第60話 あっ、その反応はちょっと傷付くんだけど

 迷子の夏海ちゃんを助けるというイベントもあったがイルカショーには何とか間に合う事ができた。始まる直前という事で観客席は多くの人で賑わっている様子だ。


「何とか間に合って良かった」


「うん、今回見れなかったらその次はだいぶ先だったし」


 もし間に合わなかった場合は時間を潰す必要があったわけだが既に水族館内は一通り見終わっていた。流石に売店を見るだけで時間を潰すのはきついため他の方法を考えなければならなかったに違いない。

 空いていた席に座って少しの間待っていると、イルカショーがスタートした。始まると同時にイルカ達は勢いよく水面から飛び出し、空中にぶら下がったボールを弾く。

 続いて係員が差し出した輪っかをジャンプでくぐり抜け、さらに水面に投げ込まれたフラフープを器用にクチバシで回す。


「水族館のイルカって相変わらずめちゃくちゃ器用だね」


「ですね、係員の人とも息がぴったりだから見ていて楽しいです」


 これなら子供達がイルカショーを見て大喜びする気持ちもよく分かる。まあ、今の俺は流石にあの頃とは違ってジュースをこぼすような事はしないが。


「ちなみにイルカ達がやっている芸って一つ以外は自然に身に付いた動作らしいよ」


「えっ、そうなんですか?」


「うん、ちょうど今やってる尾びれで立ち上がってバックする動作は訓練しないとできるようにはならないんだって」


「なるほど、確かに自然界ではあんな動作必要ないもんな」


 夏乃さんからそんな雑学を聞いて俺は納得した。外見こそは今どきギャルな夏乃さんだが昔と変わらず本当に物知りだ。

 やはり新城池高校在学中にトップの成績を取り続けて早穂田大学に現役合格するだけの事はある。そんな事を考えながら二人でイルカショーを見ているうちにあっという間に二十分が経過した。

 楽しい時間はあっという間に過ぎるとは言うがまさにその通りだ。人を乗せたまま泳いだり飛び跳ねて空中で回転したりと、イルカ達のパフォーマンスは最後まで会場内の観客達を沸かせ続けた。


「やっぱりイルカショーは最高だったね」


「何歳になっても興奮できるって凄いと思います」


「今回はジュースをこぼさなかったから安心したよ」


「だからそこは大丈夫って何度も言ったじゃないですか」


 夏乃さんは一体どれだけ心配してたんだよ。そんな事を思っていると夏乃さんはニヤニヤし始める。


「実はエロ漫画みたいな展開になる事をちょっとだけ期待してたんじゃない?」


「俺のHPはとっくにゼロなのでそのネタは辞めてください」


「えー、どうしようかな」


 間違いなくこれからもエロ漫画ネタで俺をからかってくるに違いない。偽装を重ねて厳重に隠していたはずなのに何でバレたんだよ。

 それから俺達は水族館の出口の近くにある売店へとやって来た。お菓子やぬいぐるみ、キーホルダーなど様々な種類のお土産が売られているが、やはり水族館という事もあって魚をモチーフにした物が中心だ。


「ねえ、結人。似合ってる?」


 しばらく売店内を適当にうろうろと歩き回っていると突然後ろから話しかけられる。振り向くとそこにはペンギンの被り物を頭に装着した夏乃さんの姿があった。


「……うーん」


「あっ、その反応はちょっと傷付くんだけど」


「いや、別に悪いってわけではないんですよ。でも夏乃さんにはなんかあまりしっくりこないって言うか……」


「むー、それって遠回しに似合ってないって言ってる事と同じじゃん」


 少し不満そうな表情を浮かべて迫ってくる夏乃さんに俺は慌てて言い訳を開始するが簡単に納得してくれそうな気配はない。

 夏乃さんは可愛い系ではなくクールで綺麗系な顔をしているためとにかく違和感が凄まじかったのだ。ひとまずそれを説明したところ少しだけ機嫌を直してはくれだがまだ完全ではなかったらしい。


「お姉ちゃんを虐めた罰として結人にも被って貰おうかな」


「あっ、ちょっと」


 夏乃さんは強引にペンギンの被り物を被せてきた。すると夏乃さんは少しの間黙り込んだ後思いっきり笑い始める。


「うん、めちゃくちゃ似合ってる。せっかくだし私が買ってあげるから今日は今からこれを着けて過ごしなよ」


「いやいや、絶対似合ってるわけないでしょ」


 どう考えてもきつい絵面になっているに違いない。可愛い女の子ならともかく俺みたいな男子高校生がこんなものを被って歩いていたらあまりにも痛過ぎる。新手の精神攻撃系の拷問としか思えない。


「じゃあこれは購入決定で」


「マジで買うんですか!?」


「流石に結人に今日一日被らせるのは冗談だけど今後何かに使えるかもしれないしね」


「……使う場面が全く想像できないんですが」


 まあ、夏乃さんのお金で買うつもりのようなのでこれ以上文句を言うつもりはないが。


「よし、次はどれにしようかな」


「えっ、まだ被る気なんです?」


「せっかくならフルコンプしたくない?」


 夏乃さんが指差した棚にはイルカやクラゲなど様々な種類の被り物が置いてあった。全部被っていたらめちゃくちゃ時間がかかりそうだ。結局夏乃さんの気が済むまで付き合わされた事は言うまでもない。


———————————————————


夏乃のイラストは絵師様の仕事が非常に早くもう9割ほど完成しているようなので数日以内には公開できると思います!


ちなみにラフの時点でハイクオリティだったので皆様期待して頂いて大丈夫です〜

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