第79話 あっ、もしかして夜の営み的な意味で捉えちゃった?

 伏見稲荷を後にした俺達は電車で移動をして祇園方面へと移動をしていた。祇園四条駅で電車を降りた俺達は四条通をまっすぐ東に進んで花見小路を目指し始める。


「めちゃくちゃ人が多いですね」


「流石は京都市内のメインストリート」


 あまりにも人が多すぎてまるですし詰め状態になった満員電車のようだった。ちなみに俺はこの混雑で逸れてしまわないよう夏乃さんと手を繋いで歩いている。

 恋人繋ぎな事に関しては夏乃さんに何か言っても無駄な事は分かり切っているためもはやツッコミすら入れていない。それから五分ほど歩いて目的地である花見小路へと到着した。


「めちゃくちゃ風情ある綺麗な街並みだね」


「ええ、これぞまさに京都って感じがします」


 石畳の上に昔ながらの京町家が並び軒先に赤い提灯が揺れている風景はまるで江戸時代へとタイムスリップしたような感覚にさせられる。まあ、花見小路は江戸時代ではなく明治時代初期に完成したらしいが。


「本格的に観光をする前にまずはお昼にしようか」


「そうですね、伏見稲荷を観光して割と良い時間にもなってますし。ところで昼の場所は決まってるんですか?」


「うん、その辺りは事前にしっかり調べてあるから」


 俺は夏乃さんの案内で店へと向かい始める。少しして到着した場所はレトロな外観をした料亭だった。看板にはうなぎという文字が書かれていたためそれがメイン料理なのだろう。


「うなぎを食べるのは久々な気がします」


「花見小路でおすすめのランチを探してたらここが美味しそうで評価も高かったから選んだんだよ」


 相変わらず良いチョイスだ。そんな事を思っていると夏乃さんはニヤッとした表情を浮かべて口を開く。


「それに結人にはうなぎを食べてしっかりと精をつけて貰わないといけないからさ、この後はいっぱい汗をかいて体力もかなり消耗するだろうし」


「いやいや、急に何を言い始めるんですか!?」


 汗をかいて体力を消耗するから精がつくうなぎを食べろってまさか夏乃さんはこの後そういう行為を俺とする気なのだろうか。


「夏バテ対策にうなぎを食べようって意味なんだけど何か変だった?」


「……なるほどそういう意味だったんですね」


 どうやら俺が勝手に早とちりをしていただけだったらしい。あまりにも恥ずかし過ぎて顔から火が出そうだ。


「結人は一体どう言う意味だと思ったの?」


「そ、それは……」


「もしかして夜の営み的な意味で捉えちゃった?」


「黙秘権を行使します」


「それは自白してるのと何も変わらないと思うけど」


 夏乃さんはニヤニヤしながら俺を見つめていた。多分俺の反応を見て楽しむためにわざと誤解を招きそうな言い方をしたに違いない。

 そんなやり取りをした後俺達は店内に入って料理を注文する。どのメニューも結構高かったが父さんと母さんから往復の新幹線代を含めて少なくないお金を貰っていたため問題はない。


「外観だけじゃなくて店の中も雰囲気が出てますね」


「だね、ここが人気な理由も分かるよ」


 和を全面的に押し出した内観は本当にお洒落であり見ているだけで楽しめた。こんな感じの格式ばった料亭には普段中々来ないためほんの少し偉くなった気分だ。

 しばらくしてから出て来たうなぎ料理がめちゃくちゃ絶品だった事は言うまでもない。お腹いっぱいになって満足した俺達は花見小路の散策を始める。


「あっ、あれって舞妓さんじゃない?」


「あの動きを見た感じ本物っぽいですね」


 京都の観光地では舞妓姿の女性をよく見かけるのだが、実はそのほとんどが舞妓体験中の観光客であるパターンが多い。

 歩き方がたどたどしかったりカツラだったりするため見分けるのは案外簡単だ。俺達の視界に入っている舞妓さんに関しては堂々としており歩き方も綺麗なため間違いなく本物に違いない。


「一緒に写真を撮れないのが残念」


「舞妓さんへの声掛けとか撮影はマナー違反なので仕方ないですよ」


「まあ、仕事中に話しかけられたら普通に迷惑だもんね」


 マナーが悪い観光客のせいでそもそも写真の撮影自体が禁止のエリアも出来ているため人気観光地も大変なのだろう。そんな事を思いつつ俺は夏乃さんとともに二人で花見小路をあちこち歩き回る。


「お土産は何が良いかな?」


「京都のお土産と言ったらやっぱり八つ橋とか京ばあむが定番ですけど、女性には胡粉ネイルとかあぶらとり紙とかも人気らしいです」


「へー、そういう選択肢もあるんだ」


「賢い夏乃さんなら勿論分かってるとは思いますけどお土産を買うなら自分用にして隠しておいてくださいよ」


 せっかく俺と一緒に来ている事を偽装工作までしているのに京都のお土産を買った事が原因でバレたら全てが水の泡だ。


「分かってるって、友達と大阪へ遊びに行っている設定なのはちゃんと覚えてるから」


「それなら良いですけど」


 夏乃さんはその辺り抜かりないためまず大丈夫だとは思うが無駄に心配性なせいでどうしても不安になってしまう。だが俺ができる事は特にないため夏乃さんを信じるしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る