第59話 あっ、もしかして結人はもう既に私と結婚する気満々だったりする?

「じゃあ夏海ちゃんの両親を探しますか?」


「それだと時間がかかり過ぎるからもっと効率の良い方法を取ろう」


「もっと効率の良い方法?」


 こういうシチュエーションになった時は地道に歩き回って探すイメージがあったのだがどうやら夏乃さんには別の案があるらしい。


「うん、闇雲に歩き回るより受付に連れて行って館内放送をして貰った方が早くて確実でしょ」


「なるほど、確かにそうですね」


 多分夏海ちゃんの両親も血相を変えて探し回っているはずなので下手したらすれ違いになってしまう可能性が高い。

 それなら初めから受付に連れて行って館内放送をして貰った方が手っ取り早いだろう。俺達は夏乃さんの案を採用して早速受付に向かい始める。


「夏海ちゃんは幼稚園に通ってるのか?」


「ううん、小学一年生だよ」


「あっ、そうだったんだ」


「へー、夏海ちゃんって小学生なんだね」


 てっきり俺は幼稚園児だと思っていたので予想が外れてしまった。まあ、このくらいの年齢は本当に見分けがつかないため正確に当てるのは難しいに違いない。

 しばらくこんな感じで俺達は夏海ちゃんに話しかけていったわけだが、固かった表情が徐々に柔らかくなっていった。

 恐らく俺達に対する警戒心が解けていったのだろう。その証拠に最初は俺が話しかけても黙ったままだった夏海ちゃんが普通に話してくれるようにまでなっている。

 少しして受付に到着した俺達は事情を説明して館内放送をかけて貰った。一応これで俺達のミッションは無事に達成だが夏海ちゃんを一人で受付に残すのは可哀想だったため迎えがくるまで引き続き一緒にいてあげる事にする。


「そう言えば夏海ちゃんは夏乃さん、このお姉ちゃんの事は怖くない?」


「むー、それってどういう意味?」


 俺が夏海ちゃんにそんな事を尋ねてみたところ夏乃さんは少し膨れっ面になった。今どきギャル姿は小さい子からしたら普通に怖い気がするけど。


「お姉ちゃんはお母さんに似てるからあんまり怖くないかな」


「えっ、そうなの?」


「うん、お母さんと髪の長さとか色が一緒だから」


 清楚そうな見た目をしている夏海ちゃんだがもしかしてお母さんはギャル系なのだろうか。そんな事を思っていると受付に息を切らした様子の男女が走ってやってくる。


「夏海ちゃん」


「良かった、心配したんだからね」


「あっ、お父さんとお母さん」


 どうやら館内放送を聞いて夏海ちゃんのお父さんとお母さんが駆け付けてきたらしい。夏海ちゃんの両親は大体二十代後半くらいに見える。

 お父さんの方はどこにでもいそうなお兄さんという感じだったがお母さんは夏乃さんと同じような今どきギャル風の外見だった。無事に再開出来て喜ぶ三人だったがすぐに俺達の存在に気付いて両親が頭を下げてくる。


「夏海ちゃんを助けて頂き本当にありがとうございました」


「なんとお礼を言えばいいのか」


「いえいえ、俺達は当たり前の事をしただけなので」


「そうですよ、頭を上げてください」


 別に何か見返りが欲しくて夏海ちゃんを助けたわけではない。俺と夏乃さんは困った時はお互い様という助け合いの精神で行動しただけだ。

 だが夏海ちゃんの両親は何かお礼をしなければ気が済まないタイプだったようで結局シャイニングサンシティにあるプラネタリウムのチケットを貰う事になった。


「もう迷子にならないようにな」


「うん、お姉ちゃんとお兄ちゃんありがとう」


「またね」


 夏海ちゃんは両親に連れられて俺達の前から去っていく。


「夏海ちゃんのお父さんとお母さんってちょっと私達に似てなかった?」


「確かにお母さんの方は夏乃さんに似てましたけどお父さんは俺とはあまり似てなかった気がしますよ」


「外見ってよりかは一緒にいた時の雰囲気とかの話かな。ほら、お父さんの方が明らかに尻に敷かれ気味だったところとか似てなかった?」


「あー、確かに」


 夏海ちゃんのお父さんは間違いなくお母さんの尻に敷かれているタイプだ。なるほど、そう言われれば確かに似ているかもしれない。


「私達も将来結婚したらあんな感じの夫婦になるのかな?」


「どうでしょうね、その辺りは夫婦によって違う気がしますけど」


 俺がそう答えると夏乃さんはニヤニヤした表情を浮かべる。


「結婚って言葉を聞いても全然過剰に反応しなくなっちゃったね、前ならもっと激しく慌てふためいていた気がするけど。あっ、もしかして結人はもう既に私と結婚する気満々だったりする?」


「いやいや、そもそも俺達付き合ってないでしょ」


「その言い方的に私と付き合ったらちゃんと結婚までしてくれるって認識で大丈夫?」


「い、今のはあくまで言葉の綾ですから」


 完全に夏乃さんのペースに乗せられてしまった俺は完全にたじたじになっていた。やはり俺はどうあがいても夏乃さんには敵わないらしい。

 でも嫌な気分は全くしなかった。むしろ夏乃さんとの将来を割と真面目に考え始めている自分すらいる。今まで凉乃にすら抱いていなかった感情を俺は夏乃さんに抱き始めていた。

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