第61話 結人が似合うって言ってくれたんだから何も迷う必要なんてないでしょ

「よし、次はショッピングをしようか」


「そうですね、せっかくシャイニングサンまで来たので色々見ましょう」


 シャイニングサンシティ内にある専門店街イルパはかなり広く品揃えも豊富なためショッピングには持ってこいな場所だ。


「とりあえず服を色々と見たいから付き合ってくれない?」


「一応確認ですけど服に水着は含まれませんよね……?」


 以前夏服を買うと言った夏乃さんに何も考えずホイホイついて行った結果、女性用水着売り場へ連れて行かれた事があったので油断できない。


「結人がどうしてもって言うなら水着も服に含めてあげても良いけど?」


「含めなくて大丈夫です」


「むー、遠慮しなくても良いのに」


「いやいや、一ミクロンも遠慮なんてしてませんから」


 俺の言葉を聞いた夏乃さんは少しつまらなさそうな表情を浮かべたがまたあれに付き合わされるのはちょっと勘弁して欲しかった。あの時は周りからの視線が凄まじかったため軽くトラウマだ。

 そんな事を思い出しつつ俺は夏乃さんと一緒にアパレルショップを回り始める。夏が近いという事で夏服を大々的に売り出しており、店内はどこもかなり賑わっていた。


「やっぱり夏乃さんはワンピースを着てもめちゃくちゃ似合いますね」


「結人が急に私を褒めるなんて珍しい……あっ、まさか没収したエロ漫画を返して欲しくて媚を売ってたりする? 残念ながら永久に返す予定はないけど」


「いやいや、いくらなんでも拡大解釈し過ぎですって」


 青いワンピースを試着している姿を見て似合っていると思ったからそう言っただけだというのに媚を売っている認定はあまりにも悲し過ぎるだろ。そもそもエロ漫画の奪還はもう既に諦めているし。


「まあでも、結人がせっかくそこまで言ってくれたんだからこれを買う事にするよ」


「他の色とかデザインのワンピースも試着してたと思いますけどもう少し考えなくて良いんですか?」


「結人が似合うって言ってくれたんだから何も迷う必要なんてないでしょ」


 夏乃さんはにっこりと微笑んでそう言い残すとレジに向かう。その姿を見た瞬間俺は急激に顔が熱くなるのを感じた。こんなにも夏乃さんから愛されて俺は本当に幸せ者だ。

 そう思いつつ今は夏乃さんからされた告白の返事を保留している状態のため少し罪悪感もある。いい加減返事をしなければとは思っているが凉乃に対する気持ちもあって未だに答えは出せていなかった。

 だがいつまでも保留のまま先延ばしにするというのはあまりにも不誠実過ぎる。そろそろ自分の中で結論を出さなければならない。

 ちょっと前から感じ始めている凉乃への気持ちに対する違和感も全て含めて向き合う必要があるだろう。遅くとも夏休みが終わるまでには告白の返事をするつもりだ。

 俺が一人でシリアスモードに入ってそんな事を考えていると会計を済ませたらしい夏乃さんが紙袋を手に戻ってきた。


「お待たせ、じゃあ次は結人の服を見に行こう」


「俺の服は十分足りてるので別に新しく買う必要ないですけど」


「せっかくだから結人を私好みの格好にコーディネートしたくてさ、って訳でしばらく着せ替え人形になって貰うよ」


「分かったのであんまり引っ張らないでください」


 夏乃さんは手を取るとそのまま俺を引きずるように歩き始める。これは夏乃さんの気が済むまで付き合わされるパターンだ。

 以前合コン参加のために夏乃さんと真夜さんが服を選んでくれた時もそうだったから間違いない。それから俺は夏乃さんに連れられてアパレルショップをあちこち見ながら着せ替え人形にされ始める。


「うん、やっぱり白いサマーニットのトップスと黒いスキニーパンツの組み合わせは清潔感もあって良い感じだね」


「サマーニットもスキニーもあまり着ないのでちょっと新鮮です」


 普段は無地の黒いTシャツとデニムのストレートパンツという組み合わせがほとんどでファッションには全くこだわっていない。

 だから夏乃さんからコーディネートされてお洒落な人間になった気分だ。トップスとパンツを選んだ後、ネックレスを見始める。


「ネックレスって必要ですか? 別に無くても良い気はするんですけど」


「夏はシンプルなアクセサリーを一つさりげなくつけておいた方が私的にはお洒落だと思うんだよね」


 抵抗のある俺だったが夏乃さん的にはつけて欲しいらしい。ネックレスはチャラ男しかつけないイメージがあるためあまり気乗りはしないが夏乃さんの望みを叶える事にしよう。


「……ひとまずつけてみましたけど見た目はどうです?」


「おー、めちゃくちゃ良い感じだね。首元にネックレスがあるのと無いのじゃ少し印象が違うよ」


「本当ですか、俺を騙そうとしてませんよね?」


「結人を騙すメリットなんて無いから」


 シンプルなデザインのプレートネックレスをつけた俺の姿を見た夏乃さんは大絶賛だった。これで満足してくれるかなと思いきや夏乃さんは次から次へとネックレスを渡してくる。

 恥ずかしいからこれ以上つけたくないと言う俺の声は無視され、夏乃さんの気が済むまでネックレスの試着をさせられた事は言うまでもない。

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