第40話 でも将来結人の隣にいるのは凉乃ちゃんじゃなくてこの私だから

「なるほど酔ってハイテンションになった俺が激しく暴れ回った挙句盛大に吐いて服がドロドロになったからラブホテルに連れ込んだというのが真相なんですね」


「そうそうここには仕方なく入っただけ」


 ようやく落ち着きを取り戻した俺は夏乃さんから事の経緯を聞いていた。それなら今の状態になっている事の辻褄も合うため納得できる。


「先輩達二人には悪い事をしてしまいましたね……」


「私的には紛らわしい位置に烏龍ハイを置いた上白石先輩も悪いと思うけどな」


「それはそうかもしれないですけど」


 俺が暴走をしてしまったせいで二次会を続けるどころでは無くなってしまったためとにかく罪悪感が半端なかった。

 特に理工学部の先輩は夏乃さんを合コンに参加させるためにあの手この手を使っていたようなので、こんな結果になってしまって本当に踏んだり蹴ったりに違いない。

 ちなみに俺をラブホテルに連れ込むという案は上白石さんが出したらしい。最初は酔って服が汚れてしまった俺を上白石さんがラブホテルに連れ込もうとしていたとか。

 だが俺が実は高校生という事を夏乃さんの口から暴露されて諦めたようだ。流石に年下好きの上白石さんでも高校生とラブホテルに入る度胸は無かったのだろう。


「てか、もし高校生の俺とラブホテルに入った事がバレたら夏乃さんはどう言い訳するつもりなんですか?」


「その時は結婚を前提にした真剣交際をしてるって言おうと思ってる、それなら淫行で捕まらないって聞いた事あるし」


「……万が一そんな発言をしたら本当に俺と結婚するしかなくなりそうですが」


「私は全然結婚してもいいけど」


 俺のつぶやきを聞いた夏乃さんはにっこりとした笑顔でそう口にした。いやいや、人生最大級のイベントと言っても過言ではない結婚の相手をそんな軽いノリで決めてもいいのだろうか。


「もしかして結人は嫌だった……?」


「そ、それは」


 最近では夏乃さんの事もかなり気になり始めているため嫌な気持ちは全く無い。しかし高校二年生で結婚を決断できるような勇気を持ち合わせていなかった。

 恐らく十年後くらいの俺なら答えを出せたかもしれないが十七歳の今の俺にはあまりにも重過ぎる内容だ。


「まあ、今結婚してって迫っても答えられないのは全然仕方ない事だと思うから別にいいよ。でも将来結人の隣にいるのは凉乃ちゃんじゃなくてこの私だから」


 夏乃さんは俺に向かってウィンクしながらそう話した。ここまで俺の事を本気で好きになってくれた相手は夏乃さんが始めてだ。

 今の言葉を聞いて俺は激しくドキドキさせられた。凉乃に匹敵するくらい夏乃さんの事を意識し始めている。告白されて意識するようになっただけでは飽き足らず好きになり始めている俺は本当に単純な人間だ。


「って事でこの話はそろそろ終わりにしよう、とりあえず一旦お風呂に入ったら? ひとまず汚れた服を脱がせただけで後は何もしてないから」


「分かりました」


 俺は夏乃さんのアドバイスを受け入れて浴室へと向かい始める。吐いた後特有の匂いが少し気になった事もあったが、口元が緩んだ表情をこれ以上夏乃さんに見られたくはなかった。

 扉の前でパンツを脱いで浴室へと入る俺だったがすぐに普通ではない事に気付く。なんと浴室の壁はガラス張りで完全にスケスケだったのだ。

 そう言えばここってラブホテルだったな。そんな事を思っているとガラスの先にいた夏乃さんは悪戯が成功した子供のような表情を浮かべていた。絶対知っていて黙っていたに違いない。


「マジで落ち着かないな」


 以前箱根旅行をした時にお互いの裸は既に見ていたためそこはあまり恥ずかしくなかったが体を洗っている姿を見られる事には少し抵抗がある。だから俺は素早く体を洗って湯船に浸かってからすぐに出た。


「……そう言えば母さんに何も連絡してないじゃん」


 晩御飯を食べて帰る関係で帰りが遅くなるとは事前に連絡していたが、流石に日をまたぐとまでは思っていなかったに違いない。


「ああ、今日は私と泊まりがけで勉強会をしてる事にしておいてあげたから心配しなくても大丈夫だよ」


「ありがとうございます……って、ちょっと待ってください。今泊まりがけって言いませんでした?」


「うん、確かに言ったけど」


「ひょっとしてまさか今日はここに泊まる気ですか?」


「そうだよ、今から家に帰るのも面倒だし」


 夏乃さんは平然とそう言い放った。ラブホテルに泊まるのは不味くないかと思う俺だったが、よくよく考えたら一緒に中へ入っている時点でもはや今更か。


「時間も遅いのでそろそろ寝ますか?」


「えー、恋バナはしないの?」


「それは箱根旅行の夜に散々話したのでもうこれ以上はありませんって」


 どれだけ恋バナがしたいんだよ。そもそも夏乃さんの好きな相手は俺なんだから聞いても仕方がない。


「なら今回は勘弁してあげる」


「じゃあ電気を消しますよ」


「うん……もし夜這いをするならちゃんとコンドームを付けてね」


「き、急に何を言い出すんですか!?」


 恥ずかしそうにもじもじする夏乃さんの表情を見て激しく情欲をそそられる俺だったが手を出すつもりは一切無い。ダブルベッドしかないため一緒に寝ざるを得ないが絶対に耐えて見せる。俺は内心で一人そう決意をした。

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