第67話 やっぱり夏乃さんは結人の事が好きなんですか……?
「じゃあお待ちかねのキャンパスツアーへ行こう、約束通り私がしっかり案内してあげるから」
「ああ、よろしく」
俺は夏乃さんと一緒に学内を周り始める。高校までとは比べ物にならないくらい敷地が広いため一周するだけでも時間がかかりそうだ。
「そこにあるピロティは新歓祭と学園祭シーズンの時に特設ステージを作るらしいよ」
「へー、結構本格的なんだな」
「うん、芸人さんとかをゲストとして呼んでパフォーマンスとかもやって貰うんだって」
前から俺を案内したいと何度も言っていただけあって夏乃さんはかなりノリノリだ。夏乃さんは俺の案内をするためにわざわざ変装までして参加しているのだから当然か。
「あっ、そこのコンビニは多目的ホール横にあるところよりもお菓子の種類が多いからこっちの方がおすすめだよ」
こんな感じで俺が早穂田大学に入学しなければ絶対役に立たないような情報まで教えてくれた。多分夏乃さんの中では俺が早穂田大学に入学する事はもう既に決定事項になっているに違いない。
今の成績だと死ぬ気で勉強しなければ合格が難しい事は言うまでもないが、夏乃さんと同じ大学に通いたいと思う気持ちもかなり強いため必死に頑張るしかないだろう。
そんな事を思いながら夏乃さんとしばらく学内を歩き回っていると前から見知った顔が歩いてきた。どうやら向こうも俺達の存在に気付いたらしい。
「お姉ちゃん!?」
「か、夏乃さん。そんな格好して一体どうしたんですか!?」
「……人違いじゃない?」
「いやいや、どこからどう見ても夏乃さんでしょ」
「そうだよ、お姉ちゃんじゃん」
兄貴は夏乃さんを見てそう声をあげた。やはり念入りな変装も凉乃や兄貴には通用しなかったらしい。てか、二人も早穂田大学のオープンキャンパスに来てたんだな。
夕食は家族四人でとる事も割と多いが俺も兄貴も自分の事はあまり話さないため、お互いに今日のオープンキャンパスに参加する事を知らなかったようだ。
「おい、結人。まさかお前が夏乃さんに強要したんじゃないだろうな?」
「実は結人からどうしてもセーラー服を着て黒髪ウィッグと眼鏡をつけて欲しいって土下座までして頼まれてさ、可哀想だったから仕方なく特別に着てあげたんだよね」
「結人君、そんな趣味あったの?」
「いやいや、さらっと凄まじい嘘をつかないでくださいよ……」
そんな言い方をされるとまるで俺が夏乃さんに制服プレイを頼む変態みたいではないか。俺の名誉を地の底まで落とそうとするのは辞めてくれませんかね。
「冗談はこれくらいにして、凉乃ちゃんと綾人も来てたんだ」
「はい、オープンキャンパスのレポート課題のために凉乃と一緒に参加したんですよ」
「私はお姉ちゃんや綾人君みたいに頭が良くないから早穂田大学に合格するのは絶対無理だと思うけど」
夏乃さんの問いかけを聞いた二人はそう答えた。多分兄貴が凉乃を今回のオープンキャンパスに誘ったのだろう。
「そうなんだ、あんまり凉乃ちゃんと綾人の邪魔をしても悪いし私達はそろそろ行くね」
「ちょっと待ってください、せっかくなので俺達と一緒に行きましょうよ」
「悪いけど私は結人と二人きりがいいんだよね」
兄貴からの誘いを夏乃さんは拒否した。すると兄貴はあからさまに悔しそうな表情を浮かべる。
「やっぱり夏乃さんは結人の事が好きなんですか……?」
「……そっか、流石に気付くよね。うん、そうだよ」
兄貴からの問いかけに対して夏乃さんは少し黙り込んだ後にはっきりとそう答えた。その言葉を聞いた瞬間、兄貴はまるでこの世の終わりのような顔になる。
俺はそんな兄貴の表情に見覚えがあった。そう、それは凉乃が自分ではなく兄貴の事を好きだと知ってしまったあの日の俺の顔にあまりにもそっくりだったのだ。
流石に何かフォローをした方が良いと思った俺は兄貴に何か声をかけようとするが夏乃さんから止められてしまう。
「綾人の事は一旦凉乃ちゃんに任せよう。今の私達が綾人に何か言っても多分逆効果にしかならないから」
そう言い終わった夏乃さんは俺の手を取り、そのまま二人をその場に残して離れ始めた。
「兄貴に本当の事を言って良かったんですか?」
「あれ以上誤魔化すのは無理だったから」
確かに兄貴は確信めいた口調で先程の言葉を口にしていたため取り繕う事は難しかったに違いない。遂に兄貴も俺達が四角関係になっている事に気付いてしまったようだ。
「これから家の中が凄い空気になりそうなんですけど」
「綾人が心を整理して落ち着くまでしばらく待つしかないね」
「いつまでかかるかな……」
ちなみに凉乃の好きな相手が兄貴と知ってしまった時の俺が落ち着くまでには確か一ヶ月近く掛かっていたはずだ。もし兄貴が俺と同じくらいの時間がかかるのであれば夏休み中だけでは解決しない可能性がある。
いつかはこうなる日が来るとは思っていたがまさか今日だとは思ってすらいなかった。夏休みの後半戦が今からとにかく心配で仕方が無い。
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