第52話 凉乃ちゃんと綾人には悪いけど私達が勝つから
順番待ちの列に並んでから数分が経過し、俺達の番が回ってきた。屋台の広さ的に四人同時は難しいためまずは俺と凉乃から挑戦する事にする。
「結人頑張って」
「凉乃、結人なんかに負けるな」
凉乃と兄貴の声を聞きながら俺と凉乃はこよりを手に持って屋台の前に立つ。凉乃には悪いがこれは勝負のため手加減する気は一切無い。
凉乃と同時にこよりの先に付いた針を水槽の中に入れる俺だったが体に力が入り過ぎていたせいで手元が狂ってしまう。なんと針だけでは無く紙の部分までガッツリ水に浸けてしまったのだ。
「うわっ、マジかよ……」
「あらら、いきなり結人がやらかすなんて珍しいじゃん」
紙の部分を濡らしてしまうとこよりがヨーヨーの重さに耐えきれなくなってこよりがちぎれやすくなるため著しく不利になってしまう。
案の定一つもヨーヨーを釣り上げられないままこよりがちぎれてしまった。すると兄貴はニヤニヤとした表情を浮かべながら俺を煽ってくる。
「誰かとは違って凉乃は釣れてるし、これはもう俺達の勝ちだろ」
ぶん殴りたくなるような笑顔を浮かべている兄貴に少しイラッとさせられる俺だったが、何か言っても負け犬の遠吠えにしかならないためここは我慢だ。
ちなみに凉乃は順調に釣り上げていたが三つ目のヨーヨーを取ろうとしたタイミングでこよりがちぎれたため二つという結果に終わった。
「今度は俺と夏乃さんの番ですね、ここは勝たせてもらいますよ」
「凉乃ちゃんと綾人には悪いけど私達が勝つから」
兄貴も夏乃さんも自信満々な様子だ。それから二人はヨーヨーを釣り始める。さっきから色々と大口を叩いていただけあって兄貴は俺のようにミスするような事もなくすんなりと一つ目を釣り上げていた。
それに対して夏乃さんも難なく一つ目を釣り上げておりすぐさま二つ目に手を伸ばしている。今の所は互角と言ったところだろう。
そのまま釣り続ける二人だったが兄貴の集中力が先に途切れたらしく紙の部分を水に濡らしてしまいこよりがちぎれる。
「……くそっ、ミスった」
「でも四個も釣れたんだから凄いよ」
凉乃は相変わらずいつものテンションでニコニコしていた。その間も夏乃さんは止まる事なくヨーヨーを釣り続けている。やはり夏乃さんの方が兄貴よりも一枚上手らしい。
「これで七つ目だから私達の勝ちだね」
「……強過ぎでしょ」
「お姉ちゃん凄い」
凉乃と兄貴の釣り上げた合計が六つのため夏乃さんは一人で勝ってしまった。今回はチーム戦だったため一応俺も勝った側にはなるが、貢献するどころか足しか引っ張っていないため素直に喜べない。
「じゃあ凉乃ちゃんと綾人には私と結人に約束通り何か奢って貰おうか」
「分かりました、結人にも奢るのはちょっと腑に落ちませんが一応約束は約束なので」
俺達はひとまずヨーヨー釣りの屋台を離れ始める。ちなみに釣れた個数に関係なくヨーヨーは一つしか貰えないシステムになっていた。
まあ、何個もヨーヨーを持って会場内を歩き回るのは正直邪魔でしかないため別に文句は無い。前を歩く夏乃さんと兄貴の後ろについて行っていると隣にいた凉乃が何か気になるものを見つけたようで突然立ち止まる。
「ねえ、結人君。そこの屋台のたこ焼き美味しそうじゃない?」
「確かに匂いの時点でもう既に美味しそう」
「やっぱりそう思うよね、匂いのせいか無性にたこ焼きが食べたくなってきちゃってさ」
俺と凉乃はしばらく立ち止まってたこ焼きの屋台を見つめていた。凉乃の言葉を聞いたせいか俺もだんだん食べたくなってきてしまう。
「皆んなでシェアしてたこ焼きを食べるのはどうだ?」
「あっ、それいいね」
意見がまとまったところで夏乃さんと兄貴にも確認しようする俺だったがそこでようやく二人の姿が見えなくなっている事に気付く。どうやら俺と凉乃は置いて行かれたらしい。
「……俺達が立ち止まってる事に気付かないまま夏乃さんと兄貴は先に行ったみたいだな」
「ここら辺は一方通行になってるからかなり回り道をしないと戻ってこれないね」
「向こうの状況も分からないし、一旦夏乃さんに電話を掛けてみる。ちょっと待っててくれ」
「うん、ありがとう」
俺はポケットからスマホを取り出して夏乃さんに電話を掛け始める。かなり賑やかでうるさいためもしかしたら着信に気付かないかもしれない。そう思っていたが夏乃さんはワンコールで出てくれた。
「もしかして結人?」
「はい、結人です」
「急にいなくなったから心配したよ、凉乃ちゃんとは一緒?」
夏乃さんが心配そうなテンションの声をしていたため俺は安心させるためにすぐさま答える。
「凉乃は俺と一緒にいます」
「良かった、私と綾人も一緒だからそこは安心して」
「とりあえず夏乃さん達と合流したいんですけど、どうしましょう?」
これだけ混雑している事を考えると追いかけて合流しようとするのはかなり大変だ。
「じゃあ大会本部のテント前付近で待ち合わせにしない? あそこなら目印になると思うし」
「分かりました、今から凉乃と一緒に向かいます」
「よろしく」
「ではまた後で」
俺はそう言い残して夏乃さんとの通話を終了させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます