第73話 そう言えば結人には罰が残ってたよね?
京都ツリーで満足するまでビュッフェを楽しんだ俺達は電車で移動をして嵐山に来ていた。京都駅から嵯峨嵐山駅までは乗り換えなしの電車一本で行けるため特に迷うことはなかったと言える。
「せっかく京都まで来たんだから嵐山には来ないと」
「嵐山は伏見稲荷とか金閣寺と同じくらい人気の観光地ですもんね」
嵯峨嵐山駅周辺はたくさんの観光客で溢れかえっており大混雑していた。日本人だけでなくヨーロッパ系やアフリカ系など外国人観光客の姿も目立っている。
「それにしても着物を着てる人が結構多いな」
「嵐山で着物を着てたらめちゃくちゃ映えそうだもんね、あそこでレンタルやってるみたいだから私達も着てみない?」
「俺は別にそこまで着たいとは思わないので遠慮しておきます」
「えー、せっかくだから結人も着ようよ」
夏乃さんからの提案を断ると不満そうな顔になった。でも着物って違和感あるから正直着るのが苦手なんだよな。そんな事を考えながら断り続けていると夏乃さんは突然悪そうな表情を浮かべる。
「そう言えば結人には罰が残ってたよね?」
「えっ、何かありましたっけ……?」
「ほら、夏休み前に凉乃ちゃんと抱き合っていた事を私に隠してたじゃん」
「あっ!?」
そう言えば保健室でつまずいて転けそうになった凉乃を抱きとめて助けたら何故か匂いでバレてしまい、嘘をついて隠そうとした罰を与えると夏乃さんから言われていた。
あれから特に何も触れられなかったため俺は今まで完全に忘れかけていたわけだが夏乃さんはしっかり覚えていたらしい。
「罰として着物着てくれるよね?」
「……分かりましたよ」
ここで逆らうのは得策ではないと判断した俺は首を仕方なく縦に振った。それから俺達は駅のすぐ近くにあったレンタル店へと足を運ぶ。
そして店員からレンタルの説明を受けた後、二人で着る物を選び始める。特にこだわりなんてなかった俺はすぐに決まったが夏乃さんは結構悩んでいた。
「結人的には黒と青ならどっちの色が似合うと思う?」
「うーん、どっちも似合いそうだしな……」
「そうなんだよ、だから私も迷ってる」
東京サマーヒルズで着ていた黒い水着も隅田川花火大会の青い浴衣もよく似合っていたため本当に悩みどころだ。
「……あっ、それなら両方の色が入ってる着物はどうですか?」
「なるほど、その手があったね。じっくり考えすぎたせいで全然気づかなかった」
こうして夏乃さんの着物も無事に決まったため今度は着付けに入る。プロの店員がいたため特に問題もなくスムーズに着付けできた。
「やっぱりよく似合ってますね」
「結人が着てる緑色の着物も案外似合ってるよ」
「案外は一言余計ですって」
俺達はそんな会話をしながら店を出る。外に出た瞬間、たくさんの視線が夏乃さんに集中した。ただてさえ美人で注目を集めやすい夏乃さんだが今回はギャル姿に着物の組み合わせの相乗効果でいつも以上に目立っているようだ。
「こんなに注目されるとちょっとした有名人になった気分」
「隣にいる俺に恨み妬みの視線を向けてくるのはちょっと勘弁して欲しいんですけど……」
道行く男性達は俺に対して憎悪の感情を向けてきていた。視線だけで人を殺せるなら多分この一分間のうちに両手では数えられないくらい死んでいるに違いない。
「よし、お待ちかねの渡月橋へ行こうか」
「ですね、行きましょう」
早速俺達は渡月橋へ向かって歩き始める。嵐山と言えば渡月橋という事もあって橋の上はかなり混雑している様子だった。二人で並んで歩いていた俺達だったがトラブルが発生する。
「きゃっ!?」
何と夏乃さんが誰かにぶつかられたらしくその衝撃でバランスを崩して転びそうになってしまったのだ。俺は咄嗟に夏乃さんの腰に手を回して抱き寄せる。
「……いつまで私の事を抱き締めてるつもり?」
「あっ、ごめんなさい……」
しばらくの間黙ったまま見つめ合っていた俺達だったが夏乃さんの言葉でようやく我に返った。俺は慌てて夏乃さんから離れる。その時に夏乃さんの表情がちょっと名残惜しそうに見えた気がした。
「また転びそうになっても嫌だし手を繋がない?」
「ですね、そうしましょう」
さっきは運良く助けられたが次はどうなるか分からない。そう考えていると夏乃さんは俺の手を取って思いっきり指を絡めてきた。
「な、何で恋人繋ぎなんですか!?」
「だってこの方がしっかり手を繋げるからさ」
「確かにそうかもしれませんけど……」
突然の事に俺は軽くパニック状態だ。言うまでもなく誰かと恋人繋ぎをするのは今回が生まれて初めてだ。
「もしかして嫌だった?」
「……嫌じゃないです」
「じゃあ別にこのままでいいじゃん」
嫌と言えるはずなんて無かったため恋人繋ぎは続行となった。そもそも拒否したとしても夏乃さんは絶対に辞めないだろう。
もはや俺達は側から見れば完全にカップルにしか見えない気がする。下手すればその辺りを歩いているカップルよりも恋人らしいく見えるのではないだろうか。
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