第47話 大好きな結人になら裸を隅々まで見られても別に恥ずかしくないもん
「流れるプールはもう十分過ぎるくらい堪能したし、そろそろウォータースライダーに行かない?」
「実は俺もちょうど行きたいと思ってました、それでどっちから行きます?」
東京サマーヒルズのウォータースライダーは長いものと短いものの二種類がある。長い方は下まで滑り降りるまで時間がそこそこかかるため順番待ちも結構長い。
「じゃあ最初は短い方から行こうか、順番待ちせずにすぐ滑れそうだから」
「分かりました、そっちから行きましょう」
俺と夏乃さんはプールサイドに上がってレンタルしていた二人用の浮き輪を返却し、短いウォータースライダーに向かう。
短い方は下までの距離が短い上にスライダーが二つ設置されているため回転率も圧倒的に良い。だから特に順番待ちをする必要はなさそうだ。
「滑る時に寝転ぶと結構スピードが出るらしいですけど夏乃さんはどうします?」
「もちろん寝転んで滑るに決まってるじゃん」
「ですよね、夏乃さんなら間違いなくそう言うと思ってました」
日頃からバイクの後ろに乗っているためよく分かるが夏乃さんはスピードを出す事が結構好きだ。容赦なくスピードを出すため恐怖を感じる事もたまにあったりする。
そんな事を考えているうちに短いウォータースライダーの前へと到着した俺達は係員の指示でスタンバイした。そして夏乃さんと同時に滑り始める。
寝転んでいたためあっという間に下へと到着した。ほぼ同時に夏乃さんも着水したわけだが俺はとんでもない事に気付く。
なんと夏乃さんのリボンビキニのトップスが外れて胸が丸見えになっていたのだ。恐らく着水した時の衝撃で紐が緩んで外れてしまったのだろう。
「思った以上にスピード速かったね」
「何呑気な事言ってるんですか、今のままだと色々まずいのですぐに胸を隠してください」
「……えっ?」
俺の言葉を聞いて一瞬きょとんとする夏乃さんだったがすぐに自分の状況を理解したらしい。両手で胸を隠しながら顔を真っ赤にして悲鳴をあげる。
「きゃああああ!」
普段冷静な夏乃さんが珍しく取り乱していた。俺は大急ぎで外れたビキニのトップスを探し始める。不幸中の幸いで色が黒かったおかげでかなり目立っていたためすぐに見つける事ができた。
そのまま俺は夏乃さんの後ろに回り込んで素早くビキニを装着し直す。それから俺達はひとまずプールサイドに上がる。
「……ありがとう、結人のおかげで助かったよ」
「夏乃さんが最初全然気付いてなかったから俺の方が焦りました」
「更衣室で着替えた時に紐はしっかり結んでたと思ったんだけど」
そうつぶやいた夏乃さんの顔はまだ少しだけほんのりと赤かった。恐らくさっきの事がよほど恥ずかしかったのだろう。
「でもちょっと意外でした」
「えっ、何が?」
「ビキニが外れたくらいで夏乃さんがあそこまで慌てふためくとは正直思っていなかったので」
てっきり夏乃さんの事だから特に動揺などはせず冷静に対処をすると思っていた。ちょっとだけギャップ萌えを感じた事は内緒だ。
「いやいや、私も年頃の女の子なんだから普通に考えて取り乱すに決まってるでしょ」
「でも俺の前では特に抵抗もなさそうな感じで服とか脱いでましたよね?」
実際に夏乃さんは箱根旅行で家族風呂に入った際、俺の目の前で何の躊躇いも全裸になっていた事はいまだに忘れられない。なんなら俺に体を洗えと無茶な要求までしていたわけだし。すると夏乃さんは呆れたような顔になる。
「不特定多数から見られるのは無理に決まってるじゃん」
「その言い方だと俺に対しては問題ないと思ってるようにも聞こえますけど」
ついつい揶揄うような口調でそう話かける俺だったが夏乃さんから予想外の反撃を受ける。
「大好きな結人になら裸を隅々まで見られても別に恥ずかしくないもん」
「……その言葉は流石に卑怯ですって」
突然の不意打ちの言葉のせいで俺の心臓は痛いほどに鼓動をしていた。俺への好意を一切隠さなくなった夏乃さんの勢いは本当に凄まじい。
「私を選んでくれたらこの体は結人の好きなように出来るよ、結人が普段妄想してるあんな事やこんな事も全部思いのままだから」
「別に妄想なんてしてないです……」
「えー、本当かな?」
「ほ、本当ですよ」
嘘だ、本当は夏乃さんとエッチな事をする妄想は幾度となくしている。そのためラブホテルに泊まったあの日に手を出さなかった事を後悔する自分も心のどこかにいるくらいだ。やはり俺も健全な男子高校生という事なのだろう。
「……てか、さっきまでのあの恥じらいは一体どこへ消えたんですか?」
「アンドロメダ銀河の向こうまで飛んでいっちゃった」
「地球から二百五十万光年も先じゃないですか」
夏乃さんの意味不明な返答を聞いて俺は思わずそうツッコミを入れた。ちなみにアンドロメダ銀河は肉眼で見える最も遠い天体だったりする。
変なボケをかませるような余裕が出てきた事を考えると夏乃さんはひとまず普段の落ち着きを取り戻したのだろう。
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