第72話 別に今からキスとかエッチとかをするわけじゃないんだから良いじゃん

 出発のプリエを後にした俺達は駅のすぐそばにある京都ツリーに来ていた。おじいちゃんとおばあちゃんの家には夕方頃行く予定なのでしばらくは京都市内を観光するつもりだ。


「やっぱり良い景色」


「ですね、あそこに清水寺も見えますしこれぞまさに京都って感じですよね」


「大阪方面まで見えるみたいだからしっかり見ないと損だよ」


 俺達は京都ツリーの11階にある展望室から景色を見渡している。展望室からは京都市内を360度見渡せるためかなりの絶景だ。しばらくうろうろしていると展望室の中に変わったものがある事に気付いて俺は足を止める。


「つりりん神社? 何でこんなところに神社があるんだろ」


「つりりん神社はマスコットキャラクターのつりりんをモチーフにした京都ツリー開業100周年で設置されたんだって。ちなみに京都で一番高いところにある神社らしいよ」


「へー、ここって一応ちゃんとした神社なんだ」


 俺は京都ツリー内にこんな神社がある事を全く知らなかったが夏乃さんはしっかり知っていたらしい。そう言えば東京ツリーの中にもツリー大神宮という神社があったっけ。


「てか、夏乃さんはよくこの神社の存在を知ってましたね」


「ここもさっきの出発のプリエと同じで来たかった場所だから」


「……って事はやっぱり恋愛関係のご利益があったりします?」


「うん、つりりん神社は恋愛と良縁成就のご利益があるよ」


 なるほど、それで夏乃さんは京都ツリーに行きたいと俺に猛プッシュで提案して来たのか。俺がそんな事を思っていた間に夏乃さんは絵馬を購入していた。どうやら書く気満々らしい。


「絵馬には何を書くつもりなんですか?」


「逆に聞くけど結人は何を書いて欲しい?」


 俺の質問に対して夏乃さんはニヤニヤしながら質問で返してきた。うん、これは間違いなくどう答えても面倒な事になる奴だ。


「えっと……俺と夏乃さんが仲良く出来ますようにとか?」


「なら未来永劫何度生まれ変わったとしても全ての宇宙、過去と未来の全てで結城夏乃と九条結人が永遠に仲良くできますようにって書くよ」


 確かに俺の言った事がベースにはなっているが明らかに色々とやばそうな単語が追加されている。


「いやいや、色々付け加えすぎでしょ」


「でも意味は大体同じだと思うけど」


「一回大体って意味をスマホで調べてみてる事を強くおすすめします」


「はいはい」


 そんな俺の言葉を適当に聞き流したらしい夏乃さんは絵馬に先程口にした内容を本当に書いてしまった。綺麗な字で書かれたその絵馬は字面から凄まじいインパクトがある。


「……これ、本当に飾るんですか?」


「勿論だよ、そのために書いたんだから」


「見た人から思いっきりドン引きされそう……」


 前々から思っていたが夏乃さんは俺に対して激重感情を向け過ぎやしないだろうか。もし告白の返事を断ったらごめん、さよならというメッセージが来た後に滅多刺しにされそうな未来を一瞬想像してしまった。

 まあ、夏乃さんは絶対にそんな事はしないだろうが間違いなく今まで通りの関係ではいられなくなる。もしそうなったら夏乃さんとは次第に疎遠となり話さなくなる可能性が高い。それを考えただけでちょっと胸が痛くなった。


「よし、絵馬も設置できたしお昼ご飯にしようか」


「ですね、レストランに行きましょうか」


 俺達はエレベーターで三階まで移動してツリーテラスという名前のレストランに入る。ここはビュッフェスタイルのレストランとなっていてかなり人気らしいが、まだ少しお昼の時間帯より早い事もあってすぐ入る事が出来た。


「窓からの景色もめちゃくちゃ綺麗ですね」


「うん、だから夜のほうが人気らしいよ」


 確かに夜景をバックにしてワイングラスなどを撮ればめちゃ映えそうな気がする。まあ、俺も夏乃さんも二十歳未満なためそれは出来ないが。


「じゃあ早速料理を取りに行こうか」


「そうですね、行きましょう」


 俺と夏乃さんは立ち上がってそれぞれ料理を取りに行く。料理だけではなくスイーツも充実しているためかなり楽しめそうだ。


「……あっ、この炒飯海老入ってる」


「あらら、夏乃さんって昔から海老は駄目ですもんね」


 席に戻って料理を食べ始めていた俺達だったが夏乃さんはそう声をあげて固まってしまった。炒飯の中に埋まっていたため気づかなかったようだ。


「残すのも勿体無いし食べてくれない?」


「分かりました」


「はい、あーん」


「……えっ?」


 俺が箸を伸ばそうとしていると夏乃さんはスプーンに乗せて俺の口元まで運んできた。


「あれっ、食べてくれるんじゃなかったの?」


「食べるとは言いましたけどあーんするのは流石に不味くないですか? 間接キスになりますし」


「間接キスなんて別に今更じゃない? 子供の頃はよくやってたし」


「あの頃とは違いますって」


 夏乃さんを全く意識していなかった子供の頃とは違って今はバリバリ意識をしてしまっているため間接キスをするのは色々と不味い。


「別に今からキスとかエッチとかをするわけじゃないんだから良いじゃん」


「……分かりましたよ」


 俺は夏乃さんの圧力に負けて仕方なく口を開いた。それを見た夏乃さんは満足そうな表情で俺の口にスプーンを入れてくる。当然味なんて分かるわけが無かった。

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