第39話 結人があまりにも激しかったせいで色々なところがドロドロになったから本当に大変だったんだよ

「……あの、二人ともあんまり俺の体に密着しないで貰えませんか?」


 カラオケルームに入ってからそろそろ一時間ほどが経つわけだが、俺は夏乃さんと上白石さんの二人からピッタリと密着されて身動きが取れなくなっていた。歌っている最中もとにかく二人はお構いなしだ。


「結人が嫌がってるので上白石先輩はもう少し離れてください」


「まず夏乃ちゃんが結人君から離れたらどうかな?」


「どちらでも良いので早くどうにかしてください」


 童貞の俺にはあまりにも刺激が強過ぎるのでそろそろ勘弁して欲しい。ちなみ理工学部の先輩はタバコを吸いに他のフロアにある喫煙所へと行ってしまったため今この部屋にいるのは俺達三人だけだ。

 明らかに夏乃さん狙いな理工学部の先輩は最初頑張って気を引こうとしていた。だが夏乃さんがあまりにも塩対応だったせいで完全に戦意を喪失してしまったらしい。

 見た目に反してかなり繊細だったようだ。どう考えてもメンタルが強そうな見た目にしか見えなかったため正直かなり意外だった。

 人は見かけによらないとはよく聞くがまさにこの事だろう。可哀想なので戻ってきたらせめて俺だけは優しく接してあげる事にしよう。

 そんな事を思いながら一曲歌い終えた俺は喉が渇いたためテーブルの上に置いてあった烏龍茶の入ったコップを手に取って一気に飲み干す。

 その瞬間体が熱くなり視界が激しく歪み始める。突然の事に立っていられなくなった俺はそのままシートに倒れ込む。


「えっ、もしかして私の烏龍ハイ飲んじゃったの!?」


「ちょっと結人、顔が真っ赤だけど大丈夫!?」


 夏乃さんと上白石さんは俺の様子に気付いて激しく慌て始める。どうやら俺は自分がドリンクバーで入れてきた烏龍茶を飲んだつもりだったが間違えて隣に置いてあった上白石さんの烏龍ハイを飲んでしまったようだ。

 まさかこんな形でアルコールデビューするだなんて正直予想外だった。酒にかなり強い体質の母さんに対して父さんは真逆なため一体どっちに似ているのだろうと前々から思っていたがこの感じ的に俺は弱いようだ。

 今日この後ちゃんと家まで帰れるかな。そう思った事を最後にしてそこから先に関しては全く記憶に残っていない。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「知らない天井だ……」


 目を覚ました俺は昔から一度は言ってみたかった某有名アニメに登場する主人公のセリフを口ずさみながら起き上がる。

 どうやらベッドの上にいるようだが全く見覚えがない。ひとまず頭の痛みを我慢しながら眠る前の事を思い出し始める。


「……そうだ、合コンの二次会で行ったカラオケで間違えて烏龍ハイを飲んたんだっけ」


 あの後どうなったんだろう。てか、そもそもここは一体どこなんだ。そんな事を思いながらポケットに手を入れようとして自分がズボンを履いていない事に気付く。

 それどころかTシャツも身に付けておらず完全にパンツ一丁の状態だった。もしかして酔っている間か寝ている間に自分で脱いでしまったのだろうか。

 ひとまず俺は現状を確認するために枕元に置かれていた自分のスマホを手に取る。画面に表示された時間は二十四時前だったため酔っ払って記憶が飛んでからそこそこの時間が経過しているようだ。

 とりあえず地図アプリを開いて場所を確認しようとする俺だったが現在地として表示された場所を見て思わず声をあげる。


「えっ!?」


 俺が今いるこの場所はカップルや夫婦がそういう目的で休憩をしたり宿泊したりする施設、世間一般的にいうラブホテルだった。

 まさか俺は酔った勢いでとんでもない事をしてしまったのではないだろうか。俺が一人でパニックを起こしていると扉の開くような音がする。


「あっ、結人起きたんだ」


 現れたのはバスローブ姿の夏乃さんだった。夏乃さんの体から湯気が出ている事を考えると恐らくシャワー後か風呂上がりらしい。


「結人があまりにも激しかったせいで色々なところがドロドロになったから本当に大変だったんだよ」


 夏乃さんはかなりスッキリした顔でそう口にした。やはり取り返しのつかない事をしてしまったようだ。俺はパンツ一丁のまま跪いて床に頭を擦り付けながら土下座をする。


「俺のせいで夏乃さんを傷付けてしまって本当に申し訳ございませんでした、万が一の時は高校を卒業したら就職してすぐに働きます」


「急にどうしたの?」


 俺の行動を見た夏乃さんは状況が理解できないと言いたげな表情を浮かべており困惑している様子だった。


「えっ、酔った勢いで俺が夏乃さんに手を出してそのまま男女の関係になったんじゃ……」


 俺のつぶやきを聞いた夏乃さんは一瞬黙り込んだ後、めちゃくちゃ恥ずかしそうな表情を浮かべて大声を出す。


「そ、そんなわけないでしょ!?」


 夏乃さんは色白の肌を顔から足の指先まで真っ赤に染めていた。ひょっとして俺は一人で早とちりをして凄まじい勘違いをしてしまったのだろうか。

 とにかくお互いに落ち着くまでまともな会話が出来なかった事は言うまでもない。

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