第66話 くそっ、俺も美人な婚約者の義姉が欲しかった……
食券を窓口で渡した俺達はひとまず席に座って料理が出来るのを待ち始める。ちなみに今回は夏乃さんからおすすめされたものを注文した。
「高校生とかその保護者だけじゃなくて普通に大学生っぽい人もいるんだな」
「夏休み中も部活とかサークルの活動はやってるから」
「そう言えば夏乃は部活とサークルは今のところ入ってないと思うけど興味ないの?」
「新歓祭の時は色々なところから勧誘されたけどそんなに興味が無かったんだよね、それに部活とかサークルに入っちゃうと結人に絡む時間が思いっきり減っちゃうし」
「うん、思ったよりもしょうもない理由だった」
だが大学生の本分は言うまでもなく勉強のためそこさえきっちりやっていれば部活やサークルに入っていなくても別に責められるような事はないだろう。
それから少しして完成した料理を窓口で受け取り二人で仲良く食べ始める。こうして学食でお昼を食べていると大学生になったような気分になるから不思議だ。しばらくして食べ終わった俺は食器を持って立ち上がる。
「食器を片付けたついでにトイレに行ってくる」
「行ってらっしゃい」
俺は食器を返却口に持っていくとそのままトイレへと向かう。そして用を足して席に戻ると夏乃さんが知らない明らかにチャラそうな男性から話しかけられている様子が目に入ってくる。
「その制服って新城池高校のやつじゃん。実は俺もそこ出身でさ、先輩後輩のよしみって事で特別に案内してあげるよ」
「いえ、間に合ってるので」
「そんな事言わずにさ、絶対楽しいから一緒に行こうぜ」
チャラ男は口ぶり的に早穂田大学の在学生だと思うがかなり強引だった。当然このまま見過ごすわけにはいかないため二人の間に割って入る。
「あの、夏乃は行く気がないようなので絡むのを辞めて貰ってもいいですか?」
「おいおい、急に横から口を挟んでくるなよ。てか、そもそもお前誰だ?」
「結人は私の弟ですが」
「うわ、オープンキャンパスにお姉ちゃんと一緒に来てるとかマジウケるんだけど。お前も小さい子供じゃないんだからそろそろ姉離れした方がいいと思うぞ」
チャラ男は俺に対して好き放題言い始めた。うん、普通に腹が立つな。そんな事を思っていると夏乃さんがとんでもない事を言い始める。
「あっ、ちなみに私達は義理の姉弟で将来は結婚する予定になってるので弟ですけど婚約者でもあるんですよね」
「「えっ!?」」
チャラ男と俺は同時に声をあげた。何だよその無茶苦茶な設定は。義理の姉の婚約者ってどこのアニメ主人公の話だよ。
「おい、マジなのか!?」
「ま、まあ一応そう言う話になってますけど」
とりあえず俺は夏乃さんに話を合わせた。さっきまでの馬鹿にしてくるような視線とは一転し、チャラ男は明らかに俺を羨ましそうな目で見つめている。いやいや、今のは夏乃さんが適当に考えた全部がでたらめの嘘だからな。
「くそっ、俺も美人な婚約者の義姉が欲しかった……」
一人で悔しがり始めるチャラ男だったがどこからともなく現れたオープンキャンパスのロゴが入ったスタッフと思わしき男性数人から取り囲まれる。あっという間に連行されていった事は言うまでもない。
「これで一件落着だね」
「とりあえずさっきのチャラい先輩はいなくなりましたけど義姉弟で婚約者っていうのは一体どういう事ですか?」
「やっぱりただの姉弟だけだとパンチが弱いかなと思ってさ、だから義姉弟で婚約者って設定も付け加えちゃった。それとまた敬語が出てるよ」
俺がやや興奮気味に尋ねたところ夏乃さんは平然とそう言い放った。やっぱりこういう場面になるとどうしても普段の敬語に戻ってしまうな。
「……てか、何で急にオープンキャンパスのスタッフが現れたんだ? 学内の巡回とかをしてるのは知ってるけど明らかにピンポイントでここに来た感じだったし」
「ああ、それならオープンキャンパスのスタッフをやってる上白石先輩に頼んで捕まえに来て貰ったんだよね。たまたま夏休みに用事があって学校に来たら学食で高校生が悪質な先輩に絡まれてるのを見つけたって感じのメッセージをLIMEで送ったから」
「あの人そんな事もやってたんだ……」
合コンの時に知り合った上白石先輩がオープンキャンパスのスタッフなんてやってるイメージは無かったのでちょっと意外だった。
偏見かもしれないが上白石先輩はオープンキャンパスのスタッフをやるくらいならクラブやバーで遊んでそうな気がするのだが。
「ちなみに歳下の男の子と仲良くなる事が目的でオープンキャンパスのスタッフになったらしいよ」
「……上白石先輩も要注意人物の一人として行動をマークしておいた方がいいんじゃないですか?」
「この間の合コンの時に結人に手を出さなかったんだからその辺は流石に大丈夫だと思うな」
かなり男慣れしてそうだった上白石先輩でも流石にオープンキャンパスに来た男子高校生に手は出さないか。そんな事を考えながら俺と夏乃さんは学食を後にした。
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