第70話 へー、まさに私の事じゃん

 夏乃さんと電話で話してから一夜が明けた現在、俺は最寄り駅で夏乃さんと合流していた。


「あっ、結人おはよう」


「……おはようございます、朝から元気ですね」


 まだ眠くテンションがかなり低い俺とは対照的に夏乃さんは元気いっぱいな様子だ。すると夏乃さんはにこやかな表情で口を開く。


「久々の京都なんだから元気にもなるよ」


「分かってるとは思いますけど今回の目的は俺がおじいちゃんとおばあちゃんに会う事なのでそこだけは忘れないでくださいよ」


「うんうん、分かってるって」


 本当に分かってるのか心配な俺だったがどうせ追及しても無意味な事は目に見えているため黙っておいた。


「ところで夏乃さんは今回の件は家族にどう説明してるんですか?」


「ああ、友達と泊まりで大阪へ遊びに行くって設定になってるよ。京都駅なら大阪のお土産も売ってるし」


「一応その辺りの事はちゃんと考えてるんですね」


「友達にもしっかり口裏を合わせて貰うように頼んでるから安心して」


 ここまで徹底的に偽装工作をしているならバレる心配はないはずだ。もし俺と夏乃さんが一緒に京都へ行っている事が誰かにバレたら面倒だし。特に兄貴が知ったら今以上に夏風邪が悪化しかねない。

 それから俺達は在来線で東京駅まで移動し、みどりの窓口で新幹線の乗車券を購入する。券売機で買った方が手っ取り早かったがみどりの窓口でないと学割が使えないためわざわざ列に並んだ。


「それにしても東京駅は人が多いな」


「夏休み真っ只中だから多くて当然だよ。私達みたいにこれから県外へ遊びに行く人とか、逆に東京に遊びに来た人とか色々いるだろうから」


「この感じなら新幹線の自由席も絶対めちゃくちゃ混雑してますよね」


「うん、だから指定席を買っておいて正解だったでしょ」


「ですね、京都まで二時間以上立ちっぱなしは流石にきつ過ぎますし」


 もしそんな事になったら移動するだけで疲れてしまうに違いない。京都駅に着いて新幹線を降りた直後は何もする気が起こらなくなるだろう。


「そこのコンビニで何か買いません?」


「そうだね、まだ朝ごはん食べてないからお腹もぺこぺこだしそうしようか」


 俺達は新幹線ホーム内にあるコンビニでおにぎりやサンドイッチ、飲み物などを買った。そして新幹線に乗って移動し始める。


「せっかく二時間もあるんだから二人で何かしない?」


「えー、京都駅に着くまで寝たいんですけど」


「うーん、それはちょっと認められないかな」


 夏乃さんから即座に却下されてしまった。寝ようとしても間違いなく邪魔されるに決まっているため諦めるしかないようだ。


「ちなみに何をするつもりですか?」


「心理テストとかどう? 最近流行ってるアプリがあってさ」


「とりあえずそれをやりましょう」


「よし、まずは結人に問題を出すね。あなたはウォーキング中にある物を見つけました、それは何か?」


 夏乃さんが俺に見せてきたスマホの画面には財布と鍵、四つ葉のクローバー、ハンカチという四つの選択肢が用意されていた。こういうのは深く考えない方が良いと思った俺は直感で一つ選ぶ。


「鍵かな」


「オッケー、じゃあ解説を見てみよう」


 鍵マークのイラストを夏乃さんがタップすると画面に解説が表示された。ひとまず俺はその内容を声に出して読み上げる。


「鍵は知性を表します。鍵を選んだあなたの運命の人は頭が良く発想力が豊かで、ポテンシャル高めのハイスペックなタイプ」


「へー、まさに私の事じゃん」


 夏乃さんはニコニコした表情を浮かべていた。確かに今の解説は夏乃さんにかなり当てはまっているような気がする。


「今度は俺が夏乃さんに問題を出しますね」


「うん、よろしく」


「あなたがお祭りの屋台である食べ物を買いました、それは何か?」


 今度はチョコバナナと綿菓子、りんご飴という三択だった。直感で選んだ俺とは違い夏乃さんは迷った様子だったが少しして結論を出す。


「綿菓子で」


「解説は、えっと……綿菓子を選んだあなたはピュアそうに見えて実はドS。綿菓子はひと口では入らない大きさですが、それだけのものを征服しようという意志のある人が綿菓子を選びがちです」


「ふーん、私ってドSなんだ」


 夏乃さんは意外そうな顔をしていたがこれも当たっている。今まで俺に対して行ってきた数々の仕打ちを考えると夏乃さんは間違いなくドSだ。てか、今まで自覚無かったのかよ。


「中々面白いですね」


「まだまだ問題はたくさんあるからどんどんやっていこう」


 俺と夏乃さんは夢中になってアプリで心理テストをやり続けた。


「……めちゃくちゃ当たってますね」


「うん、心理テストってこんなに当たるんだ」


 どうやら夏乃さんも俺と同じ意見のようだ。アプリの心理テストは本当に怖いくらいよく当たっていた。流石人気になるだけの事はある。


「あっ、結人。窓の外を見て、富士山が見えてる」


「って事はもうそろそろ静岡か」


 夏乃さんの声を聞いた俺はそうつぶやいた。二人で心理テストをしていた間に四十分近く時間が経過していたらしい。

 ただし次の停車駅は名古屋駅であり京都駅までは後一時間以上は掛かってしまため到着まではまだしばらくは掛かりそうだ。

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