第65話 そんなに私と一緒に大学生活を過ごしたいのかな?
大学説明を聞き終わった後、今度は模擬授業を受けるために指定された教室へと移動し始める。どこに何があるか全く知らない俺だが在学生である夏乃さんが直々に案内をしてくれるため迷う心配は全くない。
「情報としては知ってたけど実際にキャンパス内を歩いてみるとやっぱり早穂田大学ってめちゃくちゃ広いな」
「うちは総合大学かつワンキャンパスだから広い敷地なのは当然だよ」
拠点が複数箇所に点在している大学も多い中、早穂田大学に関しては俺達が今いる新宿のここが唯一のキャンパスだ。
文系と理系の合計十二学部に所属する約一万八千人がここで過ごしており、学部や学年を超えて多種多様な交流を出来る事が早穂田大学の特徴だと先程の大学説明で語られていた。
「これだけ広いと授業とかのたびに移動するのがめちゃくちゃ大変そうな気しかしないんだけど」
「へー、結人はもう合格したつもりなんだ。そんなに私と一緒に大学生活を過ごしたいのかな?」
「いやいや、今のはあくまでここの学生になったらっていう仮定の話だって」
「とりあえずそういう事にしておいてあげるよ」
夏乃さんはニコニコしながらそう口にした。ちなみに早穂田大学は今の俺の偏差値を考えると受かるには相当努力が必要な挑戦校だ。
新城池高校は都内でもそこそこの進学校ではあるがそこで学年五位の俺でもD判定という事を考えると難易度は凄まじく高い。
そんな早穂田大学をAO入試や推薦入試ではなく一般入試で現役合格した夏乃さんは本当に凄いと思う。今年の三月に卒業した三年生、つまり夏乃さん達の学年もかなりの不合格者が出ていたらしいし。
しばらく夏乃さんと雑談しながらキャンパス内を歩き続け目的地に到着した。そこは高校までの四十人くらいしか入れない教室とは比べものにならないほど広く、百人以上は余裕で入れそうなくらいには広い。
「うーん、どこに座ろう……」
「授業を真面目に受けるなら前の方にある席がおすすめかな、後ろの方はうるさかったり寝てたりするような不真面目な人が割と多いし」
「えっ、そうなのか?」
早穂田大学に入れるほどの実力があるのだから皆んな真面目なのかと思っていたが夏乃さんの話を聞く限りは違うようだ。
「ちなみに平成大学とか西洋大学も似たような感じらしいよ」
「大学生になると急に不真面目になるって噂で聞いた事あったけど本当だったんだ……」
「……って、模擬授業に参加してるのは夏乃みたいなイレギュラーを除けば基本的には高校生なんだからそんな不真面目な奴はいないだろ」
「そっか、そう言えば今日は普通の授業じゃなくてオープンキャンパスの模擬授業だったっけ」
夏乃さんはとぼけているのか本当に忘れていたのかは知らないがそんな事を口にした。そんな話をしているうちに模擬授業の時間となる。政治経済学部の模擬授業をしばらく受ける俺達だったがその内容は結構本格的だった。
今回はミクロ経済学の内容だったわけだが微分積分や対数など数学知識が無ければ理解できないような内容のオンパレードだったのだ。
「高校で習わない偏微分とか全微分がミクロ経済学の授業で出てくるって知ったら数学が苦手で私立文系に逃げた奴とかは絶対泣くパターンじゃん」
「うん、実際にそれでミクロ経済学の単位を落とす学生もいるみたいだし」
「てか夏乃はさっきからよくスラスラ問題解けるよな、ひょっとして実は政治経済学部だったりする?」
本当は夏乃さんが外国語学部である事は知っていたが黒板に書かれていた練習問題を一瞬で解き終わった姿を見るととてもそうは思えなかった。
「ああ、実はミクロ経済学は今回の春学期に習ったばかりだから」
「なるほど、そういうカラクリがあったのか……」
どうやら夏乃さんはミクロ経済学を履修していたらしい。早穂田大学は他の学部の授業も取れるようになっていると先程の大学説明でも言っていたが夏乃さんはしっかり活用していたようだ。
それから模擬授業を終えた後、俺達は教室を出て学食へと向かい始める。早穂田大学は学内に複数の学食が存在しているためどこへ行くか迷ったが、最終的には夏乃さんおすすめの場所へと行く事にした。
「着いたよ」
「あれっ、あんまり人がいないんだけど」
オープンキャンパス中はどこの学食も混雑していると聞いていたため長時間並ぶ事も覚悟していたのだが思っていたよりもだいぶ少ない。
「ここはキャンパスマップを見ても少し場所が分かりにくいから他より人が少ないんだよね」
「へー、穴場的なスポットなのか」
「そうそう、だから私はよく来てるんだ。味も美味しいし安いから一番おすすめかな」
在学生でも分かりづらい場所にあるのだからオープンキャンパスで来ている一般人にはなおさらだろう。そのおかげで大した待ち時間も無く食券を購入する事が出来た。
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