第80話 じゃあ今からもっと濃厚なキスをしてみる?

 満足するまで花見小路を散策した後、今度は錦市場へと足を運んでいた。三百九十メートルの長い市場を歩くことは四百年の長い歴史の道を歩くことでもあるとホームページにも書かれており雰囲気が出ていた。

 そして京の台所と称されるだけあって錦市場内はかなり賑わっている。俺と夏乃さんはさっきから二人で食べ歩きをしている最中だ。


「今日一日だけで摂取カロリーが凄まじい事になりそうですね」


「どれも美味しそうだから食べ過ぎちゃうのも仕方がない気はするけど」


「体重が増えないか心配なんですけど」


「私は太らないから大丈夫」


「あっ、今たくさんの人間を敵に回しましたよ」


 俺達は牛トロ炙り寿司を食べながらそんな話をしている。昼にうなぎをガッツリ食べたばかりだというのにこんなにバクバク食べていたら太りそうだ。


「あっ、そうだ。二人で楽しく気持ちよくカロリーを消費する良い方法を知ってるんだけどこの後どう?」


「……ちなみにどんな方法なんですか? 全く想像出来ないんですが」


 そんな方法があれば俺でも知ってそうな気はするが心当たりが無かった。すると案の定とんでもない回答が返ってくる。


「まずはラブが付くホテルに行く必要があるんだけどさ」


「いやいや、絶対駄目でしょ」


「えー、エッチって結構消費カロリーが多いらしいから素晴らしい名案だと思ったのに」


 確かに三十分するだけで十五分のランニングと同じくらいカロリーを消費するとは聞いた事があるがカップルではない俺達だと問題しかないだろう。


「そういう事は付き合ってからにしましょう」


「へー、付き合ってからだったら良いんだ」


「あ、あくまで付き合ったらですよ」


「そっか、じゃあもう少しの辛抱だね」


 どうやら夏乃さんの中ではもうすぐ俺と付き合う予定になっているらしい。そんな事を考えながら引き続き錦市場の中を歩き回る。


「今度は甘い物が食べたいしあそこのソフトクリームとかどうかな?」


「良いですね、種類もたくさんあるみたいなのであれにしましょうか」


 俺達は二人でソフトクリームを選び始め、悩んだ結果夏乃さんがはちみつで俺は黒豆きなこを選んだ。


「やっぱり今日みたいな暑い日に甘くて冷たいソフトクリームは最高だよね」


「ですね、ちょっと元気になった気がします」


 二人で歩きながらソフトクリームを食べていると夏乃さんが思いがけない行動に出る。


「そっちも美味しそう、一口ちょうだい」


「あっ、ちょっと」


 なんと俺が持っていた黒豆きなこのソフトクリームを横からパクッと食べてきたのだ。


「うん、美味しいね」


「半分くらい食べるのは流石にどうかと思うんですが」


「ごめんごめん、代わりに私のはちみつソフトを半分あげるよ」


 そう言って夏乃さんは手に持っていたソフトクリームを俺の前に差し出してきた。俺は何も考えずにかぶり付く。はちみつの甘い味が口に広がってめちゃくちゃ美味しかった。


「へー、結人も間接キスくらいなら抵抗なくなったんだ」


「昨日も間接キスしましたし、勝手に婚約者宣言までされたりしたのでもう何とも思わなくなりました」


「そう言えばそうだったね」


 それを考えると間接キスなんて大した事ではないだろう。そう思ってしまっている時点で俺の感覚はだいぶ麻痺している気もするが気にしない事にする。


「じゃあ今からもっと濃厚なキスをしてみる?」


「それとこれとは話が別です」


「むー、つまんないの」


 てか白昼堂々とキスなんて普通のカップルでもまずしないだろう。その辺を全く気にしないバカップルなら別だろうが。それからしばらく食べ歩きを続けているうちに気付けば帰りの時間が近づきつつあった。


「もうこんな時間か」


「この二日間あっという間でしたね」


「うん、まだ遊び足りないくらいだよ」


「いくら何でもそれは元気過ぎますって」


 昨日に引き続き今日も遊びまわったため俺は疲労困憊状態だ。男子の平均よりは体力が上のはずの俺が疲れているというのに夏乃さんがけろっとしているのはちょっと理解できない。

 そんな事を思いながら錦市場を出た俺達は地下鉄などを乗り継いで京都駅まで戻ってきた。そして家族用のお土産を選び始める。ちなみに夏乃さんはちゃんと大阪のお土産を買っていた。

 その後俺達は行きと同じように学割を使うためにみどりの窓口で新幹線チケットを購入してそのままホームへと向かい始める。


「次京都に来る時は約束通り子供を連れて行かないとね」


「そうですね……って、ナチュラルに結婚してる事を前提に話さないでくださいよ」


「ちなみに私は男の子と女の子両方欲しいと思ってるから一生懸命頑張ってね」


「だからあんまり生々し過ぎる話をするのは辞めてくださいって」


 そう口にする俺だったがそんな未来があったらきっと楽しいに違いないと思う自分も確かに存在していた。まあ、恥ずかしくて流石に夏乃さんには言えないが。こうして二日間にわたった俺達の京都旅行は無事に終わりを迎えた。

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