第42話 そうなったら多分二人が付き合い続けるのは恐らく難しいと思う
「私はここまでで大丈夫」
「分かりました、また会いましょう」
「うん、結人を気をつけて帰ってね」
ラブホテルを出て二人で歩き続けて家の近くまで帰ってきた私は惜しみつつも結人と別れる。現在は明るい時間で変質者から襲われるような心配もないため家までは送って貰わなかった。
本当は家まで送って貰いたい気持ちも少しはあったが寝不足気味でふらふらの結人にそこまでさせるのは流石に申し訳なかったため今回は我慢した形だ。
「昨晩から本当に色々な事があったな」
遠隔監視アプリのGPSでなんとなく結人の位置情報を確認してみたところ合コン会場の近くの本屋にいる事が分かったため思いっきり絡みにいった。
凄まじい偶然だが結人が会場近くにいた事は本当にたまたまだったのでもしかしたら私達は運命の赤い糸か何かで繋がっているのかもしれない。
ただし結人が合コンに参加する事に対してはかなり複雑だった。結人に私以外の悪い虫が付いて欲しくなかったのだ。実際に上白石先輩は年下好きを公言してあからさまに狙っていたため途中かなり不機嫌になったりもした。
まあ、上白石先輩に関しては実は結人が現役の高校生であるとバラした事が功を奏して何とか撃退する事には成功したが。
「でも事故とは言え結人の本音が色々と聞けたのは良かった」
間違えて烏龍ハイを飲んで盛大に酔っ払った結人は激しく暴走しながら普段口には出さないような事までペラペラと話してくれたのだ。
その中には私に対する今の気持ちも含まれており、凉乃ちゃんと同じくらい意識してくれている事が分かった。そういう意味では今回の合コン参加は非常に有意義だったと言えるだろう。
ちなみに酔った時の記憶は一切残っていないようなので私の前で凄まじい暴露を次々にしてしまった事は何も覚えていない様子だった。
結人の性格的に覚えていたとしたら目覚めた時に私の顔をまともに見れなかったはずだ。全く意識されていない状態からここまで持ってくる事が出来たのだからあの時思い切って気持ちを伝えて正解だった。
あそこで行動してなければ何も変わっていなかったに違いない。そんな事を考えながら数分ほど歩き続けて家へと到着する。
カバンから鍵を取り出して扉を開けて家の中に入ると玄関にはトートバッグを肩に掛けた凉乃ちゃんが立っていた。
「あっ、お姉ちゃんおかえり」
「ただいま凉乃ちゃん」
凉乃ちゃんが外行きの格好をしている事を考えるとこれからどこかへと出かけるのかもしれない。テスト期間中に遊びにいく事は考えにくいため友達との勉強会辺りだろうか。
「それで昨日はどうだったの?」
「うーん、そこそこ楽しめたってところかな」
合コン自体は正直あまり楽しかったとは言い難かったが結人と過ごした時間に関しては色々とハプニングはあったものの楽しかった。
「合コンに行って朝帰りしたって事はもしかしてもしかしたりする……?」
「残念ながら凉乃ちゃんが想像してるような事は何も無かったよ」
「あっ、そうなんだ。泊まるって連絡が来たからてっきり今回の合コンでお姉ちゃんに彼氏でも出来たのかと思った」
「そもそも私には昔からずっと好きな人がいるから」
泊まりと聞いてどうやら凉乃ちゃんは私が昨晩大人の階段を登ったのかもしれないと思ったようだが別にそんな事はない。
私としては手を出されても良かったのだが結人は何もしてこなかった。それは少し残念だったが私の事をかなり意識し始めていると分かったため別に不満はない。
それに結人とそういう行為をするのは付き合ってからでも別に全然遅くはないだろう。楽しみは後に取っておく事にしよう。
「そう言えば凉乃ちゃんは今からどこかに行く予定なの?」
「そうそう、これから図書館に行って綾人君と一緒に期末テストの勉強をするんだ」
「そっか、凉乃ちゃんと綾人は相変わらず仲良くやってるんだね」
「全部お姉ちゃんが色々とサポートしてくれたおかげだよ、ありがとう」
凉乃ちゃんはニコニコとした表情で私に感謝の言葉を述べた。そんな凉乃ちゃんを見て私は罪悪感を覚えつつも口を開く。
「あんまり凉乃ちゃんを引き止めるのも悪いし私はそろそろ部屋に戻るよ、テスト勉強頑張ってね」
「うん、じゃあ行ってくる」
そう言って凉乃ちゃんは靴を履いて家から嬉しそうに出ていった。私は部屋に向かって歩きながら静かに謝罪の言葉を口にする。
「……ごめん凉乃ちゃん」
正直凉乃ちゃんと綾人の関係が進展して今後付き合う事になったとしてもはっきり言って上手くいくとは到底思えない。
学力や運動神経はハイスペックな綾人だが心の強さという面では明らかに結人よりも劣っている。綾人は他人よりも能力が高かった事が災いしてその辺りが本当に未熟なのだ。
凉乃ちゃんは昔から成績優秀でサッカーが上手いというプラスの側面に憧れて恋愛感情を抱いているが、付き合い始めたらメッキが剥がれてマイナスの側面に気付くに違いない。
「そうなったら多分二人が付き合い続けるのは恐らく難しいと思う」
私の場合は結人の負の面も全部知った上で好きだし、この前の映画館の時のように自分を大切にしないような行動を取れば叱る事だってする。だが凉乃ちゃんにはそんな事できないはずだ。
私はそうなる未来を容易に想像できていながら結人と自分が結ばれる未来のために裏から色々と手回しをして凉乃ちゃんと綾人の二人をくっつけようとしてしまった。
しかし恋は盲目状態となっている凉乃ちゃんに綾人の本性を理解させる事もいつかしなければならなかった事には違いない。
もし
だから凉乃ちゃんの目を覚まさせるためにも二人が付き合う事自体は止めない。可哀想だがそこまでしないと凉乃ちゃんが夢から覚める事はないと思う。
「何かあったら凉乃ちゃんのケアもしっかりとしてあげないとな」
私は自分ではなく凉乃ちゃんが結人の初恋の相手という理由だけで理不尽にも憎んでしまうような本当に酷い姉だ。
その償いをするためにも凉乃ちゃんには結人を譲る以外の事であれば何だってしよう。私は一人で心の中でそう決意をした。
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お読みいただき、ありがとうございました!
これにて第2章は終わりです〜
第3章からは夏休みの話しとなります〜
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