第41話 今の私達ってカップルとか夫婦に見えるかな?
ムラムラした気持ちを必死に理性で抑えながら一人で悶々としているうちにいつの間にか俺は眠っていたようだ。スマホで時間を確認すると現在の時刻は朝の八時過ぎだった。
「……とりあえず目覚ましと寝癖直しがてらシャワーでも浴びるか」
俺は眠っている夏乃さんを起こさないよう静かにベッドから立ち上がると浴室に向かう。そしてパジャマ代わりに着ていたバスローブと下着を脱ぎ捨てて浴室へと入る。
シャワーヘッドの先から出るお湯はちょうど心地の良い温度だったため頭から浴びていて非常に気持ちが良かった。
「帰ったらとりあえず寝よう」
完全に寝不足なため家に帰ってもすぐに何かをするような元気は今の俺には無い。どうせ今日は土曜日なわけだし帰ったら昼過ぎくらいまで寝る事にしよう。テスト勉強をするのはそれからでも別に問題ないはずだ。
「俺もよく耐えたと思うよマジで……」
同じベッドで一緒に寝ていながら俺は夏乃さんに何もしなかった。昨晩の夜這いするならコンドームをつけて欲しいという言葉は恐らく避妊さえしてくれれば手を出されても構わないという意味だったのだと思う。
自分の事を好きな女の子がオッケーと言っているのだから俺と同じシチュエーションになった場合は一線を超えるという選択肢を選ぶ人もそれなりいるに違いない。
だが俺は欲望を必死に押し殺して我慢した。なぜならエッチはちゃんと付き合ってからするものだと思ったからだ。
今の俺のように凉乃と夏乃さんの二人を意識している状態で欲望に流されて片方と関係を持つ事はあまりにも不誠実だろう。
だから俺は付き合うまで絶対に性行為をするつもりはない。そんな事を考えていると目を覚ましたらしい夏乃さんがベッドから起き上がる姿が目に入ってきた。
相変わらずガラス張りでスケスケなため浴室から部屋の中が丸見えだ。夏乃さんは眠そうに目をこすりながら手を振ってくる。
「あんまりこっちを見ないで欲しいんだけど」
寝起きの男子特有の現象によって下半身がかなり元気になっているためまじまじと見られる事はちょっと恥ずかしい。
少しして浴室を出た俺はドライヤーで髪を乾かし始める。アメニティとしてヘアワックスも用意はされていたがこの後は家に帰ってすぐに寝るつもりなので髪のセットをするつもりはない。
「フロントに電話して朝食を頼んでおいたよ」
「ありがとうございます」
どうやら俺が髪を乾かしていた間に頼んでいてくれたようだ。
「準備できたら入り口横にある小窓から中に入れてくれるんだって」
「へー、やっぱり普通のホテルとは違うんだ」
「まあ、顔を見られたくない人もいるだろうしね」
確かにここは一応そういう行為をするためのカップルや夫婦が利用するための施設なのでその辺の配慮はしっかりしているのだろう。
ひとまず朝食が部屋に来るまで朝のニュースでも見ようと思いテレビのリモコンに手を伸ばす俺だったがすぐに後悔する事となる。
「えっ!?」
「マジかよ!?」
なんとテレビがついた瞬間大音量で部屋中に喘ぎ声が流れ始めたのだ。どうやらラブホテルのテレビはAVが見れる設定になっているらしい。
慌ててテレビの電源を切る俺だったがせっかく収まっていた下半身が今の不意打ちによって再び元気になってしまったため本当に勘弁して欲しかった。
「……ねえ結人、もしかして今のってわざと?」
「いやいや、そんなわけないでしょ」
確かに赤面する夏乃さんは正直めちゃくちゃ可愛かったが女の子にAVを見せつけて喜ぶような特殊性癖なんて俺は持ち合わせていない。
そもそもラブホテルに来るのは言うまでもなく今回が初めてなためテレビにこんなトラップが仕掛けられている事すら俺は知らなかったのだ。
何とも言えない空気が俺と夏乃さんの間に漂い始めるが、部屋に届いた朝食を食べているうちにいつも通りのテンションに戻った。それから夏乃さんの朝の準備が整ったところで俺達はチェックアウトして部屋の外に出る。
精算しなければ部屋の外には出られない仕組みになっていると聞いた時は財布の中身が少なくて焦ったわけだが夏乃さんの手持ちだけで問題なく足りたため安心した。
「今の私達ってカップルとか夫婦に見えるかな?」
「二人でラブホテルにいるって事を考えると周りからはそのどちらかだと思われてそうですよね」
「へー、否定しないんだ。結人の事だからてっきりいつもみたいに違うって言うのかと思ってたけど」
ニヤニヤした表情の夏乃さんがそう口にした様子を見て恥ずかしくなってしまった俺は慌てて言い訳をする。
「い、いや俺はあくまで一般論の話しをしてるだけですから」
「はいはい、そういう事にしておいてあげるよ」
寝不足で頭があまり働いていないせいで俺は墓穴を掘ってしまったようだ。しばらくはこの事をネタに夏乃さんから揶揄われそうな気しかしない。
まあでも別に嫌な気はしないしそれはそれでいいか。そんな事を思いながら俺達はラブホテルを後にするのだった。
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