パッと見わからない。

 仲のいい同期にだけ、「服が乾かなかった」とこっそり教えて笑い話にしていたところを、性格の悪い女子に見られてしまった。

「あー! 穴空いてる!」

 ガバッと、肩のスリッドを開かれた。


 翌日、これなら文句も言いようのない服装で出社した。

 性格の悪い同期と、女子トイレで鉢合わせた。

 流石に何も言わないだろ、と思った矢先、

「今日は、普通だね」

 彼女はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。


 新人研修最終日、彼女は袖がシースルーになったトップスと、横の縞々のスカートを履いてきたことを、数年経った今でも覚えている。

 お前、よくその格好でわたしの前に立てたな?

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